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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第四十五話 地獄の盟主×危険な賭け②

 当然のような(ツラ)をしてギルガンドも付いてきた。

しかし【地獄横町】に上級武官の格好で行くと恐ろしくややこしい事になるので、【よろず屋アウルガ】に積み重なるガラクタの中から苦労して引っ張り出した、酷く汚れた外套で隠している。


 【地獄横町】――貧民街の住民でさえ恐れて近寄らない暗黒街である。

ここでは薬物や毒薬の売買は当たり前だし、『呪爆物』のような恐ろしい違法品も相応の金さえ払えば手に入れられる。

甘ったるい腐臭を吸いながら、違法建築の建物に押し潰されるようにして存在する、裏のルートで流れてきた宝石や豪華な衣服(※全て盗品)、薬物や毒薬を堂々と商っている露天商達が並ぶ細い通りを抜けると、いよいよ【地獄横町】の真骨頂――暗殺結社【致死の赤】の領域(テリトリー)の地下街がある。


 ロウが地下街に入ろうとすると、フード付きの外套で身体を隠した連中が音も無く出現して、オレ達の前後を囲んだ。

「【血の赤は何よりも忌むべき色】」

しかしロウが合い言葉を言うと、すっと音も無く消えてしまう。

「……符牒か」

密かに刀に手をやっていたギルガンドが手を外した。

「俺も知るのに散々に苦労したさ」

ロウはそれだけ言って、真っ暗な地下街へ顔を向けるのだった。




 地下街は汚れた暗黒の世界なのかと思いきや――とても穏やかで清浄な世界だった。

柔らかな白い光を放つ小さな花が通路の左右に競い合うように咲いていて、芝生のような草が通路を示すように床一面に生えていた。

壁には緑の蔦がびっしりと張っていたが、その蔦を更に覆うように無数の色鮮やかな花のつぼみが大きく膨んでいた。

天井全域を覆う苔は呼吸するかのように淡く強く発光していて、まるで波打つ光の海のようだった。

小さな蝶達が花の蜜を吸い、蜜蜂が遊ぶように円を描いて飛んでいる。


 地獄と名付けられたはずなのに、何処までも安らかな緑が埋め尽くす静かな地下空間――。


 「……これは」

思わずギルガンドが足を止めた瞬間だった。

地下であるにも関わらず、突如、疾風が辺りを駆け抜けた。




 「困りますよ、ロウさん。【閃翔】なんかをここに連れてきちゃ」


 ――その疾風と共に、男はオレ達の前に登場したのだった。




*******************

 薔薇。

艶のある白と凜々しい赤の薔薇だけが埋め尽くす、小さな薔薇の温室が地下に作られていて、そこに通されたオレ達へ洒落た椅子に腰掛けるように勧めた後。


 「それで?また何の用でここに来たんです。あの件だったら先日にお伝えした通りに、丁重にお断りしたはずですが――?」

喉元まで覆うきっちりとした服、手袋まで着けて顔以外の肌を見せていないこの男は、手ずから赤い薔薇の花びらを浮かべた紅茶を淹れて、オレ達に出した。

ロウが落ち着いた態度で飲んだ事で、オレ達も恐る恐る口を付ける。

……あ、美味しい。

「これを直せるか。妹を暴行しようとしたこの変態野郎にへし折られたんだ」

と言って、ロウは綺麗に真二つになった杖を差し出した。

男は杖を手に取ってじっくりと観察した後で、

「ああ、久しぶりに見ました……。まだ生きている『愛の枝』……ええ、私達なら直せますよ。

しかし【閃翔】にも強姦趣味があったなんて初めて知りました。いや、失敬、言葉遣いが不適切でしたね。――全く!帝国貴族のご趣味は先祖代々相も変わらずお素晴らしい事で!」

ギルガンドが神速で抜刀したのでオレ達は椅子から転がり落ちた。

「ひいえーっ!?」

「我が父祖まで侮辱するか!」

止めろ、ここで暴れるんじゃねえ!

【閃翔】はどうって事も無いだろうが、オレ達の正体が露呈するかも知れないんだ!

「それが何か?」

優雅に笑った男は、目を細めたまま服の胸元をはだけた。

「かの【閃翔】!ギルガンド・アニグトラーンの名でしたら!誰よりも大きく!――ここに刻んでおきますから」

はだけられた胸元――いや、体中には、びっしりと細かい文字で人名が刺青されていた。


 (……最悪な耳無し芳一だ)

 (今まで暗殺した者の名を全身へ刺青として刻んでいるのだな……)

 (なあ、気付いたんだけどさ――うぷ、オェエエエエエエエエエエエエ!)

 (吐くな、もう手遅れだ。……殺した者の身体を、これらの花やあの草木の肥料に用いたのだろうから)


 「全部後にしてくれ、後に」

ロウだけがのんびりと紅茶を堪能した後で、男の方を向いた。

「そんな事よりもう一度取引をしよう、キアラード」

「……取引?」

男――キアラードは呆れた表情を浮かべ、身なりを丹念に整えてから、

「ロウさん、あの件はお断りするとさっきも申し上げた通りですが?」

「そう言わずに、まあ、こっちの話を最後まで聞いてくれ。アンタにとっては恐らく人生最高の朗報だぞ」

ロウはあっさりと言った。

「キアラカちゃんが【吸血鬼】の娘を産んだ。母子共に健康で、皇太子は目に入れても痛くない程溺愛しているんだと。来年辺りに正式にお披露目される予定らしい。名はキアラーニャ。キアラーニャ・カドフォス・ガルヴァリーノス。正真正銘のアンタの孫だ。

ザルティリャが残っていたら、未来の女王様だったろうにな……」




 ――キアラードはしばらく俯いたまま震えていた。

しかし、ややあって顔を上げて、

「それは……何時……何時……何処から手に入れた情報なのですか?」

絞り出すように、言った。

「妹からだ。知っているだろう、帝国城で官僚をやっている。キアラカちゃん直々に呼び出されて、アンタにどうか伝えて欲しいと頼まれたそうだ。本来なら機密扱いだが、アンタは絶縁したとは言え実の父親だ。……少なくともキアラカちゃんは今でもそう思っているらしい」

「……キアライアが生きていたらどれ程喜んだでしょうかね」

物憂げに紅白の薔薇を見やってから、再びキアラードは項垂れる。

「ロウさん、そいつは禁じ手ですよ……全く。一体ここまでして、何の情報が欲しいのですか?」

「ハウロットとニテロド一族に関して知っている全部の情報を教えてくれ。どうにもきな臭いんだよ」

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