1.楽しみにしていた夜会で婚約破棄されました。
「お前が救国の聖女ハヅキを虐げていた事実を見過ごすことはできない!アデリア王国第一王子ローハルトの名において、ここに公爵令嬢ディアレイン・ベスターとの婚約を破棄する!!!!」
「はぁ…?」
今日は学園の生徒たちのみで開催する、年に一度の特別な夜会の日。季節は春から夏に移り変わり、長期休暇に入る目前。共に休暇を過ごしたいと思う異性に想いを告げたり、まだ見ぬお相手との素敵な出会いを求めてソワソワしながら楽しんだりと、まだあどけなさが残る未来の紳士淑女たちの小さな社交の場だ。
よりによってそんな素敵な日に、のっけからこれだ。つい先刻まで夜会を満喫していたご令嬢たちが心配そうにこちらを見ており、今日という日を楽しみにしていた彼女たちに申し訳なくなる。
「ローハルト殿下、ひとまず落ち着かれてはいかがですか?込み入ったお話のようですし、何も皆がいる前で話さなくても…」
「黙れ!もう婚約者でもなんでもないお前が私に指図するなど不敬であるぞ!!わが妃には聖女ハヅキを迎えるので、お前はもうここから立ち去るがよい。アルノルト、今すぐその女をこの場から追い出せ!!!」
「はっ」
ローハルト殿下の傍らに控えていた騎士見習い、我がベスター家と並ぶ四大公爵家のうちの一つであるコルテス公爵家のアルノルトが、些か乱暴に私の腕を掴み広間の出口へ引っ張っていく。
あまりに乱暴なふるまいに声を上げて怯える令嬢たち。どうか怯えないで欲しい、その笑顔が曇るようなことがあってはいけないわ…
と、彼女たちの元に駆け寄りたい気持ちをぐっと堪える。下手に近づいてこの騒動に巻き込んでしまっては申し訳が立たない。
あぁ、今夜は新しい恋の花を咲かせた彼女たちを微笑ましく見守ったり、恋に破れたご令嬢がいたらそっと胸を貸してまた立ち上がれるようになるまでの止まり木になろうと密かに思っていたのに。
「聖女への行いを鑑みれば国外追放にしてしかるべきだが、お前は王家の血を引く者。せめてもの慈悲で修道院送りに留めてやるので、余生は国のためにただひたすら祈りを捧げるのだ!!!!」
「ベスター公爵令嬢、同じ公爵家の人間としてあなたの行いには失望した。救国の聖女を陥れるなどなんたる非道。殿下の慈悲に感謝し、修道院で己の罪を悔い改めるのだな」
広間の扉がバタン!と大きな音を立てて閉ざされ、前に控えていた王家の衛兵たちに囲まれた私は、困惑しながら彼らに尋ねた。
「あなたたち、こうなることは殿下から聞いていたのかしら?」
「自分たちは殿下のご意向に従うまでです」
「国王陛下はなんとおっしゃっていて?」
「貴方様もご存じのことと思いますが、国王陛下御夫妻は第二王女殿下の隣国への輿入れに同行していてご不在でいらっしゃいますので…」
「えぇ、もちろん知っているわ。私の両親、ベスター公爵夫妻もそちらに同行しているもの。これはローハルト殿下の独断ね?」
その時、閉ざされた扉が再度開き、私の眼前に訓練用の剣が振り下ろされた。
「見苦しいぞ!早くここから出ていけ!!」
「きゃあっ!」
ディアレイン様、と叫ぶような呼び声が広間から複数聞こえてきたが、そちらに返事をする余裕もなく、慌てた衛兵たちに引きずられるようにしてその場から遠ざけられた。
――――――こうして私は、第一王子の婚約者からただの公爵令嬢になった。
長編はじめました。少しずつ載せていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。