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【番外編】伯爵家三男エルディオ・ハーヴェイのお見合い

改題&改稿しNolaブックスBloom様から電子書籍化した「婚約破棄されましたが、泣き寝入りはいたしません!〜悪役令嬢は身勝手な元婚約者に囚われた聖女を救出することにしました〜」の内容準拠の番外編です!

「エルディオ、あなたちょっとお見合いしてらっしゃい」


「はい?」


 朝から昼まで王立図書館で司書業務、昼食を終えて午後から夜遅い時間までを次期女王になるカレンデュラ様の執務室で過ごし、ようやく仕事に終わりが見えた。そんなタイミングで、大きな爆弾が落ちてきた。しかも主の手によって。


「お相手はイズラ伯爵家のエマ嬢よ。ヴァイオリンの名手で、学園卒業後は演奏家になるのですって。自邸で過ごす時間が少ない彼女なら、多忙で家庭を顧みなさそうなあなたでもやっていけるのではなくて?」


「言い方!!!!!」


 そもそも、自分が多忙なのは間違いなく目の前の主のせいなのだが。


「卒業後ということは、まだ18歳のご令嬢ですか」


「えぇ、ディアレインと同じね」


「…………音楽の才があるのなら、引く手数多なのでは?わざわざ俺じゃなくても」


「ハーヴェイ伯爵家の三男がお相手なら、政治的な思惑のない結婚が望めるとイズラ伯爵は安堵していたわよ」


 はるか昔に王家から分家したハーヴェイ伯爵家は、国内の様々な学術施設の管理統括を国から任されており、その立場から政治への関りは必要最低限だ。芸術に政治色をにじませたくないイズラ伯爵が安堵する気持ちはわかる。


「………………ディアレイン様と同学年のご令嬢なら、親が決めた婚約には頷かないのでは?」


 昨年の夏前に、第一王子ローハルト殿下から婚約を一方的に破棄された、公爵令嬢のディアレイン嬢。紆余曲折を経て名誉を回復した彼女は学園で生徒会長を務めていて、女生徒から絶大な支持を受けている。その影響力はかなりのものだ。


 そんなディアレインは目の前にいる主、カレンデュラ様に心酔しており、卒業後は自分と同じようにカレンデュラ様に仕えることが決まっている。ベスター公爵夫人こと彼女の母親は新しい婚約者を迎えて幸せな結婚をして欲しいと熱望しているようだが、当の本人の口からその気はないと聞かされていた。


「エマ嬢はね、愚弟の起こした騒動がキッカケで婚約を破棄されたのよ」


「あぁ……」


 ローハルト殿下は、自分の取り巻きの側近たちを煽動して、多くの婚約破棄を巻き起こした。カレンデュラ様からしたら、弟が起こしたことの責任を取るよう迫られている形になる。


「わたくしとしても、無下にできないのはわかるわよね?だから、つべこべ言わずにいってらっしゃい」


「お、俺以外にも、誰か他に適任者がいるのでは」


「あら。誰とも婚約していなくて、年齢や家格の釣り合いが取れているお相手なんて、簡単には見つからないわ。それにあなただって、いい加減婚約者を決めてもいい頃合いでしょう」


「それは――」

 

「それとも、好きなご令嬢でもいるのかしら」


 ついに核心を突かれた。


 「カレン様、勘弁してくださいよ……」


「なんのことだか、さっぱりわからないわ。言いたいことがあるならハッキリおっしゃいな」


 ハッキリ言えないから困っているのだ。

 この主は、俺のことを掌の上で転がすのが心底上手いのだと、改めて思い知らされた。


「わかりました、行きますよ。行けばいいんでしょう、えぇ」


「いい機会だから、これからどうするつもりなのかよく考えなさい」


「…………主の仰せのままに」


「エマ嬢との縁談、悪い話ではないと思うわ。覚悟が決まらないなら一つの選択肢として、真面目に考えてみたらよくってよ」


 カレン様の一言は、俺の心にずしりとのしかかった。



 ◇◇◇



「あれ、師匠。今日はお見合いの日ではなかったのですか?」


「何故ディア様がそのことを……というか、どうしてここに!?」


「お義姉様から、師匠がお見合いでいつもより執務室に来るのが遅くなると聞いたのです。でしたら私が代わりに書類を整理しておこうと思いまして」


 完全にしてやられた。

 カレン様は、どう考えてもこの状況を面白がっている。


「えっと、生徒会は大丈夫ですか?卒業を控えてお忙しい時期でしょう?」


「引継ぎも進んでいますし、何より皆さんとっても優秀ですから。私がやることなんて、もうほとんど残ってないのですよ」


 机上を確認すると、今日着手するつもりだった書類の整理が完璧に終わっていた。思いがけず時間が出来てたので、お礼も兼ねてディア様をお茶に誘うことにした。


「あー、ディア様、もしお時間があるようでしたら、お茶でもご一緒に……」


「まぁ、よろしいのでしょうか。エマさんはお気を悪くされませんか?」


「相手まで筒抜けとは……いや、まぁ、よければその話も聞いてください」


 執務室を出て、カレン様の宮で仕える者なら誰でも利用できるカフェスペースに移動することにした。


 ◇◇◇


「あら、エルディオ様。お見合いは無事に終わりましたか?」


「エルディオ師匠~!首尾はどう?上手く行った?いやー独身仲間が減っちゃうのは淋しいなぁ!」


「……ディア様のみならず……」


 カレン様の侍女の一人に、宮の警備兵まで、俺のお見合い事情は筒抜けのようだ。穴があったら入りたい。ついでに言うと、ディア様から広まって俺のことを師匠というあだ名で呼ぶ人間が増えているのもどうにかしたい。


「師匠、人気者ですね。流石です!」


「いやこれ、そういうのとは違うと思うんですよねー……」


 注文したミルクティーとスコーンを二人分受け取り、日当たりの良いテラス席に腰かけた。


「結論から申し上げますと、お見合いは中止になりました」


「あら?」


 そう、俺とエマ・イズラ伯爵令嬢のお見合いは、当日になって流れたのだ。


「そういえば、エマさんはここ何日か学園をお休みされていました。寮も空けておられたので、演奏のお仕事だと思っていたのですけど、もしやご体調が……?」


「あ、いや、そういうわけではないんです。第二王女ローゼマリー様の嫁ぎ先の隣国へ招待されて、ヴァイオリンを披露しに行っていたようなのですが、交通事情で戻るのが遅れているようでして」


「それでは、仕切り直しをされるのですね。あれ、でも、先程中止っておっしゃっていたような……」


「どうやらエマ嬢は、滞在が伸びている間にかの国の宮廷楽士とのご縁が深まったようでして」


「まぁ……!」


 隣国ファーレン王国は芸術を尊ぶお国柄で、優れた画家や音楽家を多数輩出している。そんな国の宮廷楽士といい縁が出来たというなら、自分の出る幕など無い。必死に謝罪するイズラ伯爵にもそう伝え、この縁談は綺麗サッパリ白紙となった。


「エマさんと伯爵家にとっては素敵なお話かもしれませんけど……師匠、どうかお気を落されぬよう……」


「大丈夫ですよ、ディア様。お気遣いありがとうございます」


「本当ですか?ご無理なさらないでくださいね。エマさんはとっても凛々しくて姿勢が美しくて、ヴァイオリンを弾いているときは音楽の女神と見まごう程の神々しさを身にまとう、とても素敵なご令嬢ですから……師匠の落胆もひとしおかと」


 相変わらず、女性のことを語らせると熱っぽくなるのがディア様だ。でも、彼女のこういうところは嫌いじゃないし、最近はなんだかこの語りっぷりも好ましくなってきた。そんなことを思いながら聞いていると、その口から突然第二の爆弾が落された。


「エマさんも、かの国の宮廷楽士と結ばれるなんて、とっても素敵なことだと思います。けど、ちょっぴり勿体ないことをしましたね」


「ディア様?」


「だって、師匠とのお見合いだなんて、凄く幸せなことを逃してしまったのですから」


「え?」


「師匠とお会いしていたら、その楽士の方より師匠との結婚を望まれたかもしれませんのに……」


「あの、ディア様、それはどういう――」


 

「ディアレイン様、お話中に申し訳ございません。主がエルディオ様をお呼びなので、お借りしても?」



 真意を尋ねようとしたところで、カレン様の筆頭侍女オルガさんがやってきた。図ったとしか思えないタイミングでだ。


「勿論です!師匠、いってらっしゃいませ!!」


「…………えぇ、いってきます。また後程…………」


 ◇◇◇


「それで、エルディオ様。覚悟はお決まりになりましたか?」


「オルガさんにまで追い詰められてる!?」


「カレンデュラ殿下は、貴方様がディアレインお嬢様への恋心をお認めになって求婚することをずっと望んでおられますので」


「そうハッキリ言われてしまうと、こちらとしても逃げ場がなくなりますね……」


 そろそろ腹を括るべきかと、我ながら思うのであった。

NolaブックスBloom様のレーベル一周年記念SSの未使用バージョンを、こちらに公開させていただきました。レーベルのサイトに書き下ろし番外編「ディアレイン・ベスター公爵令嬢の卒業式」が無料公開中なので、こちらも読んでいただけると嬉しいです。詳細は活動報告に記載します!

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