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4、ハロイ島の草原 〜戦闘狂のお菓子の家

「なぜじゃ! どこに行ったのじゃ!?」


 ここは、異空間にある女神の城。


 白壁を基調としたシンプルで美しい城の周りには、神族の居住区と呼ばれる街がある。居住区の外には、緑豊かな草原や畑が広がっていて、ここでのんびりとしたスローライフを送る神族も多い。


 城の居住区には、虹色ガス灯の広場がある。この広場には、ハロイ島から直通の転移魔法陣が設置されているため、広場付近は様々な種族が集まり、賑やかな交流が行われている。


 ライトが従えるワープワープも、いつも広場をふわふわと漂い、笑顔を振り撒いている。火の魔物なのにマスコット的な存在になっていて、天使ちゃんを目当てに広場に来る人もいるほどだ。


 この広場に異変があれば、主人であるライトはもちろん、女神イロハカルティアにも、その知らせが届けられる。ワープワームは、女神の城でも有能な監視役を務めているのだ。



「イロハちゃん、騒がしいわよ」


 猫耳の少女は、城にある私室に引きこもり、消えた宇宙船の大捜索作戦を決行していた。


 その作戦に強制参加させられているのは、頻繁に女神代行を命じられる最古の側近ナタリーだ。


 ナタリーは、もちろん神族だが、種族としては魔族だ。彼女は、地底で、魔族の国を統べる大魔王メトロギウスの妹として生まれた。ナタリーは、女神イロハカルティアの一番最初の転生者だと言われている。


 彼女は、悪魔族特有の艶っぽい美しさが溢れる30代くらいに見える姿をしているが、実年齢は、女神イロハカルティアとあまり変わらないようだ。



「イロハちゃん、宇宙船みたいな大きな物を盗む人なんて、いるのかしらぁ? 何の戦闘力も無い、ただの観光用の宇宙船でしょ?」


「消えたのじゃ。ふわりと浮かんだ気配がして振り向いた瞬間に、消えたのじゃ!」


「でも、星の門を通らないと、宇宙には出ていけないわよぉ〜。門には門番がいるわ」


 ナタリーにそう言われて、猫耳の少女はハッと我に返ったらしい。だが女神イロハカルティアは、ナタリーとは全く別のことを考えたようだ。


「猫好きな奴が盗んだのじゃっ。わらわが、宇宙船の搭乗口に描いた肉球の絵が可愛すぎたせいじゃな。天使ちゃん達が守る人工星とお揃いの猫の肉球にしたから、羨ましがらせてしまったのじゃ。猫好きな宇宙海賊が犯人じゃっ!」


「イロハちゃん、私のお話を聞いていたかしらぁ?」


 部屋の壁に映し出される星の映像が、高速で動いていく。とんでもない集中力で、そのすべて調べていく猫耳の少女……。


 壁の映像にため息をつきつつもナタリーは、こんな状態の女神イロハカルティアの取り扱い方法を熟知していた。



「イロハちゃん、宇宙海賊ってなぁに?」


「知らぬのじゃ。アプルゴルド星の魔王が言っておった。そんなことより、ナタリーも探すのじゃっ」


「知らないのに犯人にしちゃったのぉ? 宇宙船には、自動救難信号装置を付けているんじゃなかったかしら? 位置情報は……」


「救難信号も位置情報も稼働しないのじゃ! まだ、動力となるクリスタルを積んでないのじゃっ。内蔵してある予備のクリスタルも、空っぽじゃ」


「でもイロハちゃん、位置情報が出てるわよ?」


 ナタリーの言葉に、目を見開く猫耳の少女……。そして、彼女が示した映像へと駆け寄っていく。



「は? ハロイ島なのじゃ。じゃが、さっきは無かったぞ。どういうことじゃ?」


「さぁ? でも、宇宙船は、宇宙海賊に盗まれたわけじゃなさそうね。そんなことより、黄の星系の……」


「女神の仕事は、ナタリーに任せるのじゃ! 妾は、迷子の宇宙船を探さねばならぬのじゃっ」


 バン! と派手な音を立てて私室を出ていくと、猫耳の少女はスッと姿を消した。



「はぁ、もう、また逃げちゃったわね〜。だけど、変ね。アプルゴルド星の人がいて、あんな大きな金属の塊を探せないなんて」


 ナタリーは、そう呟くと、女神イロハカルティアの私室から出て行った。




 ◇◆◇◆◇



「クラちゃん、僕は、散らかり放題の道具を片付けますから、先にお戻りください」


 立ち尽くしているアプルゴルド星の大きな獣人、水の魔帝クラリス・ロールさんに、僕はそう声をかけた。


 店に来たとき、彼女は泣きそうな顔をしていた。辛いことがあって、その気分転換に来てくれたのに、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないな。


「マスター、私も手伝うよ。街の子供達が散らかしたんでしょ? いつも元気をもらってるから」


(ほんと、いい人だよな)


「ありがとうございます。では、ささっと片付けましょう」


 これも気分転換になるのかもしれない。アプルゴルド星の人達は、小さな子供達のことが好きみたいだもんな。


(子供だけじゃないか)


 地底の魔族の国から小さな種族が街に遊びに来ると、歓声をあげる大きな獣人をたまに見かける。あれは、アプルゴルド星の人達だったのか。




「あれ? ライトさん、ティアちゃんは?」


「ライトさんを呼びに行くから、お菓子の家から出ちゃダメって、ティアちゃんが言ったよ」


 草原にいくつか建っているお菓子の家に近づくと、窓から子供達のたくさんの顔が出てきた。


「あひゃっ」


 獣人の彼女は、思わず奇声をあげた。その表情は、一気にデレデレだ。


「ティア様は、宇宙船を探すと言って、城に戻ってるみたいですよ。宇宙船の飾りつけをしていた人は、ここに全員いますか?」


「うんっ! みんな居るよ」


「精霊ヲカシノ様も、星のゲートが今日はよく開くから、ここにいなさいって言ったよ」


「そっか、今日は来訪者が多いんだね」


 僕は『眼』に力を込めて、星の門の方を見てみた。『眼』の力を使えば、ほぼ魔力消費無しで、遠視魔法と透過魔法が使える。



 僕達のような女神様の転生者は、転生時に『眼』『器』『能力』を与えられる。『眼』は、みんな共通だと思う。


『器』は、女神のうでわと呼ばれるアイテムボックスだ。これは、女神様の落とし物係に任命されている7人だけが持つものなんだ。アイテムボックス内の小箱は、女神様の私室にある箱と繋がっている。だからどこにいても、女神様に落とし物を届けることができるんだ。


 落とし物係は、新人転生者の仕事なんだけど、7人のうち3人は新人ではない。落とし物係は、新人転生者のサポート係でもあるんだよな。


『能力』は個人ごとにバラバラだ。僕は、透明化と霊体化の2つを与えられている。普通はひとつなんだけど、僕は、死人に宿やどりし生命だから、霊体化も使えるんだ。



「精霊ヲカシノ様が、大人の姿をしているね。厄介な訪問者が来たのかもしれない。みんなは、お菓子の家の中に居てくれるかな? 僕も、様子を見てくるよ」


「はーい!」


「マスター、私はここで子供達を守っておくわ」


 デレデレとした表情でそう言われると、ちょっと警戒してしまう。彼女に悪意がないことはわかっているんだけど。


「おっきい獣人さんも、お菓子の家に入っておいでよ。精霊ヲカシノ様の結界があるから、とっても安心だよ」


「今日は、おっきなクッキーもあるよ」


 子供達に誘われて、嬉しそうだけど戸惑う彼女……。お菓子の家が壊れてしまうと心配しているのかな。



 精霊ヲカシノ様は、幻想世界の精霊なんだ。いつもは少年の姿をしているけど、精霊の中では圧倒的に強い戦闘狂だ。だから女神様は、彼にこの草原の守護を任せている。


 彼は、極度の方向音痴なんだ。だから、どこかに行こうとすると道しるべとして、目につく物は何でもお菓子に変えてしまう癖がある。


 お菓子の家は、そんな精霊ヲカシノ様の目印なんだよね。これがあるから、この草原で迷わない。だから壊れることはあり得ないんだ。


(でも、ちょっと脅しておこうかな)


「クラちゃん、精霊ヲカシノ様のお菓子の家は、壊れないから大丈夫ですよ。逆に、悪さをすると閉じ込められて出られなくなる人がいますから、変なクイズには気をつけてください」


「まぁっ、クイズ?」


「獣人さん! 精霊ヲカシノ様ってね、たまに意地悪なクイズをするの」


「ぼく、わざと間違えたら、服をキャンディに変えられちゃったこともあるよ」


 子供達に、ワイワイと話しかけられ、メロメロになっている彼女……。まぁ、任せておけばいいかな。


「じゃあ、クラちゃん、ティア様が戻るまで、この子達のことをお願いしますね」



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