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57.リモート聖女のお悩み相談室~王太子殿下編~

『ハヅキ、久しいわね。元気な顔が見れて嬉しいわ』

「カレン様!?」


本日最後の相談者は、この国の王太子殿下になった第一王女のカレンデュラ・デ・アデリア様だ。私がアデリア王国から元の世界に帰る手段がわからず泣き暮らしていた時に手を差し伸べてくれた恩人だ。


「お久しぶりです。執務は片付いたんですか?」

『執務なんて、この立場でなくなるその日まで途切れることはないのだから、自分の裁量で進めればよいのよ』

「…要するに終わってないんですね?」

『ふふ、ハヅキはわかってくれるから嬉しいわ』


豪奢な金髪を揺らし紫水晶の瞳をキラキラさせて微笑むカレン様は、出会った頃の印象よりお茶目で親しみやすい。


『わたくし、今日はハヅキに相談があって来たのよ』

「え、ただ遊びに来てくれただけじゃないんですか?」

『だって、ここは「リモート聖女のお悩み相談室」なのでしょう?足を踏み入れるからには、ハヅキに話すにふさわしい悩みを持ってきていてよ』


この美貌の王太子殿下に一体どんな悩みがあるのだろうと思ったけど、おそらく婚約者選びについてだろう。あまたの求婚者がいて、御年20歳となるにも関わらず、カレン様の婚約者の座は空席のままだ。ディアさんは「迂闊に決めてしまうと選ばれなかった方々への対応が大変だから二の足を踏んでらっしゃるのでは」と言っていたけど、本当にそうなんだろうか。


「政治とかの難しい話は聞くだけになっちゃうかもしれませんけど、私に出来る範囲でいいことを言えるよう頑張ります!」

『そんなに気負う必要はないわよ。ごく個人的な、些細な事だから。相談するならハヅキが適任だと思ったから、思い切って打ち明けるわね』

「わかりました。ずばっと言っちゃってください…!」


私向けということは、恋愛の悩みなのだろうか。さっきもアレッタさんにいいアドバイスが出来たし、カレン様は立場的に恋愛の悩みを身近な人に打ち明けるのが難しいのかもしれないので、心して聞かねばならない。


『わたくし、物凄く味オンチなのよ』

「味オンチ」

『そう。何を食べても美味しく感じられるからそこまで困ることなくここまでやってきたのだけど、異物が混入されてもすぐに気付けないのは難点ね』

「…それはたしかに、困りますね」

『他国の方との会食も以前より増えて、そちらの伝統料理のお味について言及するのが難しくって。事前にオルガが同じものを食べてなんと言えばいいか考えてくれているのだけど、あの子はあの子でそこまで食に興味がないから、イマイチ気持ちが籠らないのよ…』


予想の斜め上を行く相談だけど、立場的にも結構死活問題な気がする。


「…ちなみに、うっかり毒が混入しているものを食べてしまったことってあるんですか?」

『毒というほどではないけど、朝の紅茶にに眠り薬を混入されたことはあるわ。その日は半日くらい少しウトウトしたけど、昼食にコーヒーをいただいたらスッキリしたので、それ以来愛飲しているの』

「そ、それだけで済んでよかったですね…」

『わたくし、薬が効きにくい体質なの。良いものも悪いものも一律そうだから、これにも困っているわ。とはいえこっちはどうしようもないので、まだどうにか出来そうな味覚から手を付けたくって』

「昔からそうなんですか?」

『そうねぇ。もしかして味オンチなのかも?と思ったのが学園に入学してからなので、幼い頃からそうだったのだと思うわ』


味オンチと一言で言っても、いろんなパターンがあると思う。何を食べても同じように感じるのか、美味しいか美味しくないかの区別がついているのかなど。私はカレン様にいくつか質問をしてみたところ、なんとなく傾向がわかってきた。


「カレン様は極端な味のものを好むと言うか、味の方向性が強くてハッキリしているものが特に好きみたいですね。舌の反応が鈍いのかも?」

『なるほど、そういうことなのね。考えたこともなかったわ』

「幸い嫌いな食べ物はほぼ無いようなので、当面の間食事をなるべく薄味にしてゆっくり食べることを心掛けたらいいんじゃなでしょうか。しっかりお出汁を取って調味料での味付けは最低限に済ませたスープとか、風味が強いナッツ類を食事に取り入れるのもいいと思います!」

『早速やってみるわ。しばらく会食の予定もないから、じっくり取り組める予定よ。ありがとう、やはりあなたに相談してよかった』

「専門家じゃないので、本当に物凄く困ってどうしようもないようだったら、治癒術師さんを頼ってみてくださいね」

『あら、味オンチは怪我や病気の領域なの?』

「私の国では医療で改善することもありますね」

『それは知らなかったわ。やはり異界の知識は興味深いものばかりね』


とっても美人で、いずれ一国の女王様になる人に感心されるとこそばゆいものがある。こちとらただの女子大生なのだ。


「いつでもなんでも相談してください。流れで始めた相談室だけど、結構楽しくなってきたので」

『あなたにもそちらでの生活があるのだから無理はして欲しくないけど、それでもこうやってアデリアに関わってくれることに感謝申し上げるわ』


ディアさんの「私だけがハヅキ様を独占していては皆さまに申し訳ない気がしてきました…」の一言から始まったこの相談室。バイトがない日や授業が休講になった隙間時間でアデリアの人と話せて、相手が喜んでくれるなら私も嬉しい。いずれ就活が始まって社会人になったら時間が取れなくなるかもしれないので、今この時を大事にしたい。そう言うとカレン様は首を傾げて質問してきた。


『ハヅキは学問を修めたらすぐにセイタロウと結婚するのではなくて?セイタロウの方が歳上なのだし、早く夫婦になりたくて待っているのではないかしら』

「ちょ、そんなイキナリ結婚なんて…!私まだ19歳ですし!!」


今の日本では大学を出てすぐ結婚だとかなり早い部類に入ると思う。異世界の貴族社会の基準で考えてはいけないのだ。


「それに、結婚したからってすぐ家庭に入るとも限らないし、やりたい仕事もあるし、私は出来れば夫婦共働きでいきたいんです!」

『その場合、御子が出来たらどうするの?すぐ退職することになってしまわない?』

「産休育休制度を使うのが一般的ですね。仕事復帰後は保育園に預けたりとか、やり方は色々ですよ」

『サンキュウイクキュウ?』

「アデリアにはないんですか?」


私も詳しいわけじゃないので、わかる範囲のことをざっくりと教えてみた。カレン様は真剣な顔で頷いている。


『ありがとう、良いことを聞いたわ。わたくしなりにもっと考えてみて、我が国に生かせないか検討してみるわね』

「思いがけないところで役に立ててよかったです!」


今日の会話が未来のアデリア王国を変えていくのかもしれないと思うと、なんだかワクワクする。


『ハヅキとわたくし、一体どちらが先に結婚するかしらね、未来が楽しみだわ』

「カレン様はお相手が決まってないですし、まずはそこからどうにかしなきゃですよ。いいな~と思う人とか、好きな人とかいないんですか?」

『いるわよ』

「へー、そうなんですね……………え?」

『わたくしにも好きな人はいるわよ』

「いるんですか!?い、一体誰を!!??」

『それはね―――』


カレン様が答えようとしたその時、相談室のドアが勢いよく(しかし大きい音などは出さずに)開いた。


『カレン様、ハヅキ様、まだいらっしゃいますか…!?』

「あ、ディアさん!今日のお仕事はもう終わったの?」

『あぁ、間に合ってよかった!カレン様がこちらに向かったと小耳に挟みまして、久しぶりに三人でお会いしたいと思い仕事を急いで終わらせて追いかけてきてしまいました』


念願のカレン様の想い人を聞き出せそうなタイミングに間が悪いと思いつつ、ディアさんが来たなら続きは三人で楽しもう。


◇◇◇


遠く離れたところからだけど、末永くアデリア王国を見守っていきたい。

古の魔術遺産の原理は解明されていなくて、もしかしたら明日にはスマホが繋がらなくなって二度と会えなるかもと不安になるときもあるけど、もしそうなってもディアさんやカレン様がまた私と繋がる手段を探し当ててくれるような気がするのだ。幸い時間の進みもほぼ同じようなので、一緒に歳を重ねていきたい。

これにて完結です!当初の想定より長くなってしまったこの物語に、最後までお付き合いいただきありがとうございました。心からの感謝をこめて。


現在、次の作品「生霊となった伯爵令嬢は公爵令息の身体を間借りする~この環境、お菓子作りに最適です!~」(仮題)をせっせこ書いているので、一週間後くらいに投稿出来たらいいな…と思っております。よろしければまたお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
カレン様とエルディオさんがくっつく世界線も見たかったです(*´艸`)フフフッ♡
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