18話:家訓
「どうしてこうなった·····」
俺は椅子に座って、丸いリングの中で戦う2人を眺める。
自分の賭けた方が勝ちそうだが、そんなこととは関係なく俺の気持ちは落ち込んでいる。
「お兄さんが賭けた方が勝ちそうだね·····」
フードを深く被った少年が俺のより少し価値の高いであろう、紙切れをヒラヒラと見せびらかし、悔しそうに言う。
「そうだな」
俺が賭けた方はどんどん攻めていき、とうとう相手の武器を弾き飛ばした。
当たり前だよなー。
公開されていた鑑定結果では俺が賭けた方が明らかに勝っていた。
なのに、鑑定結果が劣っている方に賭けるやつもいる。
さっき隣の少年に聞いても「まぁ、見てたら分かるよ」とか言っていた。見ても分からないんだが。
あーあ。なんで俺、街に来た初日で闘技場にいるんだろう、賭博する側で。
あの悪魔―――ルナと会ってからのことを振り返っていこう。
◆
俺が研究室に入ると、奥の方から大きな翼と角を持つ女性が現れた。
「おやおや、珍しいお客さんだね」
ボロボロのコートを羽織る女性は俺に近づきながら話しかけてくる。
あなたは誰ですか?
「くぉん?」
頭に浮かんだ疑問を叩きつけるが、反応は無い。
当たり前だ。狐と話せたなら、もしかしたらと考えたが、あれは同族だったから話せただけのようだ。
『共通語と振動波の習得を推奨します』
言語もスキルなんだな。
こういうのはなんというか慣れてきたせいか、反応が淡白になってしまう。
共通語と振動波を取得と、心の中で念じる。
「この子がまた来たらまずいから、入口の場所変えないとなー」
共通語を取ったおかげで、恐らく魔族とかその類であろう人が呟いた言葉を理解できた。
「もう来ないですよ」
新しく取得した2つのスキルを推奨した張本人に使い方を聞いて、活用してみる。
言われた通りすると、声が出た。口は開けてないが。
話しかけられた女性は、驚いてこちらを振り向き、攻撃してこようとしてきた。
が、その女性は攻撃態勢に移るだけで攻撃はしてこなかった。
まぁ、威圧感がありすぎて怖いけど。
「くぉっ…じゃなかった。怖いですよ、いきなり威圧してくるのやめてください」
最初に「くぉっ」と言ってしまったのは仕方ない、慣れのせいだ。
この後は、興味を持たれたのかこの世界について色々教えて貰った。
ステータスとかは元の世界のゲームであったけど、今回分かったことはゲームでは無かったせいで全然意味が分からなかった。
俺の家は厳しい家訓があり、娯楽は基本的にだめだ。
ゲームは例外中の例外で、父さんのおかげでで許された。
父さんは息子の俺が見ても頭がだめだが、武術は誰よりも優れていた。
そして、父さんは家訓に逆らい友達の家で隠れてゲームをしていたらしく、見つかった時も武術が優れているのはゲームのおかげとか言って言い逃れしたことを本人から聞いた。
ま、馬鹿なせいで神社の責任者―――宮司にはなれなかったけどな。
今の宮司は分家の人が務めている。
説明が終わると、魔剣とやらを渡すために人族のいる場所に行かないといけないらしく、人族の中で生きていけるようにしてもらった。
そして、今から武器も貰おうとしたら「よし、行ってらっしゃい。頑張って」とか言って、教室の時みたいに幾重にも数式が円の中に書かれたもの―――魔法陣が地面に現れ、光り出す。
「え、ちょっとまって、武器もらっ·····てな·····い」
話している途中で、周囲の景色が変わる。
ぐるりと周りを確認するが、背丈の低い草しかない。どこからどう見ても草原だ。
あいつ…俺を殺す気か?
俺のスキルは魔物の時にしか使えないようなものが大半だ。それに、前世で培った武術や、スキルの剣術も武器が無かったら意味がない。
それに、今気づいたことがある。金がない。
無一文で生きていけるとは思えない。そもそも、街の中にすら入れるのかすらも分からない。
あーもう、辞める。敬語辞める。敬ってもこれなら意味ないじゃん。
家訓で決められていた通り、敬語で話していたがもう決めた。絶対敬語じゃないといけないような時以外タメ口にする。
心の中で家訓に対して小さな反抗をした。