4話 新たな出会い
「希望とは何か、私は『花』と答えよう。種を植え、水をやり、大切に育てていけば『花』のように希望は芽ばえる。ただ、皆が目の前の現実に絶望し『花』を育てることを放棄したとき…人類は停滞していくだろう。だが案ずることは無い、この厄災から人類を護るためには前を向く、それが遺された人間にできるただ一つのことだ。私も研究者として最善を尽くそう」
---ダグニス・フォン・スタンバーグ
旧軍都陥落後の演説にて---
「ん……あれ、私…」
「…っ!良かった、無事に目が覚めたんだな!」
目を覚ますと、傍らに黒髪で金色の目をした男性が座っていた。彼が手に持つタオルを見るに、意識がない間に看病をしてくれていたのだろう。
「ここは‘’サクラ地区”、ヤグル地区からいちばん近い診療所だ。先に自己紹介をするぞ。オレの名前は“氷室歩”、“白霧雑務店”の従業員だ。それで、キミの名前は?」
「えっと…エルシアと申します」
「エルシアか…1つ質問していいか?君は、ヤグル地区の人なのか?それとも他の区から来た観光客なのか?」
「分かりません。以前の記憶が何も無くて、ここのことも、何もかも全部」
ちらっと歩さんの方を見る、彼の瞳が一瞬揺れていた。記憶が無いことがそんなに衝撃的なものだったのかな。彼は少し動揺した様子を見せながらも口を開く。
「記憶が無いのか、そうか。質問を変えるぞ、君を助けた人かキミを終夜の出口まで連れてきた人はいるか?」
「はい、います。ヴァロカさ…ヴァロカ・フェルシングという方と、サードという小鳥の子です。終夜の中で一緒に逃げていたとき、サードはボロボロになって、ヴァロカさんとは離れ離れになってしまって」
「……ヴァロカさん、か。その名前の方はここには居ないな。でも……」
「……ぇ、」
「その…今の発言は迂闊だった、ごめん。でも、まだ彼は他の診療所に居るかもしれない、だから…彼の特徴を教えてくれないか?」
「……はい。えと、赤髪で緑の目をしている男性で、服装は白衣とセーターだったような…」
「赤髪…緑色の目の男性……服装は白衣とセーター、わかった。今から確認してくる、少し待っててくれ」
そう言って、歩さんは部屋を出ていった。
─────【数分後】─────────────
「…………ごめん」
ただの淡い期待だった。ヴァロカさんは他の診療所に保護されたと思っていた。そう思いたかった。
「……嘘…嘘だ…」
自分が彼の足を引っ張ってしまったから。私が彼を連れて逃げなかったから。彼は居なくなってしまった。私の、私のせいで……
「っ!?あ、えと…ヴァロカさんは軍の管轄外の人に助けられてるかもしれない!だから、泣かないでくれ!頼むから!」
「……でも」
「でもじゃない、オレ、無責任なこと言うかもしれないけど、その…まだ亡くなったとは確定していないし、それに、ヴァロカさんがキミの様子を見たら悲しむかもしれない。だから、そんな悲観的になるな」
歩さんの言う通りだ。まだ、あの人が亡くなったとは限らない。どこかで生き長らえているのかもしれない。まだ…悲観的にならなくてもいいのかな。
「いや…あの、オレ本当に無責任かもしれない、えっと、本当にごめん…不快に思ったなら……」
「そう、ですよね。まだ…彼は何処かで生きているのかもしれませんから。泣くのはまだ早かったですね。ありがとうございます」
「……!ああそうだな!キミが元気になってくれてよかった!」
歩さんはニカっと笑ったあと、何かを思い出したのか、いきなり表情をかえた。
「あっ、そうだ。あの子鳥の子…えっとサードだっけ?あの子のこともついでに聞いてきた。俺の友達が『カルロさんに修理を頼んでおいた、直るかは分からないが善処はするとは言っていた』って」
そのとき、部屋の扉がノックされ、薄の緑髪の眼鏡をかけた青年が顔を出した。
「先輩、カルロさんからの連絡が来たよ。彼曰く、修復は可能らしい。それを…あ」
眼鏡の青年は私を見つけるや否や、部屋に入って話を続ける。
「持ち主の方かい?なら手っ取り早いね、あの小鳥のロボについての話だ。まず、修理を頼んだことについては…」青年は歩さんの方を見る。
「その話はもうオレが伝えてる。心配しなくて大丈夫だ!」歩さんは自信ありげに言った。
青年は頷き、こちらへ向いて、
「なら良かった。では、簡潔に伝えようか。僕たちがあの小鳥の修理を頼んだ人からの伝言、奇跡的にコアの大部分は損傷していなかったから修理は可能。だとさ、良かったね」と言った。
そしてまた、青年は歩さんの方を向いて、
「あ、そうだ。先輩、さっきキト先輩が呼んでたよ。急ぎの用事みたいだね」と言った。
歩さんは少々悩むような顔をした後、口を開いた。
「もし良ければ、彼女も連れてっていいか?その、なんとなくだけど…い、いい事があるかもしれない」
「先輩、その子のことがそんなに気に入ったのかい?何を企んでいるのかは分からないけど…まあ、僕はいいと思うよ」
眼鏡の青年はサッと後ろに向き、出口の方へ向かった。扉に手をかける直前、彼はこちらへ振り向く。
「そういえば、僕の名前を言っていなかったね。僕の名前は“宇佐見遊作”、よろしく」




