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アルファルド①


「なんで南行きの汽車出てないんだよ……」

「世界が終わるからじゃないですか……」

「クソ……もう何時間だ? ブレスワルドを出て何時間経った……」

「えーと五時間ですね」

「そうか……じゃもう半分は来てるはずだ……よな?」

「いやまだ二十分の一も来てないです」

 

 ルチアに地図を見せられる。ブレスワルドから最初の目的地まで、確かにまだ相当……相当あった。

 ちなみに汽車なら三時間ほどで着く距離である。

 だが汽車はやっていなかった。駅員と車掌が全員逃げたらしい。残念だ。

 

「なんで汽車やってないんだよ……!」

「世界が終わるからじゃないですかね……」

「クソ……許さん……一体誰だよ世界を終わらせようとしたやつは……!」


 まあ兄貴なんだけどね。



・・・


 南行きの汽車はなかったので、私達は徒歩で中央街から出発することにした。

 といっても下宿屋のある場所までは馬鹿みたいに時間がかかるので、途中でルチアの兄貴の病院に寄ることにしたのだ。そこからなら馬車が貸し出されているかもしれないから。

 それでも相当時間が掛かる。私達は既に丸一日歩き続けていた――どうして汽車やってないんだよ。

 兄貴のせいか。


「ルチア、ほら。風」

「え」

「風魔術だよ。汽車のところでやったやつあるでしょ。あれ使ってちょっとは進めない?」

「え、いいですけどこれすぐ切れちゃいますよ? 落ちるかもしれないし……」

「大丈夫だって。着地は私がどうにかしてやるから」

「シャロンさんさっきもそう言ってちょっと失敗してたじゃないですか」

「失敗してなかっただろ。ちょっと足ひねったけど」


 五時間前に使った風魔術は、確かに長い間飛んだが、その分着地が難しかった。といってもルチアを抱えて私が着地したから問題ないが。


「病院のある街まではまだ結構あるの」

「そうですねえ。歩きますね……」

「そうかい」


 なんで汽車やってないんだと何十回目くらいの愚痴を心で言う。


「というか、こんな時になっても病院はやってるんだね。アンタんとこのお医者さんといい、凄いもんだね……人を治す仕事ってのは。ま、アンタの医者はクズ野郎だけど」

「……そうですね」


 ルチアはどこか含みがあるように笑った。


 というわけで私達は、何の休憩所も見つけられずに過酷な旅路を過ごした。

 ルチアは魔導師だ。しかもそれなりに魔力はあるらしく、一度使った魔術はだいぶ長持ちする。それが非常にありがたいもので、食事以外の最低限のことはどうにか困らなかった。――汽車では焦っていたのと、逆風があって集中できなかったから長く持たなかったらしいが。

 五時間の間さえなけりゃ完璧なのにな。

 ブレスワルド中央街から目的地の病院まで。道は道の体をなしていないものも多かったが、別に悪いことばかりじゃない。明かりがないことで、私達は美しいものも良く見ることができた。

 空が綺麗だ。夜は特に星が満天で、私とルチアは夜になったら二人して空を見上げていた。


「終焉魔術とやらは、人間にしか作用しないんだと」


 ある日の夜、夜空に広がる銀の絨毯を見て言う。

 ルチアがこちらを見たのがわかった。


「こう言っちゃなんだが――悪くないよな。明かりがないとこんなにも綺麗に見える。……この満天の夜空が滅びないのなら、それも良いような気がしてくるんだ。そう思わないか? ルチア」

 

 ルチアは答えなかった。



・・・


 病院があるらしい街。名をローグエイド地区。

 ようやく文明的な場所に出たことで、私は少なからず安堵する。やはり文明は必要だ。うん。

 で―ールチアは私にこう言った。


「あの、兄さんに会ってくれませんか? シャロンさん」

「は? なんで?」

「兄さんに紹介したいんです! シャロンさんのこと」

「紹介って。紹介してどうするのさ」


 未来が担保されない世界では多くの言動が無為に帰す。

 紹介されたって、それは次につながらない。


「まあ、別に私は構わないけどさ。あんたの兄さんは困るんじゃない? そんなに時間があるわけでもないだろうし」

「まさか。だって私の命の恩人ですから。兄さんだって会ってくれると思いますよ」

「そう? ならいいけどさ」


 まあせっかく来たんだし。と承諾することにした。

 私としては会っても会わなくてもどちらでもいいのだが、どちらでもいいから会っても別に構わない。どこも店じまいだから、暇を潰せるところもないしね。

 

 街から少し歩くらしい。


 そう聞いて私はルチアの後をついていった。ルチアは先程までの様子とは打って変わったように無言でどんどんと突き進む。


「……なあ、ルチア」

「はい? なんですかシャロンさん?」

「いや……」


 最初は無関心だった私だが、道を進むごとに険しい気持ちを抱くようになった。道の様子がどんどんおかしくなってきているからだ。

 街をすぐに外れ、辺り一面岩壁のような場所に出る。

 こんなところに病院があるのかよ。


「……ルチア。アンタの兄さんの病院は随分と変わったところにあるんだな」

「ええ、そうですよ。自然療法っていうんですって。自然の中に病院を建てると、患者に良いからって」

「自然、ね……」


 これを自然と呼ぶのなら、そいつとは永劫分かり合えないな。

 そしてこんなところに病院を建てることを考えた奴とも。

 街を出て数十分。急にルチアが立ち止まった。


「あ。着きましたよ。ここです」

「着いたって……ここが病院!? どうみてもただのプレハブじゃ……」

「個人病院なんですよ。例のお医者様はここに住んでるんです。ほら、シャロンさん行きま―ー」

「いやいや、待てよルチア」


 一歩下がり、ルチアから離れる。

 ルチアは何かに焦っている。急いでいる。そう思った。

 焦ってるやつに誘われて、いいことがあった試しがない。


「悪いけど私はここで待つよ。別にアンタの兄さんだって、どうしても会いたいわけじゃないんだろ? ここで待っててもいいはずだ」

「え。どうしてです? せっかくここまで来たのに」

「……怪しいからだよ。こんな交通の便が悪い、不安定な場所に病院なんてあるわけないだろ」

「いやだからそれは自然療法ですって」


 ルチアの取り繕ったような笑顔に、暗い気分になる。


「なんにせよ、私はここから動かないよ」

「え、ちょっとシャロンさん。それは駄目ですよ」

「なんで駄目なんだよ。どうしてそこまでして私とアンタの兄さんを会わせたがる」

「それは――」

「……ルチア、何かを企むならもう少し上手くやることだね。アンタははかりごとに向いていない」


 会ってほしいのではない。

 会わせようとしているのだ。おそらく最初からそうだったんだろう。


「とにかく私はここで帰らせてもらうからね。アンタともお別れだ――残念だけど」

「そ、そんな! 駄目ですシャロンさん!」


 ルチアは必死に止めにかかってきた。


「だって、今ここでシャロンさんに帰られたら、世界が――」

()()()? なんだ、やっぱり全部知ってたんだね。私の兄貴のことも。……なるほど、じゃあ反対側ってのも嘘か」

「それはそうですけど、でも……私は!」


「やめろ、ルチア」


 民家の中から男の声がして、ルチアははっとなって振り返った。

 つられて私も民家の方を振り向く。


「……」


 男がいた。冒険者であることが一目でわかるくらいの、強者の雰囲気が漂う相手だ。

 鋭い雰囲気を持っている。これがルチアの兄なのだろう。


 とても病気に侵されているようには見えなかった。が、私はその右半身にすぐに目がいく。

 右腕が無い。

 長袖の上着を羽織っていたが、肘の辺りから何もないことがわかった。生まれつきではなく、そこにあったものがなくなっていると一見して分かるものだ。

 片腕を失っているにも関わらず、男は重心がふらつかずにしっかりと立っていた。私を見て表情を歪める。


「お前がそうなのか」

「はぁ……?」

「そうか――目が、よく似ているな」

「似てる、だって?」


 誰と、って。

 言葉にされなくても分かったけれど。


「知り合いなのか……?」


 男はすうっと深呼吸して、そして答える。


「アルファルド。お前の兄の仇の名だ」


お読みいただきありがとうございます。


面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけると作者がとても喜びます。

 

あと、今後作品を作っていく上での大きなモチベーションにもなります!


また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです。

これからも作品づくり頑張ってまいります。

よろしくお願い致します。


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▼▼▼元々の短編こちらです。是非どうぞ▼▼▼

あるギルドメンバーの遺書


― 新着の感想 ―
[良い点] 結果的に「なにも知らない『ふり』」じゃなかった妹のなんとも言えなさよ…。
[一言] お前の兄の仇の名だ たいていの物語は不慮の事故やら自身をかばってくれた意味にされるセリフもただのクズの自供という・・・
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