15.
「テオ!抜け駆けだなんてずるいのだわ!!私だってディアお義姉様のことを案じていたのに!!!」
「ユリア、僕は姉上から直々にメッセージを受け取ったんだ。何をおいても駆けつけなくてはならなかったのだ!」
「私、本を返却しなさいって伝えただけなのだけど?」
「俺、もう業務に戻ってもいいですかね…」
そもそもここは王立図書館の図書閲覧用の個室で、外部に声が漏れないよう防音の魔道具を使っているのに、何故ユリアはたどり着けたのだろうか。
「僕とユリアは互いがどこにいるのかすぐにわかるよう、追跡の魔術具を預け合っているんです」
「互いの危機にはすぐに駆け付けたいですし、どこかで浮気していたら制裁を加えないといけませんから!」
親同士が決めた婚約者なのに仲睦まじくて何よりだけど、二人とも過激というか猪突猛進なところがあるので、姉は些か心配である。
「そんなことよりもお義姉様!お会いしとうございました!!お義姉様がいなくなった女子寮は火が消えたようで…それもこれもあのボンクラ殿下が!愚かなことを!!するからですわーーーっ!!!」
「ユリア、君が僕と同じ気持ちでいてくれてとても心強いよ。愚かなローハルト殿下は相応の報いを受けなくてはいけないね」
「すでに女子寮では、お義姉様を袖にした挙句無実の罪を着せて学園から追放したローハルト殿下の罪は重いと、女学生たちが一丸となって断罪する準備をしているわ。テオ、貴方と私たちが力を合わせれば王子殿下一人くらいどうとでも出来るわよね?」
「あぁもちろんだ!共に戦おう!!」
「待ちなさい二人とも、戦ってどうするの。ベスター公爵家とハッセ伯爵家を危うい立場に追い込むような真似をしてはいけないわ」
「ご安心くださいディアお義姉様!手を下す際は間に数人挟むことで足がつかないようにいたしますわ!!」
「何を安心しろというのかしら…!?」
頭を抱えていたら、通信の魔道具にミリアからの呼び出しがあった。
『お嬢様、ひとまずテオ坊ちゃまとユリアーナ様を公爵邸へお連れしましょう。図書館の個室をいつまでも占領していては利用者の方々にご迷惑ですし、落ち着けるところへ移動した方がよいと思われます』
「ありがとう、そうするわ。これ以上師匠に身内の恥を見せるのも…ね…」
「今見聞きしたことは他言しませんので、どうかご安心なさってください。そもそも衝撃的過ぎて人に話せる気がしません…」
移動の前に、カレン様にも連絡することにした。テオには事情を説明したけどユリアにも話していいものか判断を仰ぎたかったのと、二人から学園の様子を聞き出すにあたりどのような情報があるとよいのかを確認するためだ。
「カレン様、お忙しいところ申し訳ありません。弟のテオドールと、その婚約者のハッセ伯爵家のユリアーナがこちらに来ておりまして…」
『久しいわね、テオドール。ユリアーナも息災だったかしら?』
「「カレンデュラ王女殿下!!??」」
『ふふ、息ピッタリね。そんな二人にも協力してもらおうかしら』
私とテオとユリアは公爵邸に移動し、カレン様とエルディオ様も通信盤で音声を繋いで五人で話し合うことになった。
◇◇◇
「お義姉様という素晴らしい婚約者がありながら他の女にうつつを抜かすだなんて、信じられません!!!ローハルト殿下には失望いたしました!!!!」
『学園は学生たちの自主性を重んじて、学内で起こった問題は当人同士で解決させようとするからかしら。今回の婚約破棄騒動についても曖昧な報告しか上がってきていないのよ。貴方たち二人には、学園内部のことを調べてもらいたいの。出来るかしら?』
「「おまかせください!!!!!!」」
学園側は夜会での出来事を王家に報告してはいるものの、その内容は実際起こった出来事から大きく改竄されていた。私は婚約破棄されたのではなく、聖女と殿下の仲を祝福し自ら身を引いたことになっているらしい。傷心のため殿下と同じ学園で過ごすことが辛いので休学届を出したと陛下やベスター公爵家には伝えられているようで、さすがに怒りが込み上げてきた。
「情報の改竄なんて、すぐに露呈するだろうに…王家や我が公爵家がそれを見過ごすとでも思ったのでしょうか」
『図書館や研究所と違って、同じ敷地内に建ってはいるものの王立学園はハーヴェイ伯爵家と管轄が異なります。あちらの上層部にローハルト殿下の、ひいてはベスター公爵家を排したい者の手が回っていると考えるのが妥当なところかと』
「王女殿下が戻られていなかったら、陛下方は学園からの報告を鵜呑みにしていた可能性もあるのですわね…」
殿下が正当な手段を取っていて、尚且つハヅキ様と真に恋仲なのであれば、私自身は婚約者の立場を降りることはやぶさかではなかった。それなのに殿下は、ハヅキ様の御気持ちを無視して好き勝手な行動を取り、あまつさえ自身の側近にいいように誘導されている可能性もある。あまりにも愚かだ。皆が意見を交わす中静かに怒りを募らせた私は、テオとユリアに指示を出した。
「テオドール、あなたはローハルト殿下の交友関係を改めて調べなさい。ハヅキ様がこの国にいらっしゃる前後で変わったことがあればそこは特に念入りにね。貴族でも平民でも関係なく徹底的に調べつくしなさい」
「姉上、よろこんで!」
「ユリアーナ。貴方はテオと協力して、殿下と親しい男子学生の姉妹や婚約者について調べて頂戴。あまり考えたくないけれど、私が殿下の婚約者であることを快く思っていない女学生が関わっている可能性を考慮して背後を洗っておきたいわ。そんな方はいないと思いたいのだけど…」
「ディアお義姉様の頼みならば、よろこんで!もしそのような不届きな女学生がいた場合はこちらで制裁を加えてもよろしいでしょうか?」
「ダメよ、絶対に。貴方たちにお願いするのはあくまで情報を得ることだけ。二人が危ない目に遭うのも、誰かを危ない目に遭わせてしまうのも、私は嫌だわ」
「姉上…!」「お義姉様…!」
『ふふ、ディアってば頼もしいわ。わたくしの出る幕はなかったわね』
「はっ!カレン様がおられるというのに、私ってば出過ぎた真似を!!」
『いいえ、構わなくてよ』
カレン様を差し置いてつい指示を出してしまったが、ご意向に沿えていたようでホッとする。きっと私に見えている以上のことがカレン様には見えていて、私では想像がつかないような大局を見据えて動いているのだろうけど、それでも同じ方向に歩めていることに安堵した。
「寮に戻ったらあなたたち二人が自由に会うこともままならないでしょうし、二人にはそれぞれ通信機を渡しておくわ。制服の胸ポケットにでも忍ばせておいてね」
『王立研究所で改良された小型機の試作品なので、不具合があったら知らせてください。見つかったらまずい相手に知られた場合は、証拠隠滅のために破棄しても構いません』
「「わかりました!」」
テオとユリアの二人は寮に戻り、早速情報収集を始めてくれることになった。長期休暇に入る目前の帰省準備期間なので半日しか授業がないため、時間はたっぷりある。
「私は引き続き王立図書館で見習いに扮して、見付からないように警戒しながらエルディオ様と禁書庫の文献を探索するわ」
「お義姉様が図書館の見習いに…?で、では、図書館に行けばお会いできるのですね!?」
「あぁっ!ずるいぞユリア!!」
「先に抜け駆けしたのはテオの方でしょう!!」
私を巡る不毛な争いがまた始まったので、この場はジェイムズに任せて図書館に戻ることにした。ユリアが図書館に来ても変装しているので簡単にバレないとは思うが、なるべく顔を合わせないよう気を付けようと心に誓った。




