心のくぼみに咲くもの
夕暮れの色がにじむ頃、ナナは小さな公園のベンチに座っていた。
何かがあったわけじゃない。けれど、何かが足りないような、そんな気持ちだった。心の奥に、小さな「くぼみ」ができているのを感じる。
「なんでこんな気持ちになるんだろう」
理由を探しても、ふわふわと逃げてしまう。
まるで、手のひらですくった水が指のあいだからこぼれていくように。
そんなとき、近くの木の根元に、小さな花が咲いているのが目に入った。誰も気に留めないような、控えめな白い花。けれど、それはちゃんとそこにいて、風に揺れていた。
ナナは思う。
きっとこの花も、雨に打たれ、風に吹かれ、それでも咲いている。
誰かに見てもらえなくても、自分のリズムで咲いている。
「私の中のくぼみも、壊れたわけじゃない。
きっと、そこに何かが咲こうとしているだけかもしれない」
そのことに気づいたとき、胸の奥がふっと温かくなる。
理由がわからないままでいい。わからないまま、心に寄り添ってあげればいい。
ナナは静かに立ち上がり、少しだけ背筋を伸ばした。
夕暮れの空に一番星が光っていた。
それは、空のくぼみにぽつりと灯る、小さな希望のようだった。