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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第二十五話 危険な焦燥感×呪われた一族①

 『最悪』だ!


 ギルガンドは己相手に襲いかかってくる近衛兵をなぎ倒しながら【滅廟】の最深部に突き進む。

本来ならば特務武官の彼相手に、いきなり近衛兵が襲いかかってくる事はあり得ない。

この近衛兵達の魂の大部分も……先ほどの【虚魂獣】に密かに喰われてしまったのだろう。


 既に緊急通信は飛ばした。

遅くても十分以内に帝都から【帝国十三神将】と精鋭部隊が駆けつける。

だが、既に手遅れかも知れない――。


 これは『最悪』だ!

 稀代の暴君【赤斧帝】が自由の身となった事が最悪以外の何だと言うのだ!




 ギルガンドには理解できている。

こうして単騎で【滅廟】に突入する事がどれ程の愚行か。

応援を待った上で行動しなければ、最悪、彼でさえ返り討ちに遭うだろう事も。

それでも、彼は自滅的に単騎で突入するしか無かった。


 かつて彼が【赤斧帝】からの理不尽な命令に反抗した時、無辜の村が三つも焼き払われ、村人は殺された。

あの惨劇が繰り返されるのかと考えただけで、彼はその場にじっとしている事だけは出来なくなったのだ。




 『正義と言うものが実際に正義であれば、どれ程に良かっただろうか。此の世の正義は残念ながらいつも苦い……』

彼が唯一、主君と仰ぐヴァンドリックの言葉が蘇る。

しかしそれを追いかけるように、

『おまえのお爺様は、間違いなく、正しい事をなさったの……だから、決して恨まないで……』

亡母のか細い声が思い出されたのだった。




*******************

 幼い頃、ギルガンド・アニグトラーンはとても大きくて立派な館で暮らしていた。


 館を囲む広大で壮麗な庭園の一角には可憐なたたずまいの花樹があって、何でもその木は異国から嫁いできたものの若くして亡くなった高祖母が嫁いできた時に苗木を持ってきて、手ずから植えた株だと聞いていた。


 彼の両親、祖父母、叔父に叔母、従兄姉に又従姉兄、他にも大勢の親族が一緒に暮らしていて、婆やから料理人から園丁から護衛に御者のような召使いも数多いて、いつでも館は人で賑やかで、静かな時なんて一瞬も無かった。

大きな私設の蔵書庫の中で、ギルガンドは年上の従兄姉や又従姉兄達とかくれんぼをするのが好きだった。


 アニグトラーンは代々、優秀な上級武官を輩出してきた家柄で、彼の祖父も父も、大叔父や叔父達も漏れなく全員が武官だった。

祖母や叔母達の何人かは上級女官であったが、女官相手に護身術や体操を教えているような女性達ばかりだった。

自然とギルガンドも将来は彼らのように武官になるのだろうと思って育った。


 例の異国の花樹が花びらを静かに散らしている下、親族が花見の酒宴を催している中に幼いギルガンドが母親に連れられて顔を出すと、「やあ良く来た」、「これをお食べ」、「あれをお食べ」、「これも旨いぞ」と大層ちやほやされるので、ギルガンドも嬉しくなって、場をもっと盛り上げようと拙いながら歌を歌ったりして、そうすると祖父母を中心に親族達は大いに湧き上がって、「我が一族の跡取りは将来有望であるぞ」と手を鳴らして笑った――。


 だから、ギルガンドはその瞬間までは一切知らないで育ったのだ。

 人が死ぬと、痛ましいだけの静けさがやって来る事を。




*******************

 彼の祖父ウルガンドは【乱詛帝】の暴政に腹を据えかねて、密かに皇太子ケンドリックに味方していた心ある者の一人であった。

ケンドリックが【乱詛帝】と戦う際にはアニグトラーン一族を率いて参陣し、【乱詛帝】の首を刎ねる第一等の(いさおし)を上げた。

この隙に【タイラント】が【パペティアー】を撃破に成功し、その後で【乱詛帝】をもう一度討ち取る事で、ようやく彼らは【浄詛の戦い】に勝利を収めたのだ。


 だが、死に際の【乱詛帝】は、首だけになってもなお、凄まじい『呪詛』をウルガンドに向けて吐いた。

「呪いあれ!怨みあれ!災いあれ!我が呪詛が成就する証に、貴様の一族を根絶やしにしてみせようぞ!」


 ケンドリックの体は咄嗟に【タイラント】が庇ったが、その場にいたウルガンドはまともに『呪詛』を浴びて絶命した。

帝国城、帝都を見捨てて一目散に逃げていた【乱詛帝】を追いかけて、間もなくこのままでは隣国ラーレルカイトウに逃げ込まれてしまうと言う寸前の所だった。


 今でもその地には膨大な『呪詛』がうごめいている所為で、近づけば死ぬ魔の森として現地では恐れられている。




 祖父は歴戦錬磨の武官であった。

戦死は覚悟の上だったとギルガンドも理解している。

強く理解している。

下らぬ異議や愚痴をくどくどと垂れるつもりも無い。


 ――けれど、人が死ぬとひんやりと冷たくなって、痛ましいだけの静けさがやって来る事を、彼は初めて知ったのだった。

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