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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第十四話 爛れた保管庫×憤怒する緑毒

 体調不良を口実に、ニテロド一族の館に下がったアーリヤカ皇太后は、室内で忙しなく行き来しながら、握りしめた扇を弄っている。

「アーゼルトよ……真なのであろうな?」

「真ですとも。【V(ブイ)】の方から姉上にお目に掛りたいと申し出て参りました」

対照的にゆったりと椅子に腰掛けて、アーゼルトは落ち着き払っている。

「これが届いた時は、必ずハウロットでなく当人がやって来ます故」

そう言うと、アーゼルトが円卓の上に布きれを置いた。

粗末な布じゃな、とアーリヤカが思わず眉をひそめた瞬間、アーゼルトはその布をめくった。

「……!」

驚くアーリヤカの目には、切り落とされた人間の小指が映っている。

アーゼルトはにこやかに、

「【虚魂獣】になりさえすれば、小指くらい容易に再生できるそうですので」

と言って布で覆って、また懐にしまった。

アーリヤカは呆れた顔をする。

「打ち込んだ【神の血】を破壊する、もしくはえぐり出す事でしか人には戻れぬ上に……戻ったとしても長生きは出来ぬのであったな?」

「されど姉上、【固有魔法】が一つ増えると言うのはあまりにも魅力的ですよ」

「そうじゃ!」ここでアーリヤカは、はた、と手を打って、「逆に下品なキアラカ共に【神の血】を打ち込む事は出来ぬのか?さすれば幾ら皇太子であろうと、我が手で妃と子を処分するしかあるまいて!」


 彼女なりの妙案だった。

そうなのだ、何もこちらばかりが苦労して手を汚さなくても良いでは無いか。


 しかし――、

「今は産まれたばかり故に警備が厳しくてたまらぬのですが、何、もう半年もすれば――」

馬鹿者!とアーリヤカは暢気な発言をした弟に近付いて扇で何度も殴った。

「その間にミマナとレーシャナのどちらかでも孕んで、もしも男児だったならば!ニテロドの栄華は未来永劫に滅び去ってしまうであろうが!」

手で頭を庇いながら、アーゼルトは言い訳するしか無い。

「ですが姉上、今は幾ら何でも無理でございます!【帝国十三神将】が交代で護っているとの事!我らニテロドだろうとあまりにも相手が悪すぎるのですよ!」

「……!」

醜悪な形相を怒りに歪めて、アーリヤカはついに扇をへし折った。




 「母上!」




 へし折った扇など投げ捨てて、アーリヤカは笑顔で振り返った。

「おお、帰ったか、我が愛しのアルドリックよ!」

――その笑顔が憎悪のため一瞬で歪む。


 「お邪魔いたしております、アーリヤカ皇太后様」


 アルドリックは同じ【寵臣達】の中でもニテロド一族の同志と呼べる、大貴族ブラデガルディース一族の末娘サティジャを連れていた。

何でも言う事を聞く従順さもあって、見た目も可愛いから、この美少女はアルドリックの一番のお気に入りなのだ。

ブラデガルディースとは『いずれはサティジャを未来の皇帝(アルドリック)の隣に据えて欲しい』と言う密約も結ばれている事だし、こうやって寵愛しても何の問題も無い、とアルドリックは思っている。


 もっとも、アーリヤカからすれば、ただ一人の可愛い息子を奪った泥棒猫も同然。

今まで数多の憎い相手を容赦なく毒殺し、虐げてきたアーリヤカだったが――この泥棒猫だけは殺せない。

そんな事をすれば大切な味方のブラデガルディースが離反してしまう。

いや、ただの離反で済めば良い。

離反したブラデガルディースが皇太子側に付いた時点で、ニテロドは丸ごと破滅である。


 「母上、聞いてくれよ!また下民共がさ、俺様を馬鹿にするんだ!俺様こそ未来の皇帝なのに、馬鹿にするんだ!」


 ここにテオドリックが存在したら、小声で呟いただろう。

『威張るしか出来ない癖に未来の皇帝の座を望む、そのさもしい性根を軽蔑して何が悪い?』と。


 「おお……妾の可愛いアルドリックよ……!」

膝に顔を埋めて甘えてくる可愛い我が子を慰めながら、アーリヤカは視線でサティジャを睨み付けた。

「きゃあ」

とサティジャはとても可愛らしい悲鳴を上げて、側にいたアーゼルトに力無く垂れかかる。

アーリヤカからすれば忌々しい事に、この美少女はぽろぽろと上手に涙まで流しながら、

「どうかお許し下さいませ、知らせも無く館に押しかけてしまった私の非礼を……」

美しい少女に甘えられて頼られて気分が良くなったアーゼルトは、よしよしとサティジャを慰めながら、

「姉上……そこまでお怒りにならなくとも宜しいではござらぬか。何よりブラデガルディースの末娘なのです、幾ら我らとて蔑ろに扱うわけには参りませんぞ!」


 明らかにアーリヤカの負けだが、この女は素直に負けを認めるくらいならば相手を毒殺してきた。

なのに――!


 「……っ!」

思わずアーリヤカは毒々しい紅を塗った唇を噛みしめた。

サティジャはしくしくと泣きながら俯いて、同情を誘う可憐な声で、

「いいえ、皇太后様のお怒りはごもっともなのです。私のような卑しい者が『アル様』のお側に侍りたいと望んでしまっただけで、十分に不遜なのですから……」

「っ!」

アーリヤカの怒りが頂点に達した。


 アーリヤカは、うんとアルドリックを甘やかす時にだけ『アル』と呼ぶ。

それを、この小娘は――さもこの妾に勝ったかのように!


 「サティジャ、貴様っ!!!!!」

堪えきれずに怒声を上げたものの、

「……ん?母上?」

が、怪訝そうにアルドリックまで顔を上げてしまった。

咄嗟にアーリヤカは表情を取り繕って、

「……いや、何でも無いぞえ。ところで可愛い妾の『アル』よ、学業に精を出してさぞ疲れたであろう。浴場でゆるりと体を清め、しっかり休めてくるが良いぞ」

「じゃあ、そうするよ。そうだ叔父上、サティジャがまた何かの用事があるんだってさー」

特に興味の無い様子でアルドリックは伝えると、さっさと浴場の方へ歩いて行ってしまった。

「うむ、うむ……」

アルドリックの姿が見えなくなるまで見送った途端――般若の形相でアーリヤカはサティジャに迫った。

「泥棒猫め、この妾に何の用じゃ!」

「まあ、アーリヤカ皇太后様、怖いですわ……!」

そうやってサティジャは最大限にアーゼルトの同情を引いてから、

「……実は、これが我が家にも届きましたの」

鞄から小さな布包みを取り出し、中身を見せた。


 切断された誰かの小指を。


 「そろそろハウロットから定時連絡がある頃ですから、もしかして……と思ったのですわ」

美少女サティジャは可憐な容姿に似合わぬ、残忍な微笑みを浮かべた。

アーリヤカは気付くが、アーゼルトには気付かれないように。

案の定アーリヤカは余計に顔を歪めたが、アーゼルトはご機嫌で、

「恐らく今夜だろう。サティジャ嬢、君も今夜はこの館に泊まって行きなさい。ブラデガルディースの館にはこちらから使いを知らせて出しておこう」

「お有り難うございます、アーゼルトおじ様。【神の血】の【秘庫(ヴォールト)】たる私の務めも、これで無事に果たせそうですわ」


 そう言うなり。

サティジャは着ていた服を脱ぎだした。

まるで妖精(ニンフ)のように若く美しい裸体を人前に惜しげも無くさらけ出すと、下腹部に手をやる。

――カチリ、と音を立てて『鍵』を開け、彼女は細い指で体内から小箱をするりと取り出す。

その小箱を机の上に静かに置いて、彼女は挑戦的なくらいに蠱惑的な視線でアーゼルトを見つめる。

「それで……アーゼルトおじ様。此度は、何本ほど御用意すれば宜しいでしょうかしら?」

「そう、だな……」

粘ついた視線でサティジャの体の曲線を執拗に撫でてから、アーゼルトは頷いた。

「3本貰うとしようか」

「はい、おじ様。どうぞ」

サティジャは四角い絹布を机に敷くと、蓋を開けた小箱の中から【神の血】を1本ずつつまんで取り出し、並べて置いた。

苛立たしげなアーリヤカなどものともせず、彼女は小箱に蓋をすると再び己の体の中に仕舞い込み、『鍵』をかけた。

3本、【神の血】を確かに間違いなく受け取って、アーゼルトは下卑た笑いを浮かべる。

「実に!実にサティジャ嬢、君の【固有魔法】――【秘庫】は素晴らしい。恐らくこの帝都で最も安全かつ確実にモノを隠しうる存在だろう」

「うふふふ、おじ様ったら、本当にお上手なのですから。ブラデガルディースの血を引く者は、『仕舞う』事に関する【固有魔法】を持つのですわ。誰にも奪われぬ場所に、安全に、永遠に……」


 ――怒髪天のアーリヤカが叫んだ。

「それよりもじゃ!今度の『それ』は誰に使わせるのじゃ!」

まあまあ、とアーゼルトは慣れた様子で激高する姉をなだめる。

「いつもニテロドの縁者に使わせては、流石に勘づかれてしまいましょう?ですので、ある貧しい下民の家族に施してやるつもりですよ。そう、娘を【大遊郭】に売り払ったのみならず、我がニテロド一族の縁者の家に泥棒に入ったくらい、卑しく貧しい、ね……」

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