21話:少しドロっとした方が好き
「2人とも何してるんだ?」
門番長が部屋に入って来た。
「ぐるぐる巻きにされてます」
「私がぐるぐる巻きにしました!」
門番長の後ろからさっきの門番がひょこっと出て言う。
「あー、そうか。悪かったな」
槍の刃ギリギリのところの柄を持ち、器用に縄を切ってくれる。
「え? 門番長何してるんですか?」
俺たちを縄でぐるぐる巻きにした門番は何とも不思議そうに聞く。
「この2人は私の客人だ。罪人でも何でもない」
依頼を受けたし、客人って言ったら客人なのかな?
「え? マジすか?」
俺たちの方へ向いて聞いてくる。
「そうだよ」
少年が自信満々に言う。まぁ、こいつは客人―――て、あれ? 客人なのか?
門番長の元勤め先の次代ってだけで、客人では無い気がする。詳しい事情は知らないから本当のところは分からないけど。
「え、じゃあ俺したことってただの邪魔だったってことです·····か?」
深刻そうに門番は言う。
この人は比較的若く、20代前半だと思う。俺はアルバイトもしたことないが、先輩の邪魔したら俺もこうなることだろう。
「まぁ、そうなるな。だけど今回は仕方ない、俺の連絡不足だ」
どうやら門番長は理想の上司というやつのようだ。俺の数少ない経験上、上の立場にいる人で素直に失敗を認める人は本当に少ない。
「いえいえ、そんなことないです。俺が全部悪いんですよ、本当にすみませんでした」
俺らに深く頭を下げる。
「べつにいいよ、その代わりあなたが門番の時は俺たちが顔見せなくても通してくれないか?」
「それだけでいいんですか? 俺はあなたたちを3時間はここに閉じ込めていたんですよ?」
いやー、そうなんだけどなー。お金貰ってもなんか後味悪いし·····あ、そうだ!
「それなら、ご飯奢ってくれませんか?」
ぐぅぅるるーという音と共に情けないことを言う。
「あははっ! いいですよ、俺もそろそろ上がれるんで美味しいお店行きましょう」
余程面白かったのか、ツボに嵌っている。
そんなに笑っていられるのも今のうちだ。3時間もここに閉じ込めていた恨み、食費で晴らしてやる。
『仮面つけたままどうやってご飯食べるんですか?』
あ。
「さぁ、ここですよ」
樽に入ったお酒の看板を立てている、見るからに酒場のお店に入り、カウンターに座る。
縄の門番の人―――グエイさんは常連らしく、注文を聞きに来た店員さんにいつもの3つと伝えていた。が、店員さんは顔を顰めながら「何のことですか?」と言っていたため常連かどうかの真偽は定かでは無くなってしまった。
だが、今はグエイさんが少年に「ダサっ」て言われたことなんてどうでもいい。
どうやって仮面を取らずに食べるかが深刻な問題だ。
「シチューとパンです」
店員さんが運んで来てくれた。グエイさんのいつものがこれかは知らない。
「さぁさぁ、テンヤ君。食べて、食べて」
自己紹介をしたので、少年以外の名前は2人とも知っている。少年はやはり、良い家のお嬢様だからなのか、名前を知られたくないようで、頑なに教えてくれなかった。
グエイさんは門番の時より気安く喋れる。あの時は仕事モードだったのだろう。
「お兄さん食べないの? なら僕が貰うよ」
「俺が食べる」
少年が俺の分まで食べようとしたが、絶対にやらん。こっちは《無限の胃袋》のせいで餓死しそうなんだ。
パンをシチューにつけて食べる。
うん、うまい。だけど、俺はもうちょっとドロっとした方が好きだな。
「お兄さんの仮面便利だね」
言われて気づいた。口の部分の仮面がなくなっている。
ルナ本当にすごいな、と思いながらパンをシチューにつけ食べる。たまにシチューだけで食べる。それを繰り返し、すぐに完食してしまった。
「この後どうするんだ?」
グエイさんが聞いてくる。俺はシチューとパンのセットを3回おかわりした。
本当はいろいろなものを食べようとしたが、他のものは時間帯のせいか軽めのものしかなく、泣く泣くシチューとパンを食べた。美味しいからいいんだけど。
「とりあえずこの子についていきます」
「いいの!?」
「少しの間だけどな」
門番長の依頼も少しの間だけということだった。
「仲の良いことで」
仲が良い訳では無い。お金を得るためだ。
「お兄さん早く行こ!」
「ああ」
少年が羽織を引っ張ってくる。
「さあ、ここが闘技場だよ!」
少年の遊びの場というのは、少し意外なところだった。ま、楽しそうだからいいけど。
少年の笑顔は目の覚めるような·····て、あれ? フードってもしかしてあまり顔隠せない·····?
とても良い笑顔が見えてしまっている。まぁ、中性的な顔だし、顔が整いすぎて美少女に見える少年にも見えなくは·····うん!




