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13、湖上の街ワタガシ 〜アプルゴルド星の被害

「それは、女神イロハカルティア様でなければ、解決できないことなのですか?」


 カウンターに突っ伏した大きな獣人の彼女にそう尋ねると、彼女はゆっくりと顔をあげた。その表情は、普段、僕達に見せないような寂しげなものだった。


(なぜ、そんな顔を……)


 ふるふると頭を振ると、彼女はいつものような笑顔を浮かべた。いつも、無理してこの顔を作っていたのかな。


「マスター、ごめんなさいね。私ちょっと、情緒不安定なのかも。水の魔帝なのにな」


 僕には、水の魔帝の意味はわからない。だけど彼女が神アプルゴルド様の側近で、何かを探す旅に出たことは理解できている。


 僕は、他のお客様から注文の入ったカクテルを作りながら、彼女が話すのを待った。僕が作業をしていると、彼女は作り笑顔をやめて、何かを考えているようだ。何か覚悟が必要なことなのだろうか。




「マスター、忙しそうね」


(あー、なるほど)


「いえ、大丈夫ですよ。店員さん達がしっかりしてるから、僕がいなくても店は困らないですし」


 僕がそう答えると、彼女は、やわらかな笑みを見せた。これは作り笑顔ではなさそうだ。僕に話すのをためらっているのは、力を借りたいからかな。


「そう……店を離れても大丈夫なのかしら」


「大丈夫ですよー。近いうちに、僕はポーションの行商に出ようと思ってますからね」


 そこまで話すと、彼女の表情が曇ったのを感じた。ほんと、彼女は人の都合を気にするよね。自分を誇示することがない。人との付き合いに臆病なのかもしれないな。


(あ、他の星だからかな)


 彼女は、再び、話すことを戸惑うかのように、視線を泳がせている。


「あの、マスター……」


 そう話しかけて、口を閉じた。内気な性格なのかもしれない。もしくは、そういう種族なのかな。彼女の感覚では、自己主張をすることがマナー違反なのかもしれないな。



「はい、何でも言ってください。防音バリアがあるから、他の人には聞こえませんよ?」


 なるべく優しい口調を心がけてそう話すと、彼女は、ようやく覚悟を決めたようだ。うつむき加減だった顔をパッとあげた。


「あのね、私の星のことなの。アプルゴルド星が、鉱物が豊富な星なのは知っているかしら?」


(えーっと、ここは素直な方がいいかな)


「クラちゃん、すみません。僕は、他の星のことは、ほとんど知らないんです。アプルゴルド星の住人が金属サーチに優れていることは知っていますけど」


「そうだったわね。マスターは、アプルゴルド星に来たことはないのよね」


「はい、木々がとても大きいということは聞いたことがありますけど」


 すると、彼女の表情は少し暗くなったように見えた。失言だったのかな。でも、すべてが大きいはずだよね。


「マスター、その木々がね……」


 彼女は、話を組み立てようとしているのか、口を閉ざした。僕が彼女の話のペースを乱してしまったみたいだ。



「はい、えーっと、木々に問題があるのですか」


「うん、そうなの。私は水の魔帝なのに……」


 彼女は、また辛そうな表情を浮かべている。話の手順を乱してしまったから、必死に組み立てようとしているのか、頭を抱えてしまった。


(僕が誘導する方がいいかな)


「水の魔帝というのは、どんな役割があるんですか」


 そう尋ねると、彼女はパッと顔をあげた。


「水の魔帝はね、水脈を司るの。だから、この星なら妖精さん達がやっている役割に近いと思うわ」


「なるほど、木々が育つには水が必要ですもんね」


 僕がそう言うと、彼女は頷いた。彼女が知るこの星の妖精とは、おそらく女神様のことだろう。


 星と生命が繋がる神の特徴は、その星を見れば明らかだ。イロハカルティア星は緑豊かな星だから、女神イロハカルティア様の妖精としての能力だと考えたのだと思う。



「私は、水の魔帝なのに、木々が……鉱物化してしまったの。密林にあった大きな池も消えてしまって、砂金に変わったわ。だから、神アプルゴルド様は、消えてしまったの」


(うん? 意味がわからない)


「クラちゃん、僕には理解が追いつきません。木々も池も鉱物化したから、神アプルゴルド様が消えたのですか? でも、神は星と命が繋がっていますから、星があるということは、アプルゴルド様も……」


「マスター、違うの。あぁ、私の話し方が悪いのよね」


 彼女は、僕の理解力の無さを、自分の責任だと感じているようだ。また、カウンターに突っ伏してしまった。そもそもアプルゴルド星がどんな構造か、わからないんだよね。



『アプルゴルド星は、鉱山の塊だぜ』


(リュックくん? 知ってるの?)


『あぁ、いま、ゴールドラッシュ状態だろ。金に価値があると考えてる宇宙海賊が、アプルゴルド星に集結してるぜ』


(えっ? 宇宙海賊に狙われてるの?)


『神アプルゴルドは、鉱物系の種族だからな。星の鉱物を奪われすぎると、チカラを失うんだ。だから、草木や水が重要なんだぜ』


(奪われすぎないように、木々や池があったの?)


『草木や水で隠していた感じだな。水が枯れたら、地中から鉱物が噴き出してくるから、宇宙海賊が水を抜いてんだよ』


(ひどい……)


 アプルゴルド星は、黄の星系に属する友好的な星だ。だから、そんな被害に遭っているなら、何とかして助けたい。女神様は、そのことを知らないのだろうか。


『あぁ、腹黒女神も、気づいてるはずだぜ。だから、宇宙海賊をしている神が、アプルゴルド星を襲撃するタイミングを待ってるみてーだ』


(神? あ、そっか。女神様は、神の干渉にしか対抗できないんだ。だけど、どこかの神が絡んでるかもしれないよ)


『それが、今のところ、神は絡んでねーみたいだ。鉱物に興味を持つ神は無いだろ。神が狙うのは、マナや、他の神の能力だからな』


(確かに……)


 女神様は助けたくても、この状況では助けられないんだ。宇宙海賊って厄介だな。これが急に流行り始めたのは、どこかの神の陰謀のような気がする。


『おまえ、アプルゴルドに行くか? クマは行きたくてウズウズしていたぜ』


(へ? ベアトスさん?)


『あぁ、黄の星系を、ポーションの行商で回るんだろ? アプルゴルド星なら、おまえのポーションを普通に売ってるぜ』


(僕のポーションをアプルゴルド星で?)


 商売目的で、僕の店にポーションを買いに来る人も少なくない。アプルゴルド星の住人らしき大きな獣人は、よく見かけるから、不思議ではないかな。


『ご贔屓にしてくれている星に、ポーション屋が直販しに行くことは、おかしなことじゃないぜ? オレも、アプルゴルド星に行くことには意味があるしな』


(リュックくん、その意味って何?)


『あん? それは言えねーな。そうと決まれば、早く行こーぜ』


(まだ、決まってないよ?)


 そう反論したけど、リュックくんからの念話は切れた。準備を始めたんだろうな。はぁ、もう……。でも、一番最初の行商先として、確かにアプルゴルド星はいいかも。




「クラちゃん、急ぎですか?」


 僕はバリアを消して、そう尋ねた。


「えっ? あっ、マスター、ぷよぷよバリアは」


「内緒話は、おしまいです。僕、アプルゴルド星にポーションの行商に行きますよ。店に買いに来られる人が多いから、直販に行きます」


「ええっ? マスターが来てくれるの? でも、マスターは宇宙空間を飛行できないし、転移魔法は苦手でしょ? 宇宙船が見つかるまでは無理よね」


(やはり、急ぎだな)



「アプルゴルド星は、どの辺りですか?」


 僕は、入り口近くの壁に貼った絵に、魔力を放った。


「わっ! ええっ!? うわぁ、何? 店が宇宙になった?」


(うん、プラネタリウム状態だね)


「あの絵は、魔力を流すと、こんな風に浮き出る仕様になってるんです。ティア様が、クマちゃんマークの工房に無理を言って作ってもらったみたいですよ」


「ええっ? ティアちゃんは宇宙が好きなの?」


「女神様が、神スチーム様に協力してもらって、黄の星系のあちこちに人工星を作ったんですよ。目印に肉球に見える山を作ったから……」


「これね、肉球の印のある小さな星。ティアちゃんが喜びそうだわ。人工星なの?」


「ええ、一応、統治する神がいないと朽ちるので、僕が支配権を持つワープワーム達が、人工星に居ます。ワープの中継地としての人工星なんですよ」



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