同じギルドの奴ら
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/
と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/
の続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
※短編シリーズ八作全作品、日間ランキングに同時掲載されました。ありがとうございます。
『シャロンへ
前より日が空いてしまったけれど、元気しているかな?
冒険者になりたいと君が言ったとき、強く止めてしまったのは悪かったと思ってる。
シャロンは強いから、きっとその辺のモンスターには負けないだろう。魔力がほとんどないことを昔は気にしてたみたいだけど、正直並みの魔導師よりは強いよ、きっと。
だから堂々としていてくれ。もう反対はしないから。
……でも冒険者なんて、正直そんなにいいもんじゃないよ。大変なことばかりだ。もう少しなら、耐えられるかもしれないけど……
ごめん。こんなこと書くつもりじゃなかった。忘れてくれ。
あ。そういえば、エルザって覚えてるか? 俺の幼馴染のエルザだよ。あいつも一緒のギルドなんだ。
もしこっちに来ることがあったら会ってやってくれよ。そうしたらあいつも、何か変わってくれるかもしれないから』
・・・
兄貴の自害の原因を探しに、公国の南側に向けて出発した私、シャロン。
その道行で一緒になった魔導師ルチア。道行というか、強引にねじ込まれたようなものだけど。
反対側の汽車に乗ったらしい彼女は、随分と落ち込んでいた。
……まあ落ち込むよね。ほとんど命捨てるみたいなやり方で乗ったのに、反対側と知ったらね。
「ブレスワルドからも汽車くらい出てるよ。多分」
「多分じゃ駄目なんですよぉお」
ルチアは悲し気な声を上げた。
「明日までに絶対ミズーリ地区に行かなきゃいけなくて……」
「何か用事でもあるの?」
「用事ってほどじゃ……ないんですけど」
ルチアは口ごもった。
「でも私にとっては大事な用事、で……もし行けなかったら、私……」
「……なんだかわかんないけどさ、汽車探すくらいなら手伝ってもいいよ。こっちはすぐにやらなきゃならない用事でもないし」
「え。本当ですか!?」
ぱっと顔を上げるルチア。
「ありがとうございますっ!! シャロンさんの優しさに私、感動しました……!」
「オーバーだなぁ」
「そんなことないですよ。素直な気持ちです」
微笑むルチア。並の男なら失神しそうな美麗さだ。
「それに私、こんなですから、きっと一人じゃ探せないと思います。シャロンさんみたいなしっかりした人がいてくれたら安心です!」
「まあきみよりはしっかりしてる自信はあるよ」
「えへへー」
それからルチアとは他愛もない話をした。
ルチアは私より一つ上の十七歳。家族の反対を振り切って冒険者になったものの、入った冒険者ギルドに馴染めず追い出されてしまったらしい。
驚いた。ここまで私と同じだ。
そんな彼女がミズーリ地区に行こうとしていたのには理由がある。聞くつもりはなかったが、勝手に話してきた。
「お金が必要なんです」
「お金が?」
「はい……あ、分かってるんです。もう皆死ぬんだって。お金に価値がないなんてことは」
滅亡を前にした今。将来を担保する金子に執着する者は減っている。
「でも私、どうしても大金が必要なんです……助けたいんです。兄さんを」
「……」
兄さんという言葉に意識が向く。
「私の兄さんは最近病気にかかってしまって。お医者様からは、大金を持ってこないと治せないって言われたんです。だから私、どうしてもお金が必要で」
「……こう言っちゃなんだけど、ミズーリ地区ってそんなに大きな街じゃないし、わざわざ行ってまで大金を稼げるところじゃないよ? むしろ今から行くブレスワルドの方が……」
「それがですね、そうでもないんですよ」
ルチアはぱっと笑った。
「そのお医者様とっても優しい方で! 明日ミズーリ地区に行けば、お仕事を紹介してもらえるらしいんです!」
お仕事の紹介。
「えーと。大丈夫なの? その仕事」
「大丈夫ですよー。信頼してるお医者様ですし。変なことはありませんって」
流石に私は理解していた。
ルチアの言う稼ぐ方法、仕事は恐らく違法なものだ。それもルチアを酷く傷付けるもの……実際金は稼げるだろうが、代わりに失ってはいけないものを差し出すような。
止めようかと一瞬思った。
彼女のためにならない。それは怪しい。騙されている。
色々な言葉が頭を巡って、やっぱり私はやめることにした。
私の関わる範囲じゃない。
代わりの金を用意できるわけじゃないのだ。正義感だけで止めたってなんの意味もない。
「……じゃ、早くミズーリ地区に行かないとなんだね」
「はい。短い間ですけど、よろしくお願いします」
私はルチアに視線だけをやった。
よろしくね、という意味で。
ルチアは理由を(勝手にではあるが)話してくれた。私もそろそろ誰かに話をしたい気分だったーー
「私も……兄貴がいたんだよ。妙に心配性で過保護な兄貴が」
不意に話し始めた私に、ルチアは驚いたようだった。
ぽつぽつと車両に反響する声。懐かしむように、言葉を続ける。
「兄貴も私が冒険者になることに反対していた。大変なことが多いってーー実際大変なことは多かったけど、別に辛いというほどじゃなかった。まあそいつらとはもう縁を切ったけど」
「シャロンさんにもお兄さんがいたんですね」
「うん。もういないけどね」
その言葉の意味を察したのか、ルチアは気まずそうに黙り込む。
いいよ別に。
誰も気にしないさ。
「私は兄貴が死んだ本当の理由を知りたい。だからブレスワルドに……公国の南側に行こうとしてるってわけ」
ルチアは黙ってしまった。そりゃあ答え辛い話か。
まあこちらも気にしない。どうせ三時間とちょっとだけの付き合いなのだから。
ルチアを無視して、私は思考の海に耽る。
(……兄貴は冒険者ギルドに入ってた)
(なら同じギルドの連中がいるはず。そいつらなら何か知ってるはずだ)
以前兄貴から手紙を貰ったことがあった。反対されて喧嘩した直後だ。
兄貴が冒険者ギルドに入っていたことは間違いない。エルザが……エル姉がギルドにいると聞いて驚いたっけ。
私の中のエルザは、とにかく明るい人だった。目の前のルチアのような。
彼女なら何か知っているかもしれない。ブレスワルドに着いたら、まずエルザについて調べようとそう思った。
お読みいただきありがとうございます。
面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけると作者がとても喜びます。
たくさんの読者の方に作品をお届けしたいため、もし評価いただけたらとても嬉しいですm(_ _)m
今後作品を作っていく上での大きなモチベーションにもなります!
また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです。
これからも作品づくり頑張ってまいります。
よろしくお願い致します。