91、バナバナ星 〜闇の反射、清浄の光
シュッ!
『ふん、それで避けたつもりか? やはり、おまえも弱体化したようだな』
呪詛神デルガンダが伸ばしてきた生きている呪詛の動きは、本来の僕なら目で追えないほどのスピードだった。
(覚醒しておいてよかった)
覚醒状態では、すべての動きはスローモーションに見える。しかし、この生きている呪詛は、それでもかなりのスピードだ。見えているからこそ最小限の動きで避けたことに、奴は気づかない。
「おまえも、ということは青の神ダーラ様が弱体化したと言ってるんですか? 僕と相打ちになったことで神ダーラ様が死に、星に戻って復活したけど、まだ以前のチカラは無いということなんですね」
僕がそう反論したことで、何倍にも膨れ上がっている呪詛神デルガンダは、空中に浮かんだまま動きを止めた。呪詛の霧を纏ってどんどん膨れていたが、一瞬固まってしまったかのようだ。
(そうか、言葉によってダメージが入るんだ)
僕の配下の幻術士のカースが言ってたっけ。呪詛神は術の発動中の言葉は、諸刃の剣になるとかなんとか。精神攻撃系の術の仕組みはわからないけど、奴の様子から予測すると、ダメージになるみたいだ。
『俺様は、そんなことを言ったのではない!』
(あれ? 余裕がない声だな)
そうか、青の神ダーラが聞いているのかもしれない。女神様でさえ、ベレー帽のような魔道具を使えば、自分の星を離れていても僕達の情報を見てるんだもんな。魔導系の青の神なら、そういう力は、女神様より遥かに高いはずだ。
「へぇ、青の神ダーラ様の暴露話に聞こえましたけどね。ちなみに僕の方は、以前とは少し変わりましたよ」
僕は話しながら、地中から根切り男の闇を剣に吸収していく。植物系のアンデッドの闇は、僕が持つ二種類の闇とは全く性質が違うようだ。混ざり合わないけど、操りやすい。素直なのかな。
『おまえは、弱体化したのだろう? 赤ん坊に生まれ変わったと聞いた。イロハカルティア星の人族の成長スピードを考えれば、その姿は幻だな。あぁ、赤ん坊だから、無防備に俺様の前に現れたのか。女神イロハカルティアの番犬も、赤ん坊では役には立たぬようだな』
(やはり青の神ダーラに、声が届いているのか)
僕の状況を説明するような話し方は、さっきまでの奴とは違う。今、青の神ダーラからの干渉中かもしれない。
「神デルガンダ様、貴方が、神ダーラ様を裏切っていることはわかりました。だから、黄の星系から出て行かないのですね」
適当に時間稼ぎの話をしていると、呪詛神デルガンダは、また固まったようだ。なんだか震えている? あぁ、これは、青の神ダーラからの念話でフリーズしているのかな。
(よし、僕の準備は整った)
呪詛神デルガンダは、さっき一度だけ僕を攻撃したしようと、無数の生きている呪詛を伸ばしてきたが、その後の動きはない。奴も何かを察して、準備をしているのだろうか。
『いい加減なことをほざくな、番犬! おまえなど……』
「じゃあ、なぜ、この星にいるのです? この星を呪詛まみれにして死の星に変えた後は、神デルガンダ様はどうするつもりですか。地表が呪詛まみれになったとしても、この星の女神バナバナ様は、消滅しないでしょう。すなわち、魔法の発動を阻害するこの星の大気は、変わらずに残る」
『ぬわぁあぁああああっ! 黙れ黙れ黙れ!』
(あれ? 焦ってる?)
「貴方が隠れるには良い星ですよね。青の神ダーラ様に裏切りを知られても、この星の上なら、神ダーラ様は無力だ」
『黙れ! 無力な赤ん坊め!』
僕がさらに煽ると、呪詛神デルガンダは、再び生きている呪詛を、シュッと伸ばしてきた。さっきとは違った太い帯状の呪詛だ。
(チャンス到来だ)
僕は、奴が伸ばしてきた生きている呪詛……すなわち、奴の身体の一部に向けて剣を構えた。
僕の二種類の闇と、根切り男の植物系の闇、3種類の闇が剣から溢れ出し、激しい渦を発生させている。
そして、奴の生きている呪詛が、僕が持つ剣にまとわりつこうとして触れた瞬間……。
(蘇生!)
ピカッ!!
(くっ、重い……手がしびれる)
僕の視界は真っ白に染まった。
◇◇◇
どれくらいの時間が経ったのだろう? 体感的には数時間かな。今の僕は覚醒状態だから、実際には数分だろうか。
真っ白に染まっていた視界に、少しずつ色が戻ってきた。
僕の前にいたはずの呪詛神デルガンダの姿はない。呪詛の霧も消えている。
(よかった、上手くできたね)
僕は、ふぅっと息を吐き、覚醒状態を解除した。
後方を振り返ると、呆然とした表情の白い女神、そして同じく呆然とした根切り男がいた。
(無事でよかった)
根切り男には回復魔法が使えることはわかっていたけど、アンデッドにとってこの術はキツイかと、少し心配はあったんだ。
完全に視界を白く染めた強い光……異なる闇がぶつかるとき、蘇生魔法を起爆剤としてぶち込むと属性が反転して、聖魔法、清浄の光に変わるんだ。これを、闇の反射という。
闇の塊のような呪詛神には、おそらく最も有効な魔法だと思う。神デルガンダは身体を失った幽霊のような霊体だったから、聖魔法は直撃したはずだ。
「あ、アンタ、何者!?」
ようやく口を開いた白い女神は、まだ夢の中にいるかのような呆けた顔をしている。
「しろイめがみ、かれハ、めがみイロハカルティアさまノ、ばんけんトよばれテいたゾ」
根切り男は、目をパチクリさせながら、あたりを見回している。火山湖に浮かぶ島全体に、いや火山湖全体に、キラキラとした清浄の光が降り注いでいるようだ。
呪詛神デルガンダのオーラで倒れていた石像信仰の人達も、そろそろと立ち上がっている。この光は、体力も魔力も回復するからな。
「こレは、アンデッドのおうノ、まほうなのカ? このほしデ、こんなニモつよいまほうは、みたこトガナイ」
根切り男は、僕のそばに寄ってきた。僕から離れたままの白い女神とは対照的だな。近寄ってくるのは信頼の証だと感じた。
「根切り男さんから借りた闇も使わせてもらいました。異種の闇がぶつかるときに蘇生魔法をぶち込むと、それが起爆剤となり……」
「せいれいまほうデハないか! アンデッドのおう、なぜ、そんなまほうを……いヤ、めがみイロハカルティアさまノばんけんダッたな。ワレとしては、おどロキだ。どうブツのアンデッドが、ココまでつよイとは」
(精霊魔法を知ってるんだな)
「精霊魔法に似ているけど、僕の星では聖魔法、清浄の光と呼ばれています。イロハカルティア星では、精霊魔法はもっと広範囲に影響を及ぼすので、僕の術はただの聖魔法ですよ」
「ほう、せいれいのちかラも、ちがうのダロうな。うン?」
(あっ、あの光は……)
湖の方から、一筋の光が、僕に向かって進んでくる。呪詛神デルガンダは死んだらしい。神が死ぬと、そう一部の能力は討伐者に分け与えられる。そのための光だ。
空を見上げると、キラキラとした光がどんどん昇っていくのが見えた。呪詛神デルガンダの光だな。あれは、あのまま、奴の星へと帰っていく。自分の星で呪詛神デルガンダは復活するだろう。
(叩き斬ってやろうか)
僕は、神の能力は吸収しない。よりによって呪詛神デルガンダの能力なんて、想像するだけで吐き気がする。だからといって、ワープワーム達にも、これはさすがに吸収させたくない。
(あっ、でも誰かが吸収しないと奴は弱体化しないか)
「根切り男さん、もうちょっとこっちに来て立ってください」
「ナンだ?」
「えーっと、根切り男さんの闇を借りて、呪詛神を討つことができたので、神の能力をもらってください」
淡い光が僕を追いかけてくる。光が僕に入ろうとした瞬間、待機していたワープワームを使って、僕は、後方へとワープした。
「アンデッドのおう、ナニをいっテ……む?」
(よし、当たった!)
呪詛神デルガンダの能力の一部は、根切り男に吸い込まれていった。




