5、ハロイ島の草原 〜3つの太陽系と、ライトの野望
ワープワームを使って、僕は星の門へと移動した。精霊ヲカシノ様は、数人の来訪者と対峙している。
観光客は、宇宙船でやって来ることもあるけど、大半の来訪者は、大規模な星間転移魔法か、生身のままで宇宙空間を飛んで移動する。
彼らが宇宙船を使ってないことから、一定以上の力を持つことが推察できる。転移魔法の渦は残っていない。宇宙空間を飛んできたなら、武闘系かな。
「あっ、ライトさんも来ちゃったんだ〜。ボクはまだ何もしてないよ?」
大人の姿の精霊ヲカシノ様は、僕の顔を見るとすぐに、そんなことを言う。彼が少年の姿じゃない時点で、戦闘狂スイッチが入っていることは、わかっているんだけどな。
精霊ヲカシノ様と対峙しているのは、男5人か。この人数なら、彼が大人の姿になる必要はないはずだ。ということは、かなり強いのかな。
彼らは、余裕の笑みを浮かべながら、草原をキョロキョロと見回している。まるで何かを物色しているかのような、独特のダークな雰囲気だな。
「ヲカシノ様、何かトラブルですか?」
「うーん、まだトラブルにはなってないよー。だけど、やっぱ、宇宙海賊をあっさり通すわけにはいかないんだよね」
(宇宙海賊!?)
さっき宇宙海賊を、宇宙船を盗んだ犯人扱いしていたら、本物の宇宙海賊が現れた。これは偶然なのだろうか。もしくは、コイツらが本当に犯人?
「へぇ、宇宙海賊って初めて見ました。たくさん居るそうですね」
僕がそう語りかけると、頭にオレンジ色の羽根のような飾りをつけた人が、僕に視線を向けた。5人それぞれ、飾りの色も付けている場所も違うけど、形は同じみたいだ。
(仲間の目印かな?)
「ふぅん、坊やはサーチできないな。こっちのチャラチャラした精霊よりも格上か」
(チャラチャラって……)
確かに精霊ヲカシノ様は、ファンクラブができるほどのイケメンだけど、チャラチャラした人ではない。むしろ真逆なんだけどな。
「格が何を指すのかはわかりませんが、僕は、湖上の街の街長をしていますよ。貴方達は、赤の星系の方々ですか?」
「ふん、俺達の星は、神戦争で、青の神ダーラに潰された。だから今、流行りの宇宙海賊をやってんだよ」
(流行ってるの?)
「そうですか。宇宙海賊は、それぞれ互いに争っていると聞いたことがあるのですが、どんな感じなんですか?」
とりあえず情報を集めるべきだと考えた。僕は、この星から出ないから、他の星の様子を全然知らない。
僕はこれから、あちこちの星を回って、ポーションの行商をしていきたいと考えている。儲けようという意図ではない。黄の星系に属する星に、ポーションを広めていきたいんだ。
黄の星系は、まだ出来てから100年程度しか経っていない。女神イロハカルティア様が、城のクリスタルに貯めた膨大な魔力を利用して、黄色い太陽を創造し、黄の星系を創り上げたんだ。
もともとこの世界には、2つの太陽があり、2つの星系があった。ひとつは赤い太陽を中心とする赤の星系、もうひとつは青い太陽を中心とする青の星系だ。
赤の星系に属する星を治める神々を赤の神、そして、青の星系に属する星を治める神々を青の神と呼んでいる。
赤の星系は物理戦闘力が高く、青の星系は魔法が得意だという特徴がある。赤の神と青の神は、長年に渡り勢力争いを続けているそうだ。
2年ほど前、青の神の覇者ダーラが、イロハカルティア星に侵略戦争を仕掛けた頃には、圧倒的に青の星系が優位に立っていたようだ。
そのとき僕と相打ちになって、青の神ダーラも倒れた。神は死んでも、星がある限り復活する。ただ、その間に、赤の星系が勢力を回復したと聞いている。
この星、イロハカルティア星のある黄の星系は、勢力争いには参加しない中立の星が集まっている。赤と青の神々が中立の星を潰し始めたことで、女神イロハカルティア様が新たに創ったのが、黄の星系だ。
ただ、黄の星系は、中立の星の集まりだから、その大半は弱い神々が集まっている。簡単に攻め滅ぼされてしまう星もある。ほとんどの住人が、何の戦闘力も無いどころか、ポーションのような回復アイテムさえ存在しない星も多いんだ。
女神様は、黄の星系全体を守ろうと考えている。だが、この100年ほどで、当初の10倍近くの数に膨れあがってしまったため、無理になってきたんだ。イロハカルティア星から遠い星には、援助も間に合わない。
宇宙船を作ってくれた竜人達の星も、他の星系の住人達によって、攻め滅ぼされそうになっていたんだ。
だから、僕は、ただのポーションの行商人を装って、あちこちの星を回りたいと考えている。同じ神族で魔道具作りが得意なベアトスさんも、一緒に回ろうと話している。
そして、黄の星系に属する他の星系から狙われやすい星に、防御力をつけていきたいんだ。
黄の星系全体が防御力を高めていくことで、他の星系からの侵略を防ぐことに繋げていきたい。完全に防御できなくても、女神イロハカルティア様が侵略に気付き、対処するまでの時間稼ぎができればいい。
そうすればきっと、黄の星系への侵略行為も減るはずだ。最終的には、神戦争を起こさせないこと。それが僕の狙いだ。
「ライトさん、コイツら、答えるつもりはないみたいだよー。やっぱり通すわけにはいかないね」
僕の問いかけには、宇宙海賊を名乗る5人の男達は、何も答えない。言葉を発しないことから、念話を使って話し合っているのだろうな。
「ヲカシノ様、どうしましょうか」
「門番のボクとしては、追い返すしかないと思うよ。宇宙海賊は、黄の星系の住人が弱いと思って、狙ってるみたいなんだよねー」
彼らは突然、剣を抜いた。なぜか、適当に振り回しているように見える。
(うわ、強いな)
彼らは、彼らを拘束しようとした精霊ヲカシノ様の、捕獲結界を切り裂いたみたいだ。普通、これには気づかない。僕も、捕まるまで気づかないんだけどな。
「あちゃ、捕まえらんないや。赤の星系の人にしては、反応がいいねー」
戦闘狂スイッチの入った精霊ヲカシノ様は、めちゃくちゃ楽しそうだ。
(マズイ、本気を出しそう)
「ヲカシノ様、草原には、子供達の遊び道具が落ちてますから、壊さないでくださいよ」
僕がそう言うと、彼は、プスッと拗ねた表情を見せた。だけど、この顔は、理解してくれたみたいだな。
「おまえら、ごちゃごちゃ言ってるとぶっ殺すぞ。俺達は、アジトを建てる場所を探しているだけだ。黄の星系の創造神の星なら、簡単に青の神に潰されることもないだろうからな」
(移民か……)
「それなら、この島で受け入れますが、イロハカルティア星のルールには従ってもらいますよ」
「は? 街長か何か知らないが、俺達にこんな中立の星のルールに従えだと?」
「あはは、冗談のつもりか。俺達が、この星を統治してやろうと言っているんだよ」
宇宙海賊を名乗る男達の言葉に、また精霊ヲカシノ様は目を輝かせている。また戦闘狂スイッチが入ったか。
(仕方ないな)
僕は、スゥハァと深呼吸をする。最近あまり戦ってないんだけど、大丈夫かな。
「じゃあ、僕よりもキミ達の方が強ければ、それでいいですよ」
「はん、街長が、けなげに頑張る姿勢は悪くない。じゃ、俺達の中で一番弱い奴で……」
「いえ、5人まとめてで、構いませんよ」
僕がそう言うと、彼らは、一瞬で怒りで顔を赤くした。脳筋なんだよな、赤の星系の人達って。
5人全員が剣を抜いた。
拘束するだけでは、勝ちにならないか。僕も、魔法袋から剣を取り出す。ドワーフが作った闇耐性の高い、僕専用の剣だ。
チラッと精霊ヲカシノ様に視線を移すと、少年の姿に戻り、キラッキラに目を輝かせている。観戦することにしたみたいだな。
「俺達を舐めたことを後悔させてやるぜ!」
彼らが、一斉に飛びかかってくる。僕は、身体から一気に闇を放出した。付近は、うっすらとモヤが広がった。ただの薄い闇だ。何の効果も乗せてない。
だが、彼らには、もう、勝ち目はなくなった。
キンッ!
僕は、彼らの斬撃を剣で受け、弾き返していく。以前の僕は、覚醒を使わないと戦えなかった。だけど、赤ん坊から人生をやり直したことで、そのトラウマは克服できた。
同時に打ち込まれても、大丈夫だな。この程度のスピードなら避けられるし、弾き返せる。
「くそっ! ちょこまかと……」
ボォゥオッ!
ひとりの男が、剣に炎を纏った。