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終末の迷い人  作者: 霜月東
序章
3/5

3話 シュウマツ

「へ…?」


 全く何が起きたのか分からなかった。空が闇夜に包まれた、まだ真昼間だと言うのに。鳥の声も、風の音も、人のざわめきも、全て消えた。この空間は一瞬にして静寂に包まれた。


「……シア…エルシア!!!」


振り向くと、ヴァロカが青ざめた顔で腕を掴んでいた。彼の顔には見たことの無い程の焦りが浮かんでいる。


「ヴァロカさ…何が、起き…」


「早く、早く逃げるぞ!ここら一帯が終夜に覆われた、早くしろ!!さもないと死んじまうぞ!!!」


彼の言葉と共に不気味にサイレンが鳴り響く。まるでパニック映画やゾンビ物のような不気味さが満ちていた。背後から鉄臭く、生臭い匂いと共に、甲高い悲鳴が聞こえた。恐る恐る振り返る、犬ような姿をした化け物が人間を貪っていた。


化け物がこちらを向く。頭がなく、断面と思われるところから口が生えている。この世のものではない、おぞましいものだ。血塗れのそれは、一直線にこちらへ向かう。目にも止まらぬスピードで、それは駆けていく。


「……ぁ…あぁ…!」


私は腰を抜かしてしまった。恐怖が私の心を包む。逃げたいのに、足が根を張っているみたいに動かない。化け物が目の先にまで迫る。化け物の口が開く、その瞬間、直感的にもう死ぬのだと確信した。私は歯を食いしばって目を閉じる。喰われる前、人間の笑い声が聞こえた。


「…あ……れ?」


 だが、苦痛も何も感じることはなかった。恐る恐る目を開ける、目の前にはヴァロカがいた。手には盾が握られている。彼は振り向き、こちらに駆け寄る。先程の焦りは消え、落ち着きを取り戻している。


「エルシア、大丈夫か?」


「ヴァロカさん…?私、生きてますか…?」


「生きてる、ちゃんと生きてるさ。怖かったよな、もう大丈夫だぞ、俺がいるからな」


ヴァロカは私をゆっくりと立ち上がらせた、足元はまだふらつく。


「ヴァロカさん、あの…その盾は…?」


「ん?あーこれか。これは対終末兵器って言うやつだ。まあそんなことはどうでもいいから、とりあえず今は逃げよう、こんなとこに長居するのは危険だ」


ヴァロカは私の身体を密着させ、守るように抱きしめ物陰に身を潜めた。その時、遠くからサードがこちらへ飛び込んでくる。


『ヴァロカ!ヴァロカー!!!ココカラ東ニ2kmノトコデ()()ヲ見ツケタ!ヴァロカ!早ク移動シヨウゼ!』


「お手柄じゃないか。よくやったなサード!」


彼はサードの体を手で包み、わしゃわしゃと頭を撫で始めたかと思ったら、こちらに来て頭を優しく撫で始めた。撫で終えたあと、にこやかな表情から一変し、真剣な表情に戻った


「よし、そうと決まれば早く逃げようか。俺が先導を行くからな。そんじゃサード、エルシアの背後を頼む。敵が来たらすぐに知らせるように」


『ワカッタゼ!ヴァロカ!!』


そう言い終わり、彼は私の方を向いた。またあの和やかな笑みを浮かべ、


「心配するな、俺がアンタらを無事に送り届けてやるから」


と言った。その言葉に安心感を覚えたが、同時に謎の焦燥に襲われる。でも今はそんなことを考えている余裕は無い。ただこの異変から生きて帰る、それが最優先だから。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「サード!あとどのぐらい走ればいい!?」


『アトココノ角ヲ曲ガッテスグダ!!ヴァロカ!エルシア!モウ少シノ辛抱ダゼ!』


化け物から逃げ始めて十何分か経った頃だろう、角を曲がると、目の先にワープホール?のようなものを見つけた。あれが終夜から出るための出口なのだろう。ようやくこの短くとも長い道のりが終わりを迎える。


「あと、もう少しで…!」


サードを先頭にし、()()に向かって駆ける。もうすぐ、もうすぐで出口へ着く、もうすぐでこの地獄にサヨナラできる。ようやくだった本当に、ようやく……。


『ヴァロカ!!エルシア!!走レ!アト少シダ!!早ク!』


サードが翼をこちらへ伸ばした。私たちはそれを握ろうと手を伸ばす。そして掴もうと手をにぎる。だが、その手は無様にから回った。


 目の前の翼は砕け散っていた。地面から生えた触手によって身体を貫かれ、それは機能を停止した。


「サード…?サード!!!!」


ヴァロカの悲鳴が打ち砕かれた希望の中に響く。私は無意識にサードの元へ駆け寄っていた。鉄の骸となったそれは、命を失った生き物のように動かない。何度語り掛けても、その行為は意味をなさなかった。


「なんで……なんで…」


 でも、悲しむ余裕なんて私たちにはなかった。地面からは巨大なヘドロの化け物が顔を出す。恐怖に耐えながら立ち上がったのもつかの間、人間の手を持ったそれは、情けもなしに私たちに襲いかかる。


細長い触手がうねりながらこちらへ伸びていく。触手に貫かれるかと思った矢先、私の体は中に浮いた。驚いて目を開けると、私は突き飛ばされ、()()の中へ入っていた。


「……は?へ、?」


何も分からないまま視界が真っ暗になり、意識が遠のく。ただ、一つだけ。彼が、ヴァロカが何かを呟いていた。それだけが脳裏に焼き付いて離れなかった。

どうもこんにちは、初めましての方は初めまして。霜月東(しもつきひがし)です。執筆遅れましたすみません。ですが、ここからエルシアの物語は更なる旅路へと展開されていきますので、どうかお楽しみに。

それではまた、次の物語まで。

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