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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第三十七話 羨望そして憧憬×美のための犠牲

 ギルガンドから依頼された刀の修復だけは彼の全てを擲つようにして完了させたが、ソーレはその日から様子がおかしくなっていった。


 最低限の仕事はする。

だが、常に上の空なのだ。

かと思えば妻子相手に『珍しい猛獣を飼いたい』と突然に話し、自ら頑丈な鉄の檻を作り出す。




*******************

 妻マニィは最初、夫の精神的な病の発症を疑った。

貴族の男が何の前兆も無くこんな奇行に走ったのだから、無理も無い。




 元々ソーレは、マニィに対しては変わった一面を見せる男であった。

ソーレは周りからはとても優秀で貴族的な男だと言われていたが、彼女への交際の申し込みは情熱的そのもので、しつこいくらいに何度も迫ったり、かと思うと彼女の前でひれ伏して『どうかこの無礼を許して欲しい』と泣いて詫びたりと、全く落ち着いた様子を見せなかった。


 たまたまソーレの近くにいたオユアーヴの顔が、幼くして死んだマニィの兄に似ていたから、女官として働いていた時に時々視線を向ける事はあったけれど――その中に兄妹愛の名残はあっても男女の思慕は無かったと断言できる。

それよりも彼女は、何度も己へと『お慕いしてしまったのです』と直言するソーレに次第に心惹かれていた。

家族や友人に相談すれば、『若くして【御印工房】の頭領となった男だし、悪い話も聞かない』『家柄にも何ら問題は無いし、むしろ玉の輿では』『素敵な人からあんなに熱情的な想いを向けられるなんて羨ましい』『若い者の恋愛では多少の行き過ぎた行動は良くある事』『【赤斧帝】からの覚えもめでたい出世株、もたもたしていれば横から奪われてしまう』等々と言われ――彼女はとうとう結婚を前提とした交際を承諾したのだった。




 しかし、交際中、彼女はほんの僅かに違和感と疑問を覚える出来事があった。

たったの一度だけだったが、あった。


 それは、お互いの両親に結婚を考えている相手だと交互に紹介した後であった。

二人で帝都の近くを流れるガルヴァリース大河を行き来する、貴族向けの豪華な遊覧船に乗り、寄り添って川面に沈む夕日を眺めていると、不意にソーレが呟いたのだ。

「オユアーヴに……告げなければ」

「えっ?」

どうして今、その男の名前が出てくるのか?

困惑した彼女はソーレの顔を見上げた。

ソーレは少し寂しそうな目付きをしていた。

「マニィ、君がオユアーヴの姿を目で追いかけている事は知っているのだ」

急に猛烈な羞恥心が襲ってきて、マニィは目を伏せた。

「違うのですソーレ、あれは……!」

貴方に向けている、この燃え上がるような気持ちとは全く異なった、ただの過去の哀悼の名残なのです。

「構わない、私は君を真心から慕っている」

そう言ってソーレが優しく彼女を抱き寄せて、額に接吻した。

震える程の嬉しさと同じ量の申し訳なさに苛まれて、ソーレの胸に抱かれながらも彼女は何度も慌てながら謝る。

「本当に違うのです!私が一方的に、身勝手に!」

兄の面影を投影していただけで――実際のオユアーヴと来たら無愛想で人付き合いもしない、ソーレとは比べるのも失礼なくらいに冴えない小男なのだ。

何て恥ずかしい。

何てみっともない。

これだけは――そう、これだけは愛するソーレに知られる前に、彼女自身の手で抹殺すべき黒歴史だった!

「ああ、何て可愛い女性(ひと)なんだろう……」

優しく彼女の背中を撫でながら、ソーレは囁いた。




 でも、と後になってマニィは考えてしまうのだ。

オユアーヴは一度だって彼女の方を見なかった。

いつだって見つめていたのは美しい刀剣だけ。

最悪、マニィと言う名前の女官がいた事さえ知らなかったのでは無いだろうか。


 こんなにも聡いソーレがその現状に気付かない訳が無いのに、どうして『オユアーヴに……告げなければ』と言ったのだろうか?

告げるにしても、何と言うつもりなのだろう――?




 結婚してすぐに彼女は健やかな一児レコトを授かり、我が子にもソーレは直向きな愛情を注いだので、マニィはその違和感は心の隅にしまいこんで、数年後には半ば忘れかけていた……。




*******************

 【寵臣達】の最たる代表であったニテロドの一族が、皇太子ヴァンドリックと敵対した事で徐々に没落している事は誰もが知っている。

【破斧の戦い】で【赤斧帝】に味方したため、彼らからは最初に軍事力が奪われた。

後は真綿で首を絞める様に財力を削がれ、要職を追われ、僻地に左遷され――。

残る【寵臣達】もどうやって今後を生き延びていくかについて、必死に知恵を働かせ陰謀を巡らせている。




 サティジャ・ブラデガルディースは年に見合わぬ妖艶な微笑みを浮かべながら、急な来訪者を歓迎した。

「どなたかと思えば、ソーレおじ様ではありませんか。我が館においで下さったと言う事は……」

「ああ、そう思ってくれて間違いない」

ソーレは爽やかなくらいの笑顔を浮かべる。

サティジャ直々に案内され、彼はブラデガルディースの館の応接間に通された。




 円卓を挟んで二人きりで向かい合って座った後。

サティジャは胸元から【神の血】を取り出すと、掌に乗せてソーレの方へと差し出したのだった。

「これをお求めだったのでしょう?」

「ああ。ようやく決心が付いたのだよ。それで、これの代金についてだが――」

「代金は要りませんけれど、ソーレおじ様に教えて欲しい事が一つございますの」

「ふむ……。何だね?」

「【魔法付与】の技術についてですわ」

「別に構わないが、何に使うのか聞いても良いかい?」

「ええ」

サティジャは両手を合わせて、はしゃぐかのように言った。

「【神の血】を改良しようと考えておりますの。もし宜しければ、誰よりも【魔法付与】についてお詳しいソーレおじ様にもご協力願えないでしょうかしら……?」

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