第二十七話 復活した男×解き放つ者
【滅廟】の最深部の灯りは全て消えていた。
ギルガンドが携帯照明を付けると、あれ程に苦労してコンクリートの塊の中に【タイラント】諸共、生きたまま封じ込めたと言うのに――そこに大穴が空いて、辺りには破片が飛び散っていた。
やられた!
いつからだ!
誰が首謀者だ?
ギルガンドが歯ぎしりしつつも、痕跡を探そうと携帯照明を床に置いて近づいた時。
「【閃翔】ダナ」
背後に気配がして、その気配の持ち主が襲いかかってきた。
完全にギルガンドの不意を突いた形だったが、この場合は相手が悪すぎた。
「遅い」
一瞬で変態的な軌道を描いて攻撃を避けたかと思うと、ギルガンドは逆に敵の背後を取って首筋を峰打ちにしている。
首の骨が折れないよう手加減はした。
悲鳴さえ出せずに敵の体は吹っ飛び、そのまま地べたに崩れた――のだが。
『【V】!』
その首から下が、分離して動き出したのだ。
いや、首から下には別々の人間が入っていて、さながら二人羽織のように一緒に動いていたと言う方が正しいだろうか。
その下側目がけてギルガンドは捕縛用の投網を投げた。
『グアッ!?』
絡まって藻掻く下側を放置して、ギルガンドは上を担当していた方の黒い覆面を剥ぎ取った。
彼は目を鋭くする。
「――子供か」
明らかに【固有魔法】も発現していないであろう年頃の幼女。
ギルガンドは迅速にその手足を拘束すると猿ぐつわを噛ませ、次いで投網に絡まっている男に身構えながら慎重に近づいた。
【赤斧帝】の脱獄に間違いなく関係しているであろう、この両名は捕縛、生きたまま連行しなければ。
男は『【V】!』と鋭く叫ぶなり、己の舌を噛み切った。
まるで血煙のように、男が口から大量の血の雫の混じった血の霧を吐く。
ギルガンドは当然のようにこれも躱して、男を急ぎ取り押さえようとした。
だが。
『我が呪詛の成就の妨げはさせぬ……』
その血の臭いを嗅いだ瞬間、ギルガンドの体の動きが鈍った。
毒では無かった。
いっそ猛毒や劇毒の方が、彼にとってはどれ程マシであっただろうか。
――文字通りに糸が切れた人形のようにギルガンドは前のめりに倒れる。
手放した刀が、目の前で地べたに突き刺さって携帯照明の光に反射する。
「あ、ぐ――?!」
何が起きたと必死に視線だけでも動かして探ろうとする彼の目に、白刃に映し出された己の顔が見える。
「っ!」
彼は瞠目した。
――あのアザがびっしりと顔を覆っていたのだ。
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男がどうにか投網を破って幼女を抱きかかえて、よろめきながらも逃亡する後ろ姿を睨み付けながら――とうとうギルガンドの意識は曖昧に濁りだし、明滅を始めた。
どうしてだ。
ここで終わるのか。
まだ母の命日では無いのに。
何も務めを果たせないまま、こんなにも静かな場所で――、
しばらくすると。
全身をアザに飲み込まれたギルガンドの体が、ギクシャクと動き出す。
当初は操り人形じみた不気味で不自然な動きをしていたが、やがて床に突き刺さった刀を抜いて、満足げに刃に映した顔を見つめながら頷いた。
「この体。中々に気に入ったぞ。下賤の分際と言えど、二度も朕を討ったアニグトラーンの子孫であるか……」
「【固有魔法】が【飛翔】ではない……?【閃翔】の体を奪った貴様は誰だ!」
(……誰だ)
――ギルガンドの意識がぼんやりと浮かび上がった。
まるで透明で頑丈な箱の中に閉じ込められて海に沈められた時のように、外界と完全と遮断されているにも関わらず、その声だけは確かに彼の元へ届いたのだ。
「無礼者めが!何奴ぞ!」
激しい誰何の声が放たれた瞬間――携帯照明の光がその男の姿を暗闇に、月光に照らされた影のように浮かび上がらせる――。
(まるで夜に踊る影のような黒装束)
(泣いているがごとき笑顔の道化師の仮面)
(武術を修めた者特有の隙の無い身のこなし)
(両手にそれぞれ白銀の武器と黒鋼の武器――)
「誰と聞かれたら応えてやろう」
「ガン=カタを愛する者として!」




