太陽のような瞳の美少女2
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/
と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/
の続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
※短編シリーズ八作全作品、日間ランキングに同時掲載されました。ありがとうございます。
汽車の車両の窓と、隣の車両の窓の間は約二メートル。
全然いける。余裕だ。
幸いなことに、汽車の煙はここまで届いてはいない。風が上向きに吹いているからだ。
窓枠から外に出て、下の方にあるパイプに足をかける。パイプのすぐ下では車輪が踊り狂っていて、少しでも足を踏み外したら私がアウトだ。
まあそんなことはないわけだけど。
「おい! 生きてる!?」
「ああ……もうダメ……もう死ぬんだ私……パパ、ママ……先立つ不孝を許してね……」
「諦めるなっての!!」
少女は窓枠の一か所に右手でどうにか掴まっていたが、今にも指が離れそうだ。すでに四本。今、三本になった――もう少し持ってくれと思いながら、窓枠に到着する。
少女はそこでようやく私の存在に気付いたようだった。
「え!? ちょっとなにしてるんですか!?」
「なにしてるはこっちの台詞なんだよっ」
ガシッと彼女の腕を左手で掴む。私自身はバランスを取りつつ、右肘を窓に叩き込んだ。
「ちょっ、危ないですよ! ガラス割れますよ!?」
「今それ言ってる場合かなぁ!?」
二回、三回目でガシャンと割れた。私は彼女の腕を握りながら、窓から車両にすっと入り込む。
窓は割れたばかりだから結構危険な状態だが、そういうことを言っている場合でもなかった。
美少女は体勢があまりよくない。右腕だけを私に取られているから、バランスがよくないのだ。足もとはおろそかになっているだろう。
「下気を付けてね。車輪に足取られたら死ぬから」
「ええ!? 嫌ですまだ死にたくない!!」
涙目の美少女。
「だって私まだ何もできてないのにっ……!!」
そして彼女は自分で上がってきた。窓枠を掴み、割れた窓から車両に入ってくる。
ふわりとしたワンピースが少し窓を引っかけたが、気にした様子もない。衣装は綺麗なのに、彼女は気にしていないようだった。
車両の席に無事座り込むと、彼女は大きく息を吐く。
「はぁ……死ぬかと思ったぁ」
「あのねぇ」
鈴を振るような声。可憐な容姿。誰もが放っておかないだろう美少女は、安全地帯に逃げて安心したのかにこりと笑う。
生命力を感じさせる笑みだった。
「ありがとうございます。助けていただいて。はぁもうほんと死ぬかと思いました」
「なんで風で飛んできたりしたのさ。魔術使えないなら駅に居ればよかったのに」
「だって、これが最後の汽車だと思ったので……」
それで走って来たらしい。
まあ気持ちはわからなくもない。多分あの街から出る最後の汽車だから。
ブレスワルド中央街まで徒歩で行くと、一週間くらいかかる。
「まぁでも、結果的にはよかったね。乗ることはできてさ」
「はい! 結果的に上手くいったからまあよかったかなと思います!」
彼女は明るく笑って答えた。今死にそうになったのに、呑気なものだ。
私がただのどこにでもいる女だったらどうするつもりだったのか。
「そういえばクールタイムってなんだったの?」
「あ、それはですね、魔術を使ったあと次が使えるまでの時間のことを言うんですよぉ。ちなみに私は五時間経たないと魔術使えないです」
「それであんなことしたわけ!? バカかな!?」
「反論できないですね!!」
あははと笑う少女。
随分呑気だな。今死にそうになったのに吞気なものだ……
「あ、申し遅れました! 私、ルチアと言います。魔導師でーす。よろしくお願いします!」
「あ、ああ……私はシャロン。よろしくね」
「はい! 宜しくお願いします!!」
声がでかいなと思った。
表情がくるくる変わる子だ。ペースを乱される。
と思ったら彼女は囁くように声をかけてきた。
「あのう……シャロンさんって、ひょっとして冒険者の方なんですか?」
「え?」
「だって凄く力とか強いなって思って。こんな汽車の外でも動けるのも凄いですし」
「あ……ごめん、痛かった? ちょっと手加減してる暇なくて」
「いえいえ! 寧ろ安心しましたよ!」
ルチアはぱん、と手を顔の前で合わせる。
「それに、旅の仲間が出来てとても嬉しいです。宜しくお願いしますね!」
「ああ、うん――よろしくね。ルチア」
私はあまり他人に興味がないから、その程度しか言えないけど。でもルチアは花のように笑った。
「言いたくなきゃ言わなくてもいいけどさ。ルチアはブレスワルドになんの用事があるの?」
「え? ブレスワルドってブレスワルド中央街ですよね? なんでその名前が出てくるんです……?」
「なんでって。この汽車がブレスワルド中央街行きだからだけど」
「え!?」
ルチアは目を丸くした。
「ミズーリ地区行きじゃないんですか!?」
「ミズーリ地区って、グレーンゾーン地区より東の極東……?」
私達が乗っているのは東から中央に向かう汽車。極東に向かう汽車は反対側――
「反対側だけど大丈夫?」
「ええ!? 反対っ……ちょっと待っ……あ、あのぉ! おろしてください! 一旦おろして……」
そう叫びながら先頭車両に向かおうとする彼女に、思わず笑いが漏れてしまった。
とりあえず、中央街までの三時間は退屈しなさそうだ。
彼女には悪いけれど。
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※次は7/15の夜か7/16の朝です。