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21.恐怖の向こう

 


 怒気のはらんだ、唸り声のような言葉。


「てめええええッ!! クソアマッ!! ぶっ殺してやる!!」


 そう言いながら、ゴブリンロードは私に手に持つナタを投げつけてきました。


 それを躱し、素早く吊るされている女性の元へ。


「いま外しますわ!」

「......」


 私の声にもはや反応する気力も無い様子。

 これは、まずい......早くお医者様に診ていただかなければ!


 ......膝から下の欠損、出血量......意識も無い......。


 ――死。


 頭を振り、それを頭の中から必死にかきけす。


「いいえ......いいえ!! 私は絶対に諦めません!!」


 鎖を解き、すぐに物陰へと彼女を隠す。


「少しだけ、もう少しだけ頑張って下さい!」


 そして狙われないよう直ぐにゴブリンロードの元へ走る。


「おうおう!! そうだ!! こいよ、女ァ!!」


「五月蝿いお口だこと! 直ぐに黙らせてあげますわ!」


「うははははっ!! お前はもっと、これから思う存分に叫ばせてやるよ!! 艷やかに、悲痛に哭けやァ!!」


 あの巨体、掴まればあの腕力で押し込められる。だから、刀で牽制しつつ隙をつくり、この左手で触れ殺す!


(捨身で行けば、彼に捕まりながら左手で殺すことも出来ます......しかし、私がやられれば彼女を救うことが出来なくなる。 それはダメ!)


 彼女が死んでしまう前に、殺らなければッ!


 ――!?


 踏み出そうとする脚が、地へついたまま動かない。


(震え、てる)


 見れば竦んで動けない脚。


 自身の心の焦り、魔族を殺すという精神的負荷。それが体を動かすことを躊躇わせる。


(――刀とは違い、確実に死を与えるこの左手......触れれば命が消える......!)


 それに気を取られた瞬間、大きな影が私を覆った。


 上を見れば、飛びかかるゴブリンロードがそこに。


「ッッ!!!」


 ドォォン!!!


 まるでこの根城全てが揺れたかのような大きな振動。


「ちい、やっぱりお前、早えなァ?」


 ギリギリで避ける事が出来た。


 ボディプレス......この巨体でなんて身軽な。


 ――けれど、私には......殺せない。


 私は、なんて弱い人間なの。


 この胸の憎悪は、なんの力にもならない。


 私に与えられたこの左手も、結局、何も掴み取ることが出来ない。


 ごめん、なさい。



 ......お母様。


 そして、アセビー。




 ドゴオオンンン!!!



 途轍もない衝撃。


 両手を組み、振り下ろされたところまでは見えていました。


 私は、頭から潰されて。



「な、なんだ、てめえ? ひょっとして、人間じゃねえのか!?」


「......?」


 目を開くと、体を覆う黒い鉱石。


 ......これは、黒曜石?


 親友の笑顔が頭を過る。


 ああ......そう、ですわね。まだ、あの人にお別れを言うまでは、死ねない。


(大丈夫、落ちついて私......冷静に!)


 そうですわ、命を奪っても――


【死神の左手】で殺しても、チェシャのように生き返らせる事は出来ます。


 ――だから。


 だから、恐れることは無い......!


 大丈夫、きっと魂を戻せるはずですわ!


 脚に魔力を溜める。


「てめえ、大人しくしやが......」


 その魔力で床を蹴りつけ、一瞬でゴブリンロードの懐へと侵入した。





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