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54.

それからの私たちは、怒涛の日々が続いた。母のフライングによる根回しのお陰で私がエルディオ様と婚約するための状況は既に調っており、両家の話し合いを経て卒業後にハーヴェイ伯爵家に嫁ぐことが決まった。ハーヴェイ伯爵ご夫妻は恐縮しきりだったが、レオカディオ様とアイディリア様ご夫妻は諸手を挙げて歓迎してくださった。エルディオ様は「貴重な働き手確保!と思っているんでしょう」と苦笑していたが、私としても有難い。メディアと名乗っていた時の制服を当面はそのまま着用し、いずれ多くの権限を持つハーヴェイ家の上級司書になるための試験を受けるべく勉強中だ。


余談だがエルディオ様の兄上でハーヴェイ伯爵家次男のクストディオ様は、カレン様の依頼で飛行の魔術具を貸与したコーデリア様と意気投合し、彼女との婚約が決まった。クストディオ様の生涯をかけた研究「空を自由に飛びたい」に理解を示し、自身の商会から惜しみない支援を与えると決めたコーデリア様は毎日とても楽しそうだ。


「これで私はディアレイン様の義姉よ!ユリアーナに張り合えるわ!!」

「わ、わたしは義妹だもの!!義姉より義妹の方が可愛がってもらえるハズよ!!」


コーデリアお義姉様とユリアーナが仲睦まじくて大変微笑ましい。


私とエルディオ様が婚約するにあたり、父のベスター公爵は少しだけ難色を示した。今まで次期王子妃と定められて相応しい教育を受けていたのが、伯爵家の三男の配偶者に収まることになったのは国家にとって大きな損失ではないかと言うのだ。あちらから言い出した婚約破棄だが、王家がこれにはカレン様も同意し、その上で私に一つの依頼をされた。


「いずれ生まれてくるわたくしの御子の家庭教師をしてくれないかしら?ディアなら誰よりも適任だと思うの」


それは、そう遠くない未来の事になるだろう。まずは混迷を極めているカレン様の婿取りを終えてからだが、今からその日が楽しみだ。


本来であればヴェイア王国の王太子と婚約しかの国の王妃になる線が濃厚だったカレン様は、アデリアの王位に就くことが決まり婚約話は白紙になった。その結果、ヴェイア国王陛下の歳の離れた王弟がカレン様の婚約者に名乗りを上げ、あまつさえ王太子もその地位を妹殿下に譲りカレン様の愛を乞う始末だ。「己の成すべきことを成さない者に興味はございません」と求婚を一蹴された王太子殿下は、カレン様に振り向いてもらうべく必死に妹姫を教育しているらしい。他にも国内外から婚姻の申し込みが殺到しているが、なかなかお決めにならないカレン様の御気持ちが気になりご意向をお尋ねしたところ「今はまだ秘密よ」とおっしゃられたので、教えていただける日を心待ちにしている。


◇◇◇


にぎやかで慌ただしい毎日を過ごし、卒業を控えたとある日。エルディオ様が見慣れない魔術具を図書館に持ち込んだ。


「エルディオ様、これは一体なんでしょう?」

「ファーレン王国のローゼマリー王太子妃からカレン様宛に届けられた魔術具だそうです。いくら魔力を注ぎ込んでも起動すらしないので、一度こちらの研究所見て欲しいと」

「これ…スマホに似ていますね」

「そうなんですよ。なので俺が預かり、一度ディアが持っているスマホと見比べたくてこちらに持ち込みました」


持ち主のハヅキ様があちらの世界に戻って以来、スマホは一度も光ることなくただの薄い板と化した。それでも大切な思い出の品として部屋に飾っていたのを、今日は事前に頼まれていたためここに持ってきている。


「並べて見るとかなり似ていますね。あちらの世界から持ち込まれたものなのでしょうか?」

「入手の経緯は存じ上げませんが、その可能性は高いですね。魔術遺産はあちらの世界で使われているものに酷似していることが多いようなので。入手の経緯などは伺っていませんが、カレン様経由でファーレンに尋ねてみるべきか…あれ、今少し光りませんでしたか?」

「本当ですね…どうなっているのでしょう」


エルディオ様の指摘で、スマホと謎の魔術遺産の二つとも画面が薄ら光り出したことに気付く。気になって手に取ってみたら、触れたところから体内の魔力がずわっと吸われて、それと同時に部屋中が眩い光に包まれた。しばらくするとスマホから呼び出し音が鳴り、恐る恐る画面をのぞき込むと赤と緑の丸いボタンのようなものが表示されている。まるで何かに呼ばれるような感覚に陥り、気付いたら私は緑のボタンを押していた。


『―――――うそ、繋がった!?』

「…………ハヅキ様!?」


画面の向こうには、最後に見たときよりも髪が伸びて少し大人びたハヅキ様の姿があった。


『えっなにこれどゆこと?そこにあるのってまさかポケットWi-Fi…?そっちの世界にギガとかあるの!?』

「これはまた研究のし甲斐がありそうだな…」


◇◇◇


後にハヅキ様はアデリア王国のリモート聖女の異名をとることになるが、それはまた別のお話。

これにて本編完結です!あと一、二話ほど小話を掲載したら、完結設定に変更予定です。

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― 新着の感想 ―
リモート聖女は笑える。まさかこの世界にWi-Fiやギガが存在するだなんて……!電話代とかは誰が払うんでしょうね?
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