表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/57

24.

「魔術で遮蔽された空間なら、それ打ち消すぐらいの大きな魔力を流し込んで空間ごと壊してしまうのはどうでしょう?ハヅキ様の通信が繋がるようになったくらいですし、カレン様にご助力いただいて足りなければテオを呼んだらいけるんじゃないかと思うんです」

「それは俺も考えましたが、それを実行したときに中にいる我々が無事で済むかどうか…」

『ほ、他の方法を考えましょう!ディアさん意外と力技が好きなんですね…?』


力技が好きというか、その時思いつく一番手っ取り早い方法を選びたかったのだ。とはいえ我々が無事に戻れないとあちこちで問題が発生してしまうのでこの方法は最終手段にしよう。


「力技じゃないとなると、この空間を構築している魔法陣を打ち破る効果の魔法陣を重ねるのが一番早いかな…。いくつか使えそうなものがあるので急ぎ用意します。すみません、ディアレイン様は少し待っていてください」


エルディオ様は様々な魔法陣を手持ちの紙に書き出し、色々試してみることにしたようだ。いついかなる時でも準備万端で、落ち着いて自分の知識を引き出して行動に移れるのはご立派だと思う。さすが師匠だ。魔力が必要になったらいつでも提供できるよう心構えをしつつ、エルディオ様を待つ間に私は気になっていたことをハヅキ様に尋ねてみた。


「そういえば、例のゲームにはこの本が出てくるのですよね?ハヅキ様は内容をご存じなのでしょうか」

『たしか南方のノルディラ王国の王族の手記ですよね。レオカディオルートでは、この本がキッカケで遮蔽空間に閉じ込められるだけで、どんな本なのかはさらっと説明されるだけでした。内容云々というより、二人で閉じ込められることが重要だったので』

「実は、巻末の方に私も師匠も読めない文字で何ページか記述があるんです。ハヅキ様にも見ていただいてもいいですか?」

『それならお役に立てるかもしれません!アデリア王国の文字って私の国の文字と全然違うのに、何故か最初から全部読めるし言葉にも不自由したことがないんですよ』


それは朗報だ。該当のページを開きハヅキ様が見やすいように近付けると、自分にも出来ることがあると嬉しそうにニコニコしていたハヅキ様のお可愛らしい顔が驚きの表情に変わった。


『え、なんでコレ日本語で書かれてるの!?こっちの本だよね…?』

「ニホンゴ…ということはもしや、ハヅキ様の世界の言語なのですか?」


どうりで私もエルディオ様もさっぱり読めなかったわけだ。


『そうです、私の世界の言葉です!今読んでみますね…!』


◇◇◇


【ノルディラ王国はどこに行っても凄く暑くて、北海道出身の私には到底耐えられないので、まずは自分が快適に生きていけるよう環境を整えるのに随分時間を掛けてしまった。そうこうしている内にアレクシスルートに入って否応なし内乱に巻き込まれてしまったけど、ゲームで知っていたアレクシスより目の前の彼は魅力的で、元はルシウス推しだったけど乗り換えようと思う。日本に帰ったところでろくでもない両親の面倒を見る羽目になるだけなので、仲良しの友達や課金しまくったソシャゲに未練はあるけど、アレクシスが私を愛してくれるならこの世界で生きていこうと思う。帰る方法は私にとっては少し難しいし、丁度よかったと考えよう。いつか帰りたくなる日が来るかもしれないので、忘れないようここに記しておく】


◇◇◇


『………って、なんでここまでしかないのーーーーーっ!?』

「破り取られているようですね、残念ながら。聖女様に帰られてしまうと不都合な人間の手によるものでしょうか」

「王子がアレクシスとルシウスで、内乱が多くて一年中暑いノルディラ王国……うーん、タイトルはド忘れしちゃったけど、シーク様的なキャラが出てくるゲームがこんな感じの設定だったような……」


どうやらノルディラ王国を舞台にした乙女ゲームがあるようで、ハヅキ様が読み上げた文章はおそらくノルディラの聖女ことゲームのヒロインが記したものだろう。あちらの聖女は自らの意思で、第三王子とこの世界で生きていくことを決意したようだ。


「このお方はノルディラで生きていくことを自ら選んだようですが、帰る方法をご存じのようですね。アデリアとは距離も遠く食品の輸出入くらいしか繫がりがない国ですが、王家を通じて連絡を取ることは出来ると思います」

『万が一連絡が取れなかったり、この人が協力してくれなかったとしても、帰る手段があるんだってわかっただけでホッとしました!よかったぁ…』

「これ以外にも禁書庫に他にもニホンゴの本がないか、そちらに戻ったら早速探してみますね!」

『お願いします!』


通信機越しに微笑み合っていると、魔法陣を書き終えたエルディオ様が声を掛けてきた。


「時間が掛かってしまってすみません。この本の魔法陣に重ねるには通常この国で使われている術式では上手く噛み合わなそうなので、いくつか用意したものを色々試してみます。まずはこちらの解術の魔法陣を…って、なんだかニコニコしてますが、お二人ともどうしたんですか?」

「師匠!ハヅキ様が元の世界に戻る手掛かりが見つかりました!!この本なのですが…」


少しでも早く共有しようと本を片手に駆け寄ったら、普段あまり走ることがないせいかうっかり足がもつれてしまう。


「わわっ、師匠!避けてください!」

「うぉっと!?」


体勢を崩して、魔法陣が書かれた紙束を両手に抱え込んでいたエルディオ様に向かって思いっきり突っ込んでしまい、諸共後ろのベッドに倒れこむ。私はそのままエルディオ様に覆いかぶさる体勢になり、彼の熱を肌に感じる。ここまで異性と密着したのは、父を除いたら初めてではないだろうか。


「……殿方は、女性と比べて、あまり柔らかくないのですね」

「最初の感想がそれなんですか…!?」


動揺して思わず心の声が漏れ出たタイミングで、室内の光がカッと強くなり薄いガラスが割れたような音が聞こえた。次の瞬間には、私たち二人は元居た禁書庫に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ