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5.クズを退治します






理想のワンコが婚約者になってから半年が経った。


最初こそ父が駄々を捏ねてうっとうしかったが、半年の間に手紙のやり取りをしたり、お互いの家に遊びに行ったりと大変仲睦まじく過ごしている私達を見て考えを変えたのか諦めたのか、今では家にルドルフ君が来ると自分の息子のように構ってくるようになった。


やはりうっとうしい父である。


父の事は置いておくとして、最近気になる事がある。

どうやら私の可愛いルドルフ君が家庭教師に暴力をふるわれているようなのだ。


というのも先日、ルドルフ君が我が家に遊びにきた祭、エスコートの為に腕に手を置いた時、痛そうな顔をしたものだからおかしいと思って服を捲れば、どす黒い痣が出来ていたのだ。

どう見ても鞭か何かで何度も叩かれたような跡だった。

なのにルドルフ君は転んだんだと困ったように笑って、すぐに服を直してしまった。


公爵家虐待疑惑浮上である。


しかしスレイン公爵家のご家族は仲が良く、この世界では醜いといわれるルドルフ君の容姿も関係なく愛しているように思われる。

つまり、公爵家の家族以外の誰かが、いたいけな少年を虐待しているのだ。


そして私は犯人を突き止めた!


ルドルフ君にそれとなく話を聞いていた時の様子からして、家庭教師が虐待しているに違いないと!!


クソ家庭教師の野郎……ぶちのめしてやる。



と、ルドルフ君に内緒でやってきたスレイン公爵家。

ルドルフ君のお兄様の話では、今日が件の家庭教師がやって来る日らしい。

お兄様のご協力の下、スレイン公爵家に潜入した私は、現在ルドルフ君と家庭教師のいる勉強部屋の前へやって来ていた。


忍者になったつもりで音をたてないよう扉を少し開くと、中から家庭教師の怒鳴り声とバチンッという何かを叩いたような音が耳に届いた。


今、自分は般若のような顔をしていることだろう。


頭に血がのぼり、この扉を破壊したい衝動に駆られるが証拠を手に入れる為にぐっと我慢する。

その為に録画機能のある魔道具を家から持ち出したのだ。


ポケットからゴソゴソと取り出したのは、見た目が完全にビー玉。これこそが高機能カメラ。録画の出来る魔道具だ。ちなみに、貴族でもなかなか手が出ないほど高い。クラウス公爵家の魔道具部門が商品開発部門とタッグを組んで開発した最新魔道具である。


扉の隙間から魔道具を入れて録画を開始する。


か弱い子供相手に怒鳴り散らし、鞭をふるう家庭教師クズの所業の録画に成功した私は、扉をバーンッと思いっきり開けて大声で叫んだのだ。


「だれか!! だれか来て!! ルドルフさまがおそわれてる!!」


美(笑)少女の叫び声にすぐさまかけつけた使用人たち。


「な、何ですかあなた達は!! 今はルドルフ様の授業中ですよ!!」

「何がじゅぎょうですか……っ ルドルフさまにぼうりょくをふるうのがじゅぎょうだとでも言うのですか!!」

「な!?」


突然の出来事に取り乱していた家庭教師は、私の言葉に目を見開き、周りの使用人を見てコホンッと咳をし息を整えると落ち着いた声で、厚顔無恥にもほどがある事を言い放った。


「暴力とは……まさかわたくしがそのような事をするはずがございませんでしょう。まぁ、ルドルフ様は少し覚えがお悪いようですので厳しくはさせていただいておりますが、ねぇルドルフ様」


クソ家庭教師の言葉にびくりと震えるルドルフ君は、何も言えず真っ青な顔で固まっている。


使用人たちは困惑気味に、私へ見間違いではないかと諭してくる。それを見て口の端を上げる家庭教師が見えて胸くそ悪くなった。


ルドルフ君は恐怖で何も言えないのだ。今も青い顔で震えているじゃないか!!


「何事ですか」


そこへ、お兄様に連れられ公爵夫人がやって来た。

ようやく来たかと夫人を見ると、あろう事か家庭教師ドクズは夫人に助けを求めやがった。


「スレイン公爵夫人! こちらの失礼なご令嬢は何なのですか!? わたくしがルドルフ様に暴力をふるっているなどと有りもしない事を言い出して! 子供の遊びにしては悪質ですわっ」


悪質なのはお前だドクズ!!


「……ユーリちゃん、一体何があったのかご説明出来るかしら?」


夫人は優しい声音で私に説明を求めた。私は頷き、先程見た事を詳しく話したのだ。


「本日はルドルフさまをおどろかせようと、お兄さまにごきょうりょくいただきあそびにまいりましたの。おべんきょう中だとうかがいましたが、どうしてもご様子を見たくなり、おじゃまになってはだめだと思ってそっと扉を開けましたら、中からどなり声が聞こえてきて……。見ればルドルフさまがムチでうたれておりましたのでさけびましたの」

「そんな事はしておりません!! その証拠にルドルフ様も何もおっしゃいませんでしょう。このような無礼は子供のいたずらでは済みませんよ!」


無礼はお前だクズ。これからお前には地獄を見せてやるよ。


「ルドルフ、ユーリちゃんのお話は本当の事かしら?」


夫人が私の話を聞いて、険しい表情のままルドルフ君を見る。


「っ……ぁ……」


やはり恐怖で何も言えないのだろう。この家庭教師ドクズは絶対許さない。


「公爵夫人、わたくし長年家庭教師を務めてまいりましたが、このような恥をかかされた事は初めてですわ!」


ほぅ。恥では済まぬようボコボコにしてくれるわ!


「ケイティおかあさま、わたくし先ほどのできごとをまどうぐにろくがしております。この女性がぼうりょくをふるったしょうこですわ」

「な!?」


家庭教師ドクズが目を見開いて私を見る。どうせこんな小娘がなぜ高価な魔道具を持っているの!? とでも思ってるんだろう。


まぁ魔道具も買えない貧乏なお前の前で、高価な録画機能付カメラの魔道具を披露してやるよ。



『やはり醜いと頭まで悪くなるのね! こんな簡単な計算も出来ないなんて! このわたくしがせっかく教えて差し上げてもその頭には何も入らないようだわ!!』


バチンッ

鞭がルドルフ様の細い腕を打つ。


『っ…………ごめんなさい……っ』

『なぁに? 聞こえないわよ!!』


バチンッ


『ぅ……っ……許して、ください……』

『ホホッ だめ。許さないわ!』


バチンッ

3度目に打たれた時、私の我慢も限界に達した。


『だれか!! だれか来て!! ルドルフさまがおそわれてる!!』


ここで映像は終わっているが、本っ当に胸くそ悪い映像だ。

家庭教師ドクズは「ぁ……っ ぁ……っ」と口をパクパクさせ真っ青になっている。公爵夫人は私と同様に般若のような表情でドクズを睨みつけていた。


「スレイン公爵家の令息をこの様に扱うなど……っ 許される事ではありませんよ!!」


あの優しい夫人が大激怒である。

そりゃあ愛してやまない息子に暴力をふるわれたのだから当然だろう。

ドクズも高位貴族の家庭教師が出来る位だから貴族なのだろうけど、命は取られないにしても貴族としては終わったな。


「お、お許しください……っ」


それな、ルドルフ君が今まで散々言った台詞だからな。それをお前は何て言った?


「いいえ、ゆるしませんわ。あなたは今回だけでなく、何度もルドルフさまにぼうりょくをふるっています。わたくしはルドルフさまのうでにどす黒いアザがあるのを先日もくげきしております」

「あぁ……っ」

「そう、何度も……っっ この女を拘束なさい! 急ぎ旦那様に連絡してちょうだい!!」


公爵夫人が使用人に指示を出している間に、未だ震えているルドルフ君へ駆け寄り抱きしめる。


「っ……」

「もうだいじょうぶですわ。ケイティおかあさまがアレをおいはらって下さいます」

「ゆ、ユーリ……っ」

「だれにも言えず、さぞおつらかったでしょう」

「ぼ、僕……っ」

「わかってますわ。おそろしくてだれにも言えなかったのでしょう。あんしんしてください。もうあんなことは二度とありません。させませんわ」

「ぅ……っ ぅあぁぁぁぁっ」


安心したのか、泣き出したルドルフ君を抱きしめる。泣き声を聞いた夫人も、ご自身が泣きそうな顔をしながらやって来て、私ごとルドルフ君を抱きしめた。


「ルドルフっ 貴方が苦しんでいるのに気付かなかないなんて!! お母様が愚かだったわ……っ 痛かったでしょう、怖かったでしょう。もうそんな思いはさせないわっ 絶対に!!」

「は、母上ぇ……っ」

「ユーリちゃん、ルドルフを助けてくれてありがとう……っ」


こうして、家庭教師ドクズの魔の手からルドルフ君を救い出す事が出来たわけだ。

この出来事からルドルフ君のご両親からは絶大な信頼を置かれるようになったのは言うまでもないだろう。




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