Dear my brother〜ルチア〜
『親愛なる兄さんへ
前の手紙から少し時間が空いてしまってごめんなさい。ルチアよ。元気にしてた?
ちょっと最近色々あって、書く余裕が取れなかったの。ええと、具体的に言うと色々と予想外のことがあって、私が死にかけたりしたわけだけどーーその話はまた後でね。とりあえず、今の近況でも伝えておくわ。
私、今ブレスワルド中央街に来ているの。
中央街に来るのはもう三度目だけれど、いつ来ても素晴らしいわね。だって、見るものすべてがレトロで美しいわ。魔術を使った建物なんかは兄さんがいるところでもよく見たけれど、この街ではもう二百年も前の造りの建物があるもの。
古いものは美しい。そう思うわ。
綺麗なものは大好きよ。
醜いものは嫌いだけれどね。
私が死にかけた話だけれど、その――あまり予定通りには出来なかったという話なの。
本当は汽車に乗るはずだったのに、乗り遅れて、風魔術を使わなきゃいけなかった。しかも途中で切れちゃうし。危うく車輪に巻き込まれて死にかけたわ。
私が今生きているのは、窓の外から助けて貰ったからなのよ。
「彼女」、話に聞いていたよりずっと強いのね。意外にもその様子を見ることになって驚いた。彼女というのは汽車で一緒になった女冒険者。そう、「彼女」のこと。
そう――予定通り彼女とは接触出来たわ。
間違いなく、彼の妹であることも確認できた。あの世界を終わらせた悪魔の妹であることを。
あとは兄さんのところに連れて行くだけ。彼女は、シャロンはなにも知らない。
打ち合わせ通りの嘘もついたわ。私は病気の兄さんを心配する優しい妹。ミズーリ地区に身体を売りに行こうとしていた世間知らずの箱入り娘。
お人好しよね。それであの子は私に協力してくれる気になったのよ。
汽車なんて最初から探してもいないのに。
反対側でもないのにね。乗り遅れるのは本当に予定外だったけど、私は最初から彼女と一緒の汽車に乗るつもりだった。少し馬鹿を演じただけですっかり油断してくれた。
「兄さんに必要なのはお金じゃなく貴方自身だ」って言われて笑っちゃったわ。もうすぐ私達も全員いなくなるのに! 慰めたつもりかしら。
私は残り少ない時間を座して待つようなことはしない。
出来ることはなんでもやるわ。
たとえそれが、彼女を裏切ることだとしてもね。
でも……私の役目は連れていくまで。あとは兄さんがやるんでしょう?
南側に住んでいる兄さんの元に連れていくことが私の役目だもの。後のことは兄さんに任せるわ。
お願い、世界を救ってね。
きっとあの子なら、何か知ってるはずだから。拷問はあんまりして欲しくないけど、私達の命には代えられないんだから。
だから、あの子から秘密を引き出して。何か知ってるなら。
あ……でも、優しくね。
私はあの子をそんなに嫌いになれないの。たとえ悪魔の妹でも、彼女はそうは見えない。
彼女だって被害者の一人なんだから。
だから、お願いね――
――アルファルド兄さん』