第三十〇話 雁字搦めの呪翼×踊る影の道化師
「――ガン=カタForm.12『ハングドマン』!」
(噂通りの飛び道具)
(魔導銃の一種か)
(だが威力と連射性が違う)
(体を奪われたとは言え、私の一閃を全て躱し)
(同時に魔弾を命中させる)
(何と言う強さだ)
(複数の【虚魂獣】を相手取り)
(無双したとの情報は事実だったか)
(ああ)
(一度で良い)
(『シャドウ』と戦いたい!)
「な、何故だ!」
とうとう口から血反吐を吐きながら、ギルガンドの体を奪った者は膝を突いた。
刃こぼれした白刃を杖に立ち上がろうとするが、容赦の無い一発が胴体に命中して前のめりに倒れる。
「こ、この者の体はっ!アニグトラーンの……ッ!!!それが、どうして貴様のような、無礼者ごときに……」
「決まっているじゃねえか!」
「貴様が【閃翔】ではないからだ!」
「寄生虫の分際で態度がデカい!」
「消え失せろ、この場で!」
『シャドウ』の背後で何かが動いたのをギルガンドは探知する。
それは不可視の存在であったのにも関わらず、確かにギルガンドの体に触れて――。
「引っ繰り『還して』やる!」
凄まじい衝撃と呼吸さえ出来ない苦痛がギルガンドの体を襲った。
まるで脳内と臓腑に透明な手を突っ込まれて、滅茶苦茶にかき回されているようだった。
体中の血液が逆流し、骨すらも歪んでいくような圧力と激痛。
彼には分からなかったが、彼の体内の【瘴体】が強制的に魔力へと還元されているのだった。
時間をかけてゆっくりと還元していくのならばともかく、あまりにも無理矢理が過ぎた。
だが。
拷問のような苦痛に呻く事さえ出来ないでいたギルガンドの――彼の体内を乱暴にかき回していたその手が、【瘴体】を失ってもなおとうとう彼の体内をしつこく逃げ回っていた『呪詛』と言う名の寄生虫の尾を掴み、そのまま体外へと引きずり出す事に成功したのだった。
『ヤメロ、ヤメロ!ナニヲスル!ハナセ!』
その芋虫に似た寄生虫には人面が付いていて、キイキイと甲高い声で人語を話した。
「何をするって?」
「こうするだけだ」
――ブチン!
靴底で寄生虫を踏み潰し、『シャドウ』はギルガンドの側にかがみ込む。
彼に意識があって呼吸をしている事を確認すると、『シャドウ』はすぐさまその場から立ち去ったのだった。
「待、て――」
ギルガンドは血まみれの手を伸ばす。
後を追わねばと思ったそこで、とうとう意識が絶えた。
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逃げなければ――。
相手が悪すぎたのだ。
気絶している【V】を抱きかかえながら【スレイブ】は【滅廟】の外を疾走している。
【閃翔】は倒せなかったが、最大の目的は果たした。
だから、この場は逃げるべきだ!
「おい」
反射的に振り返った【スレイブ】の視線の先には、盲目の男が立っていた。
『間違いないわ、あれは【精霊】よっ!「視える」わよねっ?』
「ああ。しっかりと「視える」ぞ」
――その肩に小柄な【精霊】を座らせて。
「ぐうっ!!!」
咄嗟に【スレイブ】は生えてきたばかりの舌をもう一度噛み切って、男達目がけて血煙を吐きかけた。
「っ!?」
『きゃあっ!?』
男達が怯んだ一瞬の隙を突いて、脱兎のごとく【スレイブ】は逃げおおせたのだった。
「……逃がしたか」
ロウはパーシーバーの背中にべったりと付いた血煙を拭って、溜息をついた。
『大丈夫、ロウ!?怪我はしていない!?』
咄嗟にロウを庇った【パーシーバー】に、安心させるように頷いて見せて、
「ああ、しかしこれじゃ鼻が利かないな。困ったぞ。【パーシーバー】、『シャドウ』の方は――」
『大丈夫、足音が聞こえるわ。もうすぐここに来るでしょうから、一緒に【よろず屋アウルガ】に帰りましょっ!』
――二人は気付いていない。
その血煙の中には薄らと『呪詛』が存在していた事を。
血生臭さの中に完全に紛れていたし、そもそも、とても小さな卵に近しい状態でパーシーバーの体にくっついていたから。
それはやがて孵化し、音も痛みも無くその小さな体内に潜り込んで時を待つのだった――。




