第二十二話 彼女の眠る場所×滅廟に関する噂
――帝都郊外の平民向けの墓地。
側に花屋の屋台があったので、オレ達は出来るだけ大きくて綺麗な花束を買った。
ゲイブンならきっとこうすると思ったのだ。
何より、終わらせたオレ達からこうして花を手向けなければ、あまりにも――。
「……何の冗談だ」
真新しい墓を目にして、ギルガンドは苛立たしさと忌々しさを露骨にした態度を見せる。
ロウの背中に【パーシーバー】が抱きついて、『泣かないで、ロウ……』と囁いたのが聞こえた。
「俺にもゲイブンにも出来なかったんだ。どれだけフェーアが苦しんでいても。何もかもが終わった後で、こうするのが精一杯だった……」
淡々とした態度で、ロウは語り出す。
馴染みの娼婦がこんな事になったのに、あくまでも感情的にはならないつもりらしい。
その酸いも甘いもかみ分けた態度が少しだけ羨ましく感じたが、今のオレ達ではそこまで届かない事も分かっていた。
今のオレ達に出来る事は、こうして墓前に花束を供える事だけ。
「誰が【虚魂獣】を仕留めた?」
ギルガンドは墓を暴かなかった。
ロウもオレ達も一切の嘘を言っていないと理解したらしい。
ゆっくりとロウはギルガンドの方へと顔を向ける。
「――聞いた事は無いか?『シャドウ』さ」
刀の柄に手をかけて、ギルガンドは問い詰める。
「貴様、『シャドウ』について知っているのだな?返答如何では――」
「そうだな、アンタよりは知っているさ」
既に剣呑な態度なのに、怯えもせずにロウは言う。
「若い男だ。黒装束に道化師の仮面を付けて、雷鳴のような音を出す飛び道具を両手に持って踊るように戦うんだと。夜な夜な、帝都に蔓延る魑魅魍魎を相手取って、な」
「煙に巻くつもりならば、斬る」
マズいぞ。
これは脅しじゃ無い。
本気で殺すつもりだ。
幾らオレ達でも【閃翔】と戦えば、正体が露呈する可能性があるってのに!
(絶対に【閃翔】に――いや、兄上には僕達の正体を知られてはならない!)
(クソッ!ロウ、どうするつもりだ……?!)
「そんなに『シャドウ』が気になるなら、今だけ特別に会えるかも知れない場所に案内してやる」
緩慢な動作でロウはオレ達の方を向いて、言った。
「本当なら情報料を頂くところだが、俺だって命は惜しい。無料で連れて行ってやるさ。なあ、ゲイブン?」
賛同を求められて、オレ達はゲイブンらしく首をブンブンと縦に振った。
「ハイですぜ!ハイなんですぜ!」
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帝都に戻ったオレ達は乗合馬車を拾うため、混雑する駒辻を目指していた。
駒辻とは、帝都の官舎街と市場の近くにある通りの名前で、文字通り、平民の乗る乗合馬車はここを中心に帝都や帝都近郊の四方八方に赴くのだ。
『ロウって、何だかんだ言って修羅場慣れしているな』
テオと一体化しているオレと、ロウの肩に乗っている【パーシーバー】は【精霊】同士、話し合っている。
『だって、このエクセレントなパーシーバーちゃんのロウだものっ!あーんなお子ちゃまの相手なんてちょちょいのちょーいよっ!』
『……。【パーシーバー】と【逆雷】くらいなものじゃないか?【閃翔】をお子ちゃま扱いするのって』
フフーン!と【パーシーバー】はさも偉そうに胸を張った。
生意気なのに何処か憎めないのは、いつものことである。
――それにしても、気になる。
背後からの射殺さんばかりの視線が。
「ろ、ロウさーん……」
怯える振りをしながらテオ(ゲイブンの見た目)は後ろを見て、睨まれて、震えて、また前を向いてオドオドと歩く。
「そう怯えるな、ゲイブン。逆に魔除けになって有り難いぞ?」
杖を突いて歩きつつ、ロウときたら皮肉まで言いやがった。
「でも、でもでもですぜー……」
『大丈夫、ロウを信じて。これでもロウはね、受けた恩義にはとっても堅いのよっ?』
【パーシーバー】が囁くが、オレ達もそこは心配していない。
第一、ロウがオレ達を裏切るなら、もっと前にもっと巧くやっているだろうと分かっている。
お偉い人間がとにかく嫌いで、飄々としている所があるが、ロウは芯のある人物だ。
『恩義って、クノハルの官僚試験の受験費用をオレ達が肩代わりした事か……』
優秀だったけれどクノハルの官僚試験の受験費用が出せなくて困っていたロウに、『シャドウ』に助力して貰う事を条件にこちらが金を全部出したのだ。
その時はクノハルが最上級官僚試験を首席で突破したにも関わらず、忖度が出来なくてオレ達の【黒葉宮】にあっと言う間に左遷されるなんて――全く予測できていなかったけれどな。
『そうよ。ロウは特にクノハルに優しくした人間は見捨てないし裏切らないわっ!』
末期のシスコン野郎と言うべきか、筋が通っていると言うべきか。
ただ、ここは余計な一言は黙っているのが一番だろうとオレ達も判断した。
『……まあ、いざとなったらオレ達だって戦ってやるさ』
駒辻に到着して、辻馬車を待つ行列に並んでいると、
「何処に行くつもりだ?」
ギルガンドが低い声で言いながら、軍帽の下から刺し殺すような視線でロウを睨んできた。
「【滅廟】さ。最近、あの地に関して面白い噂が流れているんだよ」
ロウは慌てず騒がず、平然と答える。
「何の噂だ?」
「あの地に詣でると、どんな悪縁でも切って貰えるらしい。――この噂を『シャドウ』が調べていたんだ」




