6.親友
彼女との出会いは、私がまだ6歳の頃。
お母様のご友人であった、シャルナ・ティーナ様のお屋敷に訪れた時でした。
「......あなた、とても黒い髪をしているのね」
私と違い、栗色のふわふわとした髪とほのかに桜の色の肌。
劣等感の塊の私には、彼女が眩しく見える程の美しさ。
目を丸くする彼女に、当時の私はとても怯えていました。
なぜならこの髪のせいで近所の同世代の子供にはいじめられ、妹からも汚らしいといわれ、お父様からは目を背けられる。......そんな散々な目にあっていたから。
私は心のなかでこう思います。
(......お母様は「きっと仲良くなれるわ」といってたけれど、やはりだめでした。 きっと、この子もわたくしのこと......)
しかし、そんな弱気な思いとは裏腹に。せっかくお母様が連れてきてくださったので、私も勇気をだしてこう言います。
「わ、わたくし......でも、魔物ではないのです。 病院でみてもらいましたの。 それと、毎日あらってますので、この黒い髪は......汚れでもないのです」
「......よごれ?」
きょとんとした目で首を傾げる彼女。するとすぐに口元を綻ばせ、こう言いました。
「とても艷やかな黒だわ。 まるで磨かれた黒曜石のように美しいわね......」
「え、こ、こくようせき?」
手を差し出す彼女。
「私、アセビーっていうの。 お父様に貰った黒曜石が部屋にあるわ。 見せてあげる!」
「......は、はいっ! ぜひ!」
こうして二人は仲良くなりました。月に一度互いの家へ遊びに行き、手紙は毎週出し合う程に。
◆♢◆♢◆♢
「......ここは」
転移門を抜けた先は、屋敷から少し離れた森の中でした。
「ごめんにゃ。 あんまり君と離れてしまうと使い魔である僕の存在が消えてしまうから......こんな近場にしかマーキングできなかったにゃ」
「いえ、あの場所から抜け出せただけで十分ですわ。 あなた時々姿を消していたのはこうして外へ出ていたのですね」
「そうそう」
そこでふと思いました。
「けれどあなた......魔力のある物は屋敷を出入り出来なくて?」
「ああ、屋敷を出るときは君の中に魔力を残してたから。 ちなみに君が外出するときには僕が魔力を引き受けていたにゃ」
なーるなる。だから私から常人以上の魔力が検知されなかったんですのね。
チェシャは私の知らぬところでそのような事を......なんと出来る愛猫なんでしょう。
「さて、アリメ。 君はこれからお友達の元へ向かうわけだけど、歩いていけば五時間くらいかかる距離だ」
「そう、ですわね」
「でも流石にそんな長い時間歩くのは嫌だろう?」
「嫌ですね」
即答した。
「しかし、嫌ですがどうしますの? 馬車でも乗りますか? もう夜も更けているので馬車はお借りできませんが」
お金も無いですし。多分、全部お父様に没収されていますよね。
「馬車なんか必要ないにゃ。 ほら、僕の背中みてみて」
「......背中? その翼のこと?」
パタパタと小さな羽をはためかせるチェシャ。
「そうそう。 僕の翼をみたら、ゆっくり目を閉じて。 そしてこの翼が君の背中にも生えているとイメージしてみるんだ」
イメージって......ま、まさか!?
私は言われた通り、目をつむり漆黒の翼をイメージしました。
すると背からもぞもぞと動く気配が。
「おお、すごい! さすがアリメ! 一回でちゃんと翼を形作るだなんて!」
見ればチェシャと同じ、けれどそれよりも大きな翼が出現しておりました。......まじですの?
「これは! す、すごい!」
これならば馬車以上の速さで彼女の元へ行けますわ!!
うずうずとする羽をはためかせ、空へ舞い上がる。
「あ、でも......」
と、チェシャがいうのも間に合わず。
ドオオオン――!!
空へ舞い上がったつもりの私は、近くの木に頭から突っ込んでしまいました。
「いっっったあああッ!!?」
木を打倒しておきながら私は痛い程度で済んでいる。これがヴァンパイアの頑丈な肉体のおかげなのでしょう。
......しかし、少し恥ずかしいです。
「アリメ、飛ぶ練習しようか」
「......あ、はい」
優しい目を向けるチェシャに、私はより恥ずかしくなるのでした。
(トホホ......)
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