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Dear my brother


『親愛なる兄貴へ

 これはアンタが死んだ後に書いてる手紙だ。アンタが死んで少し経った頃――つまり一月の終わり頃。世界が壊れ始めてきてる頃だね。

 昔誰かに聞いたけど、死んだ相手に手紙を送るのは縁起が悪いんだってね。

 まぁ、私は縁起なんてどうでもいいから書くけれど。


 兄貴の目論見通り、人類は割と皆絶望しつつある。一方的な死を強制されて、あちこち崩壊状態だ。

 汽車は動かなくなったし、飲み屋も多くが閉店中だ。開いてるところがあったかと思えば破落戸が占拠していて、私のようなか弱い少女はとても入れそうにない。

 皆死ぬ前に酒を飲みたいんだな。わからなくもないよ。酒はのんだことないけどね。


 ところで今、私はブレスワルド中央街にいる。公国の中心部だ。

 汽車に乗ってきた。駅員が人が好くて、ついでに乗せてきてくれたんだ。

 ブレスワルド中央街ってのは凄いね。初めて来たけれど、見るものすべてが大きくて最新だ。魔術が使われている建物すらあった。グレーンゾーンでは見たことがないよ。兄貴のことがなかったらしばらく観光したいくらいだ。


 ところで。

 今、私は成り行きで会った魔導師と一緒だ。ルチアというらしい。

 この成り行きで会った魔導師ってのが随分アホの子で、まあその、割とどうしようもない部類の子だ。

 無理やり汽車に乗り込んできたくせに方向は反対側で。魔術も五時間ごとしか使えないらしい。


 しかも本来の行き先はミズーリ地区……極東の辺鄙な場所だ。そんなところに行きたい理由は、お金の為らしい。そこで「稼げる仕事」を紹介してもらえるんだと。

 一応教えてはやったよ。

 その仕事は絶対危ないと。

 あるいは、大事なものを失うかもしれない、って。一生立ち直れなくなるかもしれないってね。

 だがルチアは言った。「それでも行きます」と。

 「それで兄さんが少しでも楽になるなら関係ないです」って、ね。


 気持ちが分かるのが嫌になっちゃうね。兄貴、アンタを失うって分かってたら私は――』



「シャロンさん、何書いてるんですか?」

「わっ!? ……手紙だよ」

「へー。誰にです?」

「兄貴に」

「へー」


 中央街のベンチで書き物をしていたらルチアに覗き込まれた。

 いつの間にそこにいたんだ。構わず書き進める。

 ……私は。

 

『……私は絶対に助けに来たのに。

 兄貴。中央街に来てすぐ分かったよ。アンタを苦しめていたものが。

 エルザについて聞いてみたら、街の人はすぐ教えてくれた。子供だって知ってたよ。魔導師エルザーー世界の敵。そう、世界の敵なんて呼ばれてるんだあいつは。

 どうしてかって。今絶賛実行中の終焉魔術を作ったのがあいつだからだ。

 そして遺書。

 兄貴の遺書が見つかった。


 遺書といってももう――ほとんどの人間が見ていたけれど。私はその遺書を読んで驚いたよ。

 兄貴。アンタは。

 アンタは。


 なあ兄貴。

 どうしてそうなってるって教えてくれなかったんだ? そんなことされてるって教えてくれなかった?

 どうして妹を頼ってくれなかったんだよ。

 大丈夫だって言ってたじゃないか。

 私はそんなに頼りなかったか? 

 頭を撃ち抜く前にせめて一言――』


「シャロンさーん、汽車見つからないです……どこももうやらないって言ってて……」

「あー……まぁ終末だからね。世界の終わりの時まで仕事してる物好きなんてそうはいないよ」

「どうしよう……お金必要なのに……」

「なあルチア。その……こう言ったらなんだけどさ。アンタの兄さんに必要なのはお金じゃなくてアンタ自身なんじゃないのかな? 残り少ない時間だし、一緒にいてやりなよ」

「でも……」


 言葉が止まったルチアを横目に書き進める。


『兄貴。明日、私はエルザに会いにいく。エルザが今何をしているのか見に行きたい。

 仕返ししようとしているわけじゃない。ただ、気になるだけなんだ。エルザが、そして他の奴らがどんな顔をして生きているのか。

 エルザと仲間の三人は今や有名人だ。住んでる下宿屋の場所もすぐに分かった。その下宿屋は半分潰れかけてるらしいが、まだやってはいるらしい。

 兄貴の遺書にも出てきた名前。

 下宿屋のリナリー。彼女にーー』


「シャロンさん」

「なんだよ……一度に言ってくれるかい?」

「……私、私も南に行きます」


 は? と目を丸くした。


「兄さんが住んでるところは南の方なんです。ここから少しだけ南の大きな病院。本当はお金を持って行くはずだったんですけど……せっかく近くまで来ちゃったんで」

「え? あぁ……そう、なの。まあ私はいいけど……」

 

 急な心変わりに驚いた。あんなにお金お金言ってたのに。

 ……まあ、分かってくれたということか? 金より彼女自身が必要だということが。


 しかしまさかルチアの兄がこっちに住んでいるとはね。

 てっきり同じところに住んでるものだと思っていたけど。

 手元に目を落とす。手紙はまだ途中だ。


『下宿屋のリナリー。彼女にも色々と話を聞きたい。

 ひょっとしたら兄貴の意思とは反するかもしれないけれど、まあ、妹だから大目に見てくれよな。兄貴』




 

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あるギルドメンバーの遺書


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