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30.それぞれの想いが交差します。

セイタロウ様とムツキ様は、ハヅキ様が突然目の前から消えてしまった後、こちらの世界の様子をゲーム画面を通じて断片的に見ていたという。途切れ途切れな上に音声が入らないので詳しい状況はわからないものの、王宮で丁寧に遇されているようだったので、安全な場所にいる間にどうにかして連れ戻せないか話し合っていたそうだ。ヒントを探すためにプレイ途中だった隠しルートを進めていたところ、ゲームの内容と重なるようにこちらの世界とハッキリ繋がったということだった。そこまで話したところで再び通信が途切れたので、ひとまず私は修道院に戻ることにした。


「ディアさん、取り乱して迷惑をかけてしまってごめんなさい!来てくれて嬉しかったし、安心しました」

「私もハヅキ様にお会い出来て嬉しかったです。我が家にお連れするのは難しいとわかったので、断念しますね…」

「えっあれ本気だったの…?」

「ご安心ください。愛し合う二人を引き離すつもりなど毛頭ございませんので。あちらに戻る方法を全力で探してきますね!」


◇◇◇


ハヅキ様のいる離宮から転移で修道院に戻ったら、カレン様が待ち構えていた。


「連絡があったからいいものの、急に飛び出してはいけないわ。せめてエルディオを伴うようになさい」

「お義姉様、すみませんでした。ハヅキ様の涙を見たら居ても立っても居られず…」

「行くなと言っているわけではないのよ。今のディアは危うい身の上なのだから、外出には細心の注意を払って欲しいの」

「ディアレイン様、どこかへ行くならいつでもお供するので必ずお声がけください。いざってときに役立つ魔道具や魔法陣を隠し持っているので、お一人で行動されるより安全でしょう」

「はい、ありがとうございます」


私が不在中に、修道院にいらしたご令嬢方も落ち着いたようだ。全員寮には戻らず、家族との仲が良好な者は王都の屋敷にカレン様からの書状を持って戻り、婚約破棄による心労で静養中という体でしばらく外部と連絡を必要最低限にして待機してもらい、ローハルト殿下を断罪する際に証言などの協力をしてもらうことになる。屋敷に帰ることに不安がある者は、今日のところは修道院に泊まることになったというので、私一人ではなくなったことが、状況的に不謹慎だけどほんの少し嬉しかった。


「ディアとエルディオは、明日は朝から言語学研究室へ行ってちょうだい。わたくしはヴェイアの知己に連絡を取ってあちらの世界に戻る方法を探すのと同時に、ノルディラへ内密に繋ぎを取ってみるわ。ローゼマリーの嫁ぎ先の大国ファーレンならノルディラとの国交が我が国よりあるでしょうし、マリーの負担にならないよう交渉出来そうなら、そちらの線も検討します」


カレン様はそう言い残し、転移で王城に帰って行かれた。


◇◇◇


「師匠、本日も遅くまでありがとうございました。また明日もよろしくお願いいたします」

「ディアレイン様も、今日は色々あってお疲れでしょう。ゆっくり休まれてくださいね」


いつでも気遣いを忘れないエルディオ様の優しさに胸が暖かくなるのと同時に、どうしても一つ気になっていることがあるので、思い切ってぶつけてみることにした。


「…あの、師匠、一つよろしいでしょうか?」

「はい?」

「カレン様もハヅキ様も、私の事をディアと呼びます。できれば師匠にもそう呼んでいただきたいのです」

「え?俺にも、ですか?」

「はい。なんといいますか、今回の件に関わっている皆様の事は仲間というか、同士のように感じております。中でも師匠は日々の行動を共にしている頼もしい存在で、私を導いてくれる先達なのです。畏まって呼ばれるより、愛称で呼んでくださったら嬉しく存じます」


何故だか少し早口になってしまった。内心どきどきしながらエルディオ様の返答を待つ。


「うーん…愛称で呼ぶのはおこがましいと言うか、俺みたいな伯爵家のしがない三男が筆頭公爵家のご令嬢を愛称で呼ばせていただくなんて」

「それ!それをやめてください!!」

「はい!?」

「どこの家の誰とかではなく、カレン様に仕える者として、志を同じくする相手として見てはいただけませんか…?」

「………あぁ、そうですね。確かにその通りだ。あなたに失礼なことを言いました、ディア様」


エルディオ様は、本気で司書を目指すのであれば受け入れると言ってくださった時と同じ、とても優しいお顔で笑ってくれた。私の思いをわかってくださったことが伝わってきて胸が暖かくなり、自然と微笑みを返した。


「ありがとうございます、師匠。お引止めしてしまい申し訳ありません」

「こちらこそ、お時間を取らせましたね。明日も忙しくなると思いますので、しっかり睡眠を摂ってください」


カレン様の魔力が籠った魔石で転移陣を起動し、エルディオ様も帰っていった。


◇◇◇


――――――その様子を、物陰でそっと見守っていたご令嬢が二人。


「ねぇ、ユリア。あの殿方にディアレイン様は随分と気を許しているのではなくて…?」

「えぇ、ララ。私にもそのように見えたわ…」


就寝前にディアレインに一目会おうと待ち構えていた二人は、どことなく甘やかな雰囲気が漂うエルディオ・ハーヴェイとディアレインのやり取りをばっちり目撃したのであった。

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