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45.

「カレンお義姉様、ありがとうございます。お陰でコルテス公爵令息とも話せました」

「あぁっ、ディアレインってばまた一人で全部解決して…!」


母はそう言って嘆くが、私一人で解決したことなど何もないのだ。


「お母様。私、何歳になっても可愛く美しくて、ずっとお父様を一途に愛し続けているお母様の事が好きですよ。次期王を目指せなくなっても、王族じゃなくなってでもお父様を選んだお母様の強さを尊敬しています。私もお母様のように、自分で選びたい道を選んだのです。だから、気に病むことは一つもありませんからね」


そう告げると母は、静かにハラハラと涙を流した。


「私はね……あの人との結婚をお父様に許してもらうために、生まれてきた子供の中から一番魔力保有量が高い子を王家に差し出すという条件を、何も考えずに飲んだの。それで最愛の人と結婚できるなら構わないって…」

「お母様が王家に生まれて幸せだったから、王家に入る自分の子供もきっと幸せになれると思ったのでしょう?」

「えぇ…大好きなお兄様とフェミナ様の御子に嫁がせるのなら、なんの心配もいらないと……でもそれは、私の都合のいい思い込みだったのよ」


母はそう言うが、ローハルト殿下から婚約破棄された今でもカレン様は私を義妹だと思ってくれているし、ローハルト殿下と話し合いをしてお互いの気持ちに正直になった上で婚約を破棄した今、清々しい気持ちでいる。


「確かにローハルト殿下との婚約はなくなりましたが、最終的には自分で決めたことです。あちらからの申し出ですし、このことが原因で今更お父様とお母様の婚姻を問題視されることもないでしょう。だからこれでいいのですよ。いつまでも悲しい顔をしていないで、頑張った娘を労ってくれでもいいのではありません?」


母の気持ちを上向きにしたくて、意識して明るく甘えてみる。女性には皆笑顔で居て欲しいし、それは母も例外ではない。


「ディアレイン……っ!あなたは私と旦那様の、最高の娘よ。よく頑張ったわ!!!」


まだまだ涙は止まらないようだけど、力強くぎゅっと抱きしめてくれた。思いがけない行為に胸がじんわりと暖かくなり、不覚にも少し涙がこぼれた。


◇◇◇


「ところでディアレイン、さっきからあなたの後ろに控えているこちらの殿方は、どちらのご子息かしら?」

「こちらの御方はカレンデュラ殿下の優秀な側近で、一連の騒動の最中私を守り教え導いてくださった、大切な師匠なのです」

「ディア様ちょっと!?もっと普通の紹介でお願いします!!!!」


エルディオ様がカレン様の側近になったのは留学の直前だった上、留学へは帯同せずアデリア王国での出来事を詳細に伝えカレン様に代わりアデリア国内で暗躍していたため、その存在は秘されていたと言っても過言ではない。いわばカレン様の切り札のような存在で、決して大袈裟な紹介ではないのだ。


「あなた…うちの娘を愛称で呼んでいるのは何故?」

「私からそう呼んでいただきたいとお願いしたのです」

「まぁ!まぁ!!そうなのね!!!」


先程まで泣いていた母が満面の笑みを浮かべて、再び私を抱きしめる。


「あなたを支えてくれる殿方がもういるだなんて、お母様嬉しいわ!殿下との婚約も円満に破棄されたのなら、早急にお話を進めなくてはね!!」


さっそく旦那様に教えなくちゃとウキウキしているが、エルディオ様の存在はカレン様の今後の動きによって側近として公表されるか今までのように密かに行動されるか変わってくると思うので、まずはカレン様にお伺いを立てる必要があるだろう。そのためにはまだまだやることが山積みだ。


「お母様、まずは国王陛下ご夫妻に改めてご報告が必要ですし、コルテス公爵令息以外の殿下の側近たちの処遇も決めねばなりません。エルディオ様のことはまたいずれ…」

「そうね、わかったわ!エルディオさんとおっしゃるのですね。後程改めて主人とご挨拶に伺いますわ」

「ベスター公爵夫人、何やら思い違いをなさっているようですが……って足速っ!?」


母は出入り口付近に待機していた護衛と侍女を伴って、父のいる王城へ向かうようだ。コルテス公爵父子は王城へ向かい、改めて国王陛下夫妻に今回の事態を謝罪してから領地で謹慎するという。ローハルト殿下はヴィオレッタ様とリンドール辺境伯嫡男と行動を共にするようなのでひとまず安心だ。残された我々は聖堂へ戻り、ご令嬢たちの様子を伺うことにした。


◇◇◇


「ディアレイン様、お帰りなさいませ!」

「穏やかなお顔でいらっしゃるということは、憂いは取り払われたのですね?」

「此度の騒動が落ち着かれたら学園に戻ってこられますか!?」


やはりご令嬢たちは私の最大の癒しかつ、慈しみ守るべき存在である。こんなにも慕ってくださる皆様のことが大好きだ。


「心配かけてごめんなさい、皆様。婚約は円満に解消という形になりそうで、おそらく退学処分も取り消されるでしょう。こんなにも皆様の御心を煩わせた私ですが、卒業まで皆様と共に学園で過ごしたいのです。受け入れてくださいますか?」

「「「もちろんです!」」」


未来の王子妃じゃなくなっても、一人として態度を変えないで接してくれることも嬉しい。母の愛情で暖かくなった胸がもっとぽかぽかする。私たちが奥で話し合いをしている間にご令嬢たちも概ね決着がついたようで、大半のご令嬢が慰謝料をもぎ取りながらの婚約破棄となったようだ。この場合の慰謝料は金銭の過多が大事なのではなく、相手方から支払われたという記録を残しておくことで、あちらに過失があったことを明らかにするための大事な手段だ。意外だったのはナナリー様で、お相手のあまりに必死の形相を見て、これからの頑張り次第では再婚約を検討することにしたそうだ。今までどこかよそよそしい態度だった婚約者が実はかなりの奥手で、お見合いでの出会いにも関わらずナナリー様を深く愛しておいでだということがわかり、彼女も戸惑っているようだ。ほんのり耳が赤く染まっているので、彼の頑張り次第ではこれからよき関係を築けそうだ。ナナリー様を幸せにできるよう頑張っていただきたい。他にも数名はローハルト殿下が共に頭を下げた甲斐もあり、今後の様子次第では再婚約を検討するようだ。


「此度の騒動を経て、自分の気持ちを見つめ直すことが出来ました。望む未来を掴むためには自ら動いて道を切り開かなくては、ですね」

「ディアレイン様が皆をまとめてくださるお陰で、私たちはみな在学中によき友人に恵まれました。良家との縁談に固執せず、今のうちに様々な経験を積み重ねていきたいです」


彼女たちはもう心配ないだろう。覚悟を決めた者は強いのだ。


「この中にもし外に勤めに出たい者がいれば、一度わたくしに相談なさい。成績と適性を見ての判断になりますけど、城仕えの侍女や家庭教師、研究所や図書館の仕事を紹介出来るわ。あと、コーデリア・マイヤーはいるかしら?」

「はい!ここにおります!!」

「アレッタと同じように、優秀な人材がいるのならば積極的に声をお掛けなさい。これからのマイヤー商会に期待しているわ」

「あ、ありがとうございます!!」


孤児院や修道院でしていたように、ご令嬢方に今後の提案をしているカレン様を見て、カレン様の覚悟がほの見えた気がした。


「カレンお義姉様は、留学を切り上げアデリアに戻られることになさったのでしょうか?それは…」

「その通りよ、ディア。わたくしは大きな決断をしたの。そして、あなたにもついて来て欲しいと思っているわ」


ニッコリ笑ったカレン様は、右手で私を、左手でハヅキ様の手を取った。


「さぁ、すべてを終わらせて次へ進みましょう?」

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