第二十九話 呪いなんか×笑い飛ばせ
――そうやって再会した彼女は、包帯で顔を覆っていた。
「……。ユルルア姫、僕に、どうかその顔を見せてくれ」
「もう嫌です。男は私を裏切って捨てます。大事な人を殺します。男なんて、みんな死んでしまえば良いのだわ」
そう言って、つんざくように――けたたましく彼女は笑った。
「ほら、この顔!醜いでしょう?アルドリック殿下から『バケモノ』『捨てられ姫』と呼ばれましたわ!」
掻きむしるように包帯を取ったユルルアちゃんは、ばあ、とまるで戯けるようにアザまみれの顔を突き出した。
(トオル、頼む)
(仕方ねえな……)
テオがよろよろと寝台から起き上がって、ユルルアちゃんの方へ歩き出す。
オレが破壊されたテオの下半身の機能を肩代わりする事で、辛うじてこの移動が出来るのだ。
もっとも、神経そのものを抉られるような激痛が常に――体を同じくしているオレ達を襲う。
「えっ……?!」
オレ達が下半身不随で動けないと思っていたのだろう。
固まっているユルルアちゃんに近づくと、テオは彼女にキスをした。
「僕は君が好きなんだ。醜くてもバケモノになっても。これ以上君を泣かせないように、喜んで僕は道化師となろう」
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『呪い』を無効化するのって『笑い』なんじゃないかと思うんだ。
どれ程に相手を呪い、怨みの言葉を吐いたとしても、そんなもの下らないと腹を抱えて笑われ、無価値だと見なされれば何の効果も無い。
効果の無い呪いは、ただの行き場を失った感情の塊でしかない。
その感情さえも、笑いで中和されてしまう。
……とは言え。
オレ達も【黒葉宮】で暮らして一月くらいで、ユルルアちゃんの顔のアザと『呪詛』が綺麗さっぱり消えるなんて思わなかった。
「どうしてでしょうね?」
「どうしてなのだろうな?」
テオもユルルアちゃんも首をかしげるが、最初は理由がちっとも分からなかった。
(【精霊】の……トオルの【スキル】か?)
(うーん……オレの【スキル:ジョーカー】のおかげなのか……?)
(【引っ繰り返すスキル】……か。確かに一見すると無関係のようだが……)
(まさかとは思うけどさ。四苦八苦してユルルアちゃんを笑わせようとしていたら……何かを【引っ繰り返した】のかなあ?)
「それだ!」
いきなりテオが大声で叫んだので、テオに寄りかかってウトウトと昼寝していたユルルアちゃんが飛び起きた。
「て、テオ様……?!」
面食らうよな、そりゃ。
「あ……驚かせて済まない」
テオは申し訳無さそうにしたのだが、
「いえ……あの、何が、『それだ』なのですか?」
ユルルアちゃんはニッコリと笑って聞いてくれた。
この子は本当に良い子なんだよなあ……。
もっと悪くなって良いんだぜ……?
テオにぶちのめされそうだが、悪いユルルアちゃんも最高な気がする。
「引っ繰り『還して』しまえば『呪詛』には何の意味も無くなる。『呪詛』が【瘴体】を自由自在に操る力ならば、操る先の【瘴体】を魔力に還せば良い……」
え、と小さな声を漏らした彼女の肩を掴み、テオは目を輝かせて告げる。
「そうすれば【瘴体】に宿っていた『呪詛』とて、病巣を失い自然消滅するしか無くなる!
そうだ!呪われていた君はもう自由になった、ユルルア!」
「本当に……?」
「本当だとも!」
ユルルアちゃんの目に大量の涙が浮かんで、ボロボロとこぼれる。
「……ねえ、ねえテオ様、私、ずっと悲しくて、ハビが殺された事も、呪いを肩代わりさせられた事も、捨てられた事も、ハビのご両親が【獄人】にされた事も、ずっと、悲しくて、どうしようも無くて……」
泣きじゃくる彼女を抱きしめて、テオは出せる限りの優しい声で囁いた。
「ほとぼりが冷めたら必ずハビとご両親を一緒に眠らせてやろう。彼女は愛する君を守ろうとしたのだから」




