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アルファルド②

本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/  


と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/


の続きになります。

単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。


※短編シリーズ八作全作品、日間ランキングに同時掲載されました。ありがとうございます。


『戦士のアルファルド、俺はお前と友達だと思っていたけれど、お前にとっては別にそうでもなかったらしいな。

 俺がギルドの奴に囲まれてリンチされた時、お前はずっと黙って見ていた。しかも次第に加勢するようになっていった。終いにお前は、鍛錬と称して率先してやるようになったな』


 そのアルファルドだった。


・・・


「……え、っと」


 思わず私はルチアを見た。


「まさか……アンタの兄さん、か?」

「……ええ。そうです」


 そしてルチアは私から距離を取った。アルファルドはこちらに近付いてくる。

 嵌められた。はっきりとそう思った。

 憎悪より先に焦りと困惑が湧いてくる。何をしようとしているのか全くわからない。

 右脚を半歩下げて構えを取る。いつ襲ってきてもいいように。

  

 アルファルドはこちらに歩いてきて、そして一言だけこういった。


「すまなかった」

「……え?」

「あいつに妹がいることは聞いていたんだ。だがその居場所も何もわからなかった。あいつが死んでしまった今、君に謝るしかなくて」

「……」


「ちょっ、兄さん!?」


 ルチアが叫んでいる。


「何言ってるのよ兄さん! シャロンさんに色々話を聞きたいっていうから――」

「そうだ。だがそう言わないと、お前は協力してくれないと思ってな」

「なによ……じゃあ嘘だったってこと……?」


 顔を歪めるルチアを横目に、私はアルファルドを睨む。

 今すぐ戦う、ということはなさそうだ。


「アンタはなんなんだ? ルチアにこんなことさせてまで、私に何を言いたいんだよ」

「ただ、謝罪をしたかった」

「は?」

「もう君も知っているだろう。君の兄さんを傷付けたのは俺達だ。けじめをつけようと思ったが、それじゃ俺の気持ちがすまなかったんだ」

「……余計なお世話だ。私はそんなこと望んでない」

「君はそうだと思う。だが俺はどうしても直接謝りたかったんだ。きっと……あいつもそれを望んでいると思う」


 兄貴も望んでいると言われて、そこでようやく私の中に怒りが芽生えてきた。

 さっきまでは、ただ戸惑いしかなかった。


 名前は知っていても、実感がわかなかった。会ったこともなかったから。

 けれど謝られてようやくそこで、私の中で黒い感情が芽生える。

 もちろん兄貴のこともある。だがそれ以上に、私は思った。


 ()()()()()()()()()ルチアに嘘つかせてんじゃねぇよ、と。


「謝りたいってなんだよ……」

「え……」

「そんなのアンタの自己満足だろうが。アンタがスッキリしたいためにルチアを巻き込むなよ」

 

 アルファルドは自己満足と言われてショックを受けたようだった。


「アンタがいくら謝ったって兄貴は帰ってこないんだよ。だいたい――本当にそういう気持ちがあるなら、そっちが出向くべきじゃないのか? 私の居場所わかってたからルチアを向かわせたんだろうが。ルチアじゃなくてアンタが自分で来るべきだ」

「それは、俺もそうしたかった! だがもう俺は戦犯なんだ。どこへ行ったとしても途中で殺されて――」

「そりゃ私だってそうさ。自分ばっかり可哀想だと思ってんじゃないよ」


 言葉に詰まったアルファルドを笑う。アルファルドは焦っている。


「そ、そんな風に思っているわけじゃない! 現に俺だって腕を斬られている。自業自得なのは分かっているが、一応被害者でもあるんだ!」

「……で?」


 心の奥底が冷えていくのが分かる。


「アンタはピンピンしているようだけど。少し痛い思いしたくらいで償ったつもり?」

「少しなんて……」

「話にならないな。それで償ったつもりだってんなら、兄貴も浮かばれないよ」


 背を向ける。

 とんだ無駄足だった。いや、来たくて来たわけじゃないけど。


「腕無くしたってアンタは生きてるだろうが。それでチャラにしたつもりなんて、呆れて声も出ないね」


 贖罪に酔ってる贖罪者気取りの我儘にこれ以上付き合ってやる義理もない。ルチアに心の中で別れを言ってその場を去ろうとした時だった。


「……俺は、腕すら失ったんだぞ」


 絞り出すような声が背後で響いた。


「それなのに君はまだ話を聞いてくれないのか? 俺がここまでしているのに……!」

「……やめてくれる? そういうの。こっちも限界っつうもんが……」

「謝罪はしているだろう! 何故聞いてすらもらえないんだ!?


 振り返り、奴に向き直る。

 謝ってんだから許せよとそう言いたいのだろうか。


 どうあってもこのアルファルドは、自分のエゴを押し通したいらしかった。「謝って、私に許されてスッキリしたまま滅んでいきたい」そんなところだろう。

 本当に腹が立つ奴だ。

 しかもこいつは、兄貴の受けた苦しみの半分も理解していない。

 そりゃ私だって全部は理解していない。それでも、兄貴は、信頼していた仲間に傷付けられて苦しかったはずなのだ。

 痛みそのものではない。信頼していた相手に傷付けられたことが苦しかったのだ。兄貴が信じた相手がそんなクソ野郎だったことが、きっと一番辛かったんだ……

 そこでふと、私の中にある考えが去来した。


 こいつは本当に、反省しているのだろうか、と。

 ちゃんと変わっているのだろうか、と。

 もし兄貴の気持ちが届いていれば、少しはマシなやつになってるはずだ。それを確認するくらいバチは当たらないだろう、と思った。

 だから私は確かめることにした。


「……どうしてもってんならぴったりの方法があるよ」

「なに?」

「その方法は」


 そして私はルチアの腕を掴んで無理やり引き寄せる。


「ーー今からこの子をボコボコにすることだ」


 二人が息を呑むのがわかった。



・・・


「な、なんでだ……ルチアは関係ないだろう!?」

「私は家族を失ったんだよ? アンタに殺されたんだ。……じゃ、同じ思いをしてもらうのが当然の罰だよね。むしろ殺さないだけ優しいと思うよ」


 その言葉にルチアは怯えたようだった。私から離れようとするが、許さない。


「シャロンさん、どうして!?」

「ごめんねルチア。あんたは何も悪くない。結局こいつに騙されてただけだろうし、アンタが兄貴に何かしたわけじゃないんだから何一つ悪いことなんてしてないさ」

「じゃあ……!」

「でも兄貴だってそうだった。兄貴も何も悪いことなんてしてなかった。アンタがしたのはこういうことだよアルファルド」


 ルチアは逃げようとした。風魔術。だが私は彼女をがっちりと離さない。

 私の方が少しだけ身長が高いのだ。ルチアを後ろから抱きしめるように捕えた。

 目の前に蒼白な顔のアルファルド。私は奴に、少しだけ笑って叩きつけた。


「止めなくていいの? 右腕がないと言っても、私一人くらいどうにでもなるだろ。なんで動かないんだ?」

「それは……でも」

「私が兄貴の妹だから遠慮してんの? それならそれでいいけどさ。この子の可愛い顔も台無しになっちゃうよ。ご自分のお気持ちと妹の無事、どっちを優先するんだ?」

「……!」


 もちろん、本当にやろうだなんて欠片も思っちゃいない。

 これはあいつに対するちょっとした意趣返しだ。

 アルファルドは贖罪に酔っている。そんなことは分かっていた。だから私は思い知らせてやろうと思ったのだ。自分のやったことが、ちょっと謝っただけで済むものじゃないということを。

 妹を失うかもしれない恐怖を知って、改めて罪の意識を背負えばいい。本当に謝るべき相手はもういないんだから、一生それに囚われていればいいんだ。

 それに、アルファルドが本当に改心しているのかも知りたかった。もし反省しているなら、こいつは、妹を見殺しになんてできないはずだ。

 自分を信頼してくれていると分かっている相手を裏切るなんてできないはずだ。

 それで一度、大きな過ちを犯しているんだから。


 ……だがアルファルドは動かない。

 なんで動かない?

 というか、すぐに反撃されると思ってたんだが。

 アルファルドは俯いて呟いた。


「構わない」

「なに……?」

「それで君の気が晴れるのなら。ルチアを痛めつけてもらっても構わないよ」

「はぁ?」


 何言ってんだこいつ。

 ルチアは愕然としていた。

 アルファルドは動かない。何も言わない。

 私は口を開く。


「……今のは聞かなかったことにしてやる。もう一度聞くぞ、ルチアをなんだって?」

「君の心が晴れるならルチアを多少痛めつけても構わないと言ったんだ。それが俺への当然の罰だからな」

「……自分の妹より、許されたいとかいう気持ちを優先するってのか」

「ああ……その通りだ。殺さないと約束してくれるのなら構わない。確かに、それなら君と同じ気持ちを味わえるかもしれないし、俺にとっても罰になると思う」

「……!!」


 この野郎。


「……テメェの自己満足のために、妹がどうなってもいいっていうんだなアンタは」


 ルチアを解放して、トンと突き放した。

 胸糞悪い。

 今までで一番胸糞悪かった。


「兄貴の復讐にルチアをボコボコになんて……するわけねえだろ私が! そんな下衆いことをさぁ!」


 容赦する必要が全くなくなった瞬間だった。


「何が『同じ気持ちを味わえる』だよ。馬鹿じゃねえの。なんにもわかっちゃいねぇよアンタは!! そんなんで解った気になんなよ!!」


 突っ立っているアルファルドに向かって私は怒鳴り付ける。

 もう許してなんかやらない。こいつはルチアを裏切った。また人を裏切ったんだ。

 こいつは結局何も変わっちゃいなかったんだからな!




⭐︎読者のみなさまへ大切なお願い⭐︎


お読みいただきありがとうございます。


拙作を面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけるととてもうれしいです!!


まあ評価してやってもいいか、と思っていただける方。2、3秒で終わりますので、どうかお時間をいただけると幸いです!


今後作品を作っていく上での大きなモチベーションにもなります!


また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです!

これからも作品づくり頑張ってまいります。

よろしくお願い致します。


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▼▼▼元々の短編こちらです。是非どうぞ▼▼▼

あるギルドメンバーの遺書


― 新着の感想 ―
[一言] 短編ではいちおうは本心から悔いている(悔いていようが何を今更)な感じだと思っていたが、コレは。 謝っている俺スゲー的なバカだったか。 ある意味で許されている気になっているだけ他の3人よりた…
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