第三十二話 ストーカー誕生×ストレス爆増中
目覚めたギルガンドから『シャドウ』について一連の報告を受けた皇太子は、そのまま黙り込んでしまった。
己でも一度は口にした可能性ではあるが、とても信じられない――と言うのが率直な感想である。
が、ここにギルガンドが生存している現実が、その事実を信じるしか無いと如実に教えていた。
「私達の他にも【精霊】を従える者が、在野に……」
【V】を逃がすのが目的だったならば、ギルガンドの命を助ける訳が無い。
まるでギルガンドの窮地に合わせたかのような登場の仕方である。
しかし己が【精霊】を従えていると名乗り出ない所から考えるに、こちらの味方寄りの立ち位置ではあるけれども、積極的に連動・協力するつもりでは無く、『シャドウ』の事情によって自由に動いている――そんな所だろうか。
「――回復し次第、引き続いて『シャドウ』を追うように。殺してはならぬ。【精霊】を従える者は帝国城にて厚く保護せねばならぬからな」
「はっ!」
承諾するギルガンドから目を逸らして、ヴァンドリックは内心で呟く。
(【ロード】、『ガン=カタ』とは何だ?)
(私の生きていた時代にはそのような言葉は存在しなかった。銃なら嫌と言うほどに馴染みがあるが――)
(では、【ロード】の生きていた時代の未来から来ていると?)
(恐らくは……な。何にせよ『シャドウ』は我らの敵ではないと確定したのだ、それだけでも喜ばしいぞ)
(……そうだ。喜ぶべき事だ。本当に、良かった――)
ヴァンドリックは静かに微笑む。
(――道化師の手でギルガンドの翼は呪いの籠から解き放たれた。正義とは常に苦いものだが、それでも常に正義である事を目指す。まるで大鳥が生まれながら青空を目指すように――)
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「なあ……ロウさん何をやったんだあ……?」
「クノハルちゃんが官僚になったって聞いたけど……よっぽど悪い事をしたんじゃないかあ?」
「馬鹿を言うなあ!」
「親族が連座されるほどの悪さを、あのクノハルちゃんがするかよぉ!」
「そうだあ、そうだあ!」
「きっとロウさんが悪いんだぜ!」
「お貴族様相手に何かしちまったんだぞぉ、ありゃあ!」
「ああ、間違いねえぞぉ!」
「お貴族様を怒らせると怖いって、死んだばあちゃんが言っていたんだあ!」
「うへえ、ロウさん相変わらずの命知らずだあー!」
「おっかねえ、おっかねえ……!」
「【よろず屋アウルガ】も今日でお終ぇたあ、びっくりだあ!」
……【よろず屋アウルガ】の玄関に貧民街の連中が集まって、そんな根も葉も実も無い噂話をしている声が聞こえてくる中。
「――それと俺は関係ないと言っているだろうが!」
ロウは苛々しながら杖で地面を小突きまくっている。
(お、おかしいな!?あれー?おかしいな、テオ?本当に、何でだー!!!)
(……急所こそ外したが、数ヶ月は動けないくらいの傷を与えたはずなのに……)
「ならば貴様より『シャドウ』に詳しい者の名前を挙げてみろ!」
……超の付く美形が真顔で詰め寄ってくると本当に怖いんだよなあ……。
「俺じゃない!俺は知らん!知らんから知らんとしか言わん!」
とロウはふて腐れた態度でそっぽを向く。
(ごめん、ロウ。助かった……)
(そこで僕達の名前を出していたらクノハルも道連れにしなければならない所だった)
あれ程の重傷を負わせたのに、ギルガンドのヤツが数日後には復活して、朝から【よろず屋アウルガ】に襲来したのだ!!!
「『シャドウ』は情報を買いにこのあばら屋に来る事があるのだろう?」
既にいるぜ。
穴だらけの壁に貼り付いて、ゲイブンのフリをしているけどさ。
「ならば、ヤツが来るまで見張るだけだ!」
(ストーカーだぞ!居座り型の最悪な粘着ストーカーだぞ!?)
(これは、居直り強盗より悪質だ……!)
「ゲイブン、出かけるぞ!」
ロウが大声を出して立ち上がった。オレ達は、「へい!へい~っ!」と裏返った声で返事して『休み』の看板を下げる。
「何処に行くつもりだ!」
ああああ、これは非常にマズい。
ギルガンドはオレ達を尾行するつもりだ!
「絶対に付いてくるなよ!特務武官様が後ろにいたら入り口で通行止めをくらうからな!」
邪魔だって言っているのに、しつこくギルガンドはロウに迫る。
「何処に行くのかと聞いている!」
機嫌が悪い時のロウの憂さ晴らしと言えば、酒・女・賭博の全部だ!
「……随分と察しの悪い特務武官様じゃないか。なあ、ゲイブン?」
ロウ、許してくれ。
『助けろ!』と暗に言っているのだろうが、こっちだって正体がバレないために必死なんだ!
「お、おいらに振らないで下さいですぜーっ!ひーっ!?こっちを睨まないで下さいですぜーっ!」




