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25.

『お嬢様、お戻りになられたのですね…!よかった…』


ベスター公爵邸との通信も復旧し、ミリアの安堵の声が聞こえてきた。こちらの状況は知らされていたようだが、気が気じゃなかっただろう。


「心配かけたわね、ミリア。私もエルディオ様も無事だし、ハヅキ様がこちらと映像付きで通信を繋いでくださったから、そういった意味でも安心してね」

『はい。ハヅキ様にはお嬢様の名誉を守っていただき、感謝の念に堪えません』

『さ、ささ、さっきのは事故ですもんね…!えぇ、私は何も見てません!!!』

「もちろん何もありませんでした!家名に!!誓います!!!」

「どうかしましたか?二人とも」


ハヅキ様もエルディオ様も顔を赤くして首をぶんぶん横に振っているけど、さっきの事故は完全に私の不注意なので何も気にしないで欲しい。ミリアに変に勘繰られて叱られたくないので、私は二人の様子に構わず話を進めることにした。禁書庫で見つけたノルディラの本に聖女の手記が残されていたこと、ニホンゴで書かれているためハヅキ様にしか読めないこと、ノルディラの聖女は元の世界に戻る方法を知っていることをカレン様に早急に伝えなくてはいけない。


「ミリア、禁書庫の探索は順調よ。本日の図書館業務が終わったらカレン様にお会いして直接お話したいから、そのつもりで段取りしてちょうだい」

『わかりました。公爵邸と修道院、どちらでお会いになりますか?』

「修道院にするわ。一度公爵邸に戻って身支度してから向かうから、支度をよろしくね」


ミリアとの通信を終わらせた私は、ハヅキ様に改めてお礼した。


「ハヅキ様が通信を復旧してくださり、とても心強かったです。手がかりも見付かりましたし、エルディオ様の解術の魔法陣のお陰ですんなり戻ってくることも出来たので、一歩前進ですね!」

『……解術の魔法陣のお陰なんでしょうか……』

「ハヅキ様?」

『ゲームではヒロインとレオカディオの仲が、えっと、こう、なんていうか…そう、二人が仲良くなることで出てこられるんです…』

「…………もしかしたら、俺が描いた魔法陣の効果で出てこれたんじゃなくて…………?」

『お二人が密着したときの様子が、ゲームでいうところのイベントスチルみたいだったんですよ…あ、イベントスチルっていうのはですね』

「聖女様もう結構です!俺はそれ以上聞きません!!」


いつの間にかハヅキ様とエルディオ様が親しくなっているように見える。どこかで話す機会でもあったのだろうか、羨ましい。そのままハヅキ様との通信も終わらせたエルディオ様が私に向き直る。


「ディアレイン様は本当になんともありませんか?」

「えぇ、大丈夫です。結構時間が経ってしまいましたし、そろそろ図書館が混んでくる頃合いですので、ひとまずは業務に戻りませんか?」

「そうですね。カレン様には俺の方から連絡をしておくので、終業後に報告会を開くとしましょう。この後は閉館まで忙しくなると思うので、外に出たら少し休憩しましょうね。慣れないことばかりな上、変な場所に閉じ込められてお疲れでしょうから」


エルディオ様はそうおっしゃったけど、私はちっとも疲れていなかった。ハヅキ様が帰る手掛かりが見付かって気分が高揚していたし、午前中の図書館業務も楽しかったのでこの後の業務も楽しみだ。何よりエルディオ様はずっと一緒に居ても不思議と気を遣わず自然体で接することが出来るし、とてもご立派で見習うべきことがたくさんあるのでもっと一緒に居たいとすら思う。そう伝えたらエルディオ様は頭を抱えて座り込んでしまったので、私よりお疲れなのだろう。早く遮蔽空間から出るために短時間で魔法陣を沢山描いていたし、疲れて当然だ。この後の業務では負担があまり行かないよう精一杯補佐しようと決めた。


◇◇◇


「ディア、待っていたわ。一日大変だったでしょう。疲れているところ申し訳ないわ」

「お義姉様!お待たせいたしました!!」


直接お会いするのは再会した日以来なので、浮足立ってしまう。いつだってカレン様は私の太陽なのだ。


「人払いをしてあるから、自由に発言して構わないわ。どんな手掛かりが見付かったのか具体的に教えて頂戴」


カレン様に乞われて、禁書庫での出来事を話した。ゲームのレオカディオルートに出てきた本に刻まれていた魔法陣の力で遮蔽空間に閉じ込められたこと、その本にハヅキ様の国の言葉で書かれた記述があったこと、それを書いたのが恐らくかの国の聖女で、元の世界に戻れる方法があることが記されていたが、肝心の方法は破り取られていたこと。全てを話し終えるとカレン様は、スッと目を細めてエルディオ様を見つめた。


「へぇ…あなた、ほんの少しの間とはいえ、遮蔽空間でディアと二人きりになったのね」

「カレン様、不可抗力です。すぐハヅキ様が通信を復旧されましたし、二人きりの間は本を読んでいただけですので、やましいことは一切ありません」

「ないならいいのだけど、あったなら正直に報せなさい。その時は当然だけど責任を取らせますからね」

「何を言うんです!?家名に誓ってこの先も俺は何もしませんが、そんな恐ろしいもしもの話をしないでくれません!?」

「まぁ、誓ってしまっていいのかしら。ディアはとっても魅力的な女の子なのよ?」

「カレン様は俺にどうしろと!?」


手掛かりが見付かったことよりも先に私の身を案じてくださるなんて、カレン様はどこまでお優しいのだろうか。そして師匠が狼狽しているのでここは私がフォローしなくてはと、二人の会話に口を挟んだ。


「お義姉様、ご安心ください!私が足をもつれさせてしまった際に師匠が優しく受け止めてくださっただけで、それ以外の接触はありませんでした!!」

「なんの悪気もなくバラされた!!!!」

「まぁそうなの、ディアに怪我がなかったなら何よりだわ。エルディオ、後でその時の状況を詳しく聞かせてもらいますからね?」


カレン様はそっと私の肩を抱いて、エルディオ様に極上の微笑みを向けた。

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