13.魔族被害
アホみたいなスピードで空を飛ぶ私達、三人と一匹。
翼を使ってのゆったりとした飛行とはうってかわり、ぐんぐんと変わっていく景色。
今まで経験したことのない事ばかりで、私は胸が高鳴るのを感じました。
長い間、屋敷から出して貰えなかった私には世界が眩しく輝いて見えます。
「見えてきたぜぇ! そのガキの村だ!」
「ちょっと、ギラナラ様! 先程から気になっていましたがそのガキという呼び方、おやめになられたらどうかしら! 彼にはアランという名前が」
と、私の言葉は途切れる。
「僕の......お家......」
眼下の村の様相は最早人の住む場所では無くなっていました。
あらゆる建物が破壊され、まともな姿で残っているのは結界魔法が施された祠のみ。
この中に、アランのお家が......。
「これは、いったい......」
あ然としている私に、ギラナラはこう言います。
「この村は数日前ゴブリンの集団に襲撃されたんだよ」
「ゴブリン、ってあの......こう言ってはなんですが、彼らは低級レートの魔物ですわよね。 このようなことが可能なのですか」
「そうだな。 基本的には低レートのゴブリンは村の大人が三人いりゃ駆逐できる程の強さしかない。 個体差はあるがな」
基本的には。ひっかかりを覚え、私はかつての師の言葉を思い出した。
戦いにおいて数は力、敵が複数いる場合は余程の力の差がない限り、逃げろ。と。
「村を襲ったゴブリンの数は......」
「数百匹だ」
数百......戦闘訓練された兵士がいたとしても、とても勝ち目がありませんわね。
けれど、どうしてゴブリンがそのような大量の群れに?
彼らは群れを作るとしても大体四、五匹くらいだと言われています。
それが数百......作為的なモノを感じますわね。
「おまえ、もう勘づいているようだが、その通りだぜ。 ゴブリン達の動きは統率されたものだ」
「......だれに、ですの」
「ゴブリンロード。 奴らの王様だな」
私が戦ったゴブリンという魔物。彼らの個としての力は小さくとも、集団となり統率者を得ればこれ程の脅威となるのか。
まだ消えぬ血痕と、割れた硝子。その惨状の全てに恐怖を抱いた。
「そう......おもいだした」
「アラン」
彼は大粒の涙を流し、ふらふらと歩く。
そして、たどり着いた廃墟の前で膝をついた。おそらくは、彼のお家なのでしょう。
「......魔印は、この記憶を」
ギラナラが答えます。
「受け止めきれないだろ、これは。 助け出した生き残りには魔印を施してある。 ウチはそういう決まりがあるからな」
「......そう、なのですね」
私のしたことは......いったい。
酷い仕打ちはどちらのほうか。思い出さなければ、アランはこんなにも苦しまずに済んだのに。
咽び泣くアラン。
「おかぁさん......う、うぁあ」
その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に記憶が蘇る。
優しいお母様の笑顔。
そして失った、別れの時。私が涙で顔をぐちゃぐちゃにしていると、いつものように笑顔で微笑んでくれた。
頭をなで、「私はあなたの側にいるわ」と。
「......アリメ嬢」
気がつけば頬を涙が伝っていた。
彼の、アランの気持ちが痛いほどわかります。
大切な人の死は、その悲しみの深さは......。
「アラン、ごめんなさい」
「......お姉ちゃん」
抱きしめ頭を撫でる。今の私にはこれしか、出来ない。
「あなたの悲しい記憶を掘りおこすようなまねをして......本当に、ごめんなさい」
けれど、大切な人だからこそなのです。
「でも、あなたのお母様を失ったという痛みは、決して忘れてはいけないものです。 忘れなければ......あなたの心の中に、お母様は生きてらっしゃいますわ」
失っても、その愛情が確かにあったこと。それだけは忘れて失ってはいけません。
「ひっ、く、うぁああーん」
悲しみはもう消せない。けれど、私の怒りも......同様なのです。
この元凶がゴブリンならば、私は。
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