~後幕~
私達はテレビで華やかなクリスマスの模様を眺めつつもPCの画面も観る。
刻々と時刻は過ぎて21時となる。
カメラが動きだす。
動いたカメラが写したのは口にガムテープを貼られて、椅子に括り付けられた大原茂代子だ。彼女は目に涙を浮かべて必死の形相を浮かべる。
左右から大きな着ぐるみを着た人間が2人出てきた。何の皮肉なのか、それはサンタの帽子を被ったミルミィであった――
『メリークリスマス、愛しきリナ。これから聖夜に相応しい楽しいゲームをすることにしよう。リナ、君の目の前にある机の引き出しを引いてごらん? そこに僕が持っているのと同じ拳銃がある。その拳銃で今目の前にいる奴らを全員殺せ。それが出来たら君が憎むコイツを許す事としよう。それが出来なければ……』
左にいるサンタミルミィが懐から拳銃を取り出す。そして大原の頭に当てた。
私は恐る恐る机の引き出しを引く。そこにはあった。確かにあった。拳銃が。
「おいっ!? どういうことだ!? コレは!?」
「佐藤さん、やめなさい……今は落ち着く事が先決だ。通信犯は!? 逆探知はまだ出来てないっていうのか!?」
「私は……こんな物を持ってなんか……」
『正直でいいよ? リナ。僕はリナがちょっとでもスッキリして欲しいと思っているだけだから。あと30秒あげるよ。君にとって最高の決断をしてくれ』
画面上に数字が現れる。29……28……27……どんどん数値が減っていく。そして発砲音とともに大原茂代子の脳味噌が飛び散った。
こうして1つ目の殺人が行われた。画面上のミルミィ達はキャッキャッと歓び騒いでいる。そして間もなくして1体のミルミィがカメラを動かし始めた――
次に映ったのは十字架に張りつけられている金田麟次郎だ。彼も口にテープが貼ってあり、全く身動きがとれない状態にある。彼も目には涙を浮かべていた。彼が今思う事が何なのか……私はそれが知りたくもなっていた。
『リナ、ゲームはさっきと同じだ。手元にある拳銃でそこにいる奴らを殺そう。ただし、ちょっとルールを変えてあげよう。そこにいる誰か1匹を殺したなら、彼の命は救ってあげる。それが出来ないなら彼の関節は全て360度まわって、彼はバラバラになって死ぬ。さぁ、生きるか死ぬか彼から最後の気持ちを聞いてみよう! 制限時間は60秒だ!!』
一体のミルミィが金田の口に貼ってあるテープをとった。
『だずげでっ!! 助けてくれ!! 何でもする!! 理奈!! お前か!? 或斗が欲しいならやるよ!! お前にやる!! 頼むから助けて!! 痛い!! イタイタイタイタイタイタイタイイタタイ!!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!? 死にたくないぃ!!』
刑事たちが騒いでいる。萌子が悲鳴をあげている。
私は茫然としている。
50……40……30……20……10……
そして虐殺が行われた。
『リナ、やっぱり君は彼のことも彼女の事も憎んでいたのだね。本当に良かった。最後にとっておきのゲームをしよう』
カメラが動いた。次に画面に映ったのは口に手りゅう弾を噛まされた或斗だ。彼もまた十字架に張りつけられて、目隠しまでされていた。
『ルールはさっきといっしょ。あ、でもさっきと違う事がある。彼が死んだら、僕たちも死んじゃうね。ここまできたら僕が誰か知りたいでしょ? 制限時間、90秒まであげよう。今度は悩んでいる暇もないだろう? よいご決断を』
画面に90……89……88……
私のなかで理性が溶けた。私は拳銃を持って近藤、伊達、萌子と次々に射殺した。そして画面のなかのミルミィが言った。
『おめでとう。ゲームクリアだ』
急に画面が変わる。でてきたのは浜辺。そこに座る小さな女の子2人。
『可愛い~何て言うの?』
『みるみぃ』
『みるみ?』
『うん、僕が考えたの。みんなに知って欲しいな』
今度映ったのは高校の教室だ。一人の女子生徒が周囲の女子生徒達から酷くも虐められていた。机には「死ね! 化物!」とチョークで書かれている。
虐めの主犯格……それは誰でもない高校時代の私だ。
画面は変わった。崖の上に立つ女子。そして彼女はそこから飛び降りた。
「思いだしてくれたのね」
振り向くとそこに2体のミルミィが立っていた。1体は槍を持っていた。
「あっはっは! 楽しかったで! 佐藤さん! あっはっは!」
「黙れ。お前は無関係だ」
「えっ!?」
槍を持ったミルミィは隣のミルミィの胸を突き刺した。
「があああっ!? どういうことや!? 約束は護ったやろおぉ!?」
「お前はもういらない。用済みだ」
私は槍を持ったミルミィにただ怯えた。そしてその正体にはもっと。
「聡美……」
「心あたりがないなんて酷いじゃないか」
「死んでなかったの……」
「死んだよ。そういう事にはなっているね」
「そう、私を苦しめて殺したかったのね?」
「違う」
槍をもったミルミィは頭部を外した。露わになったのは何十年も前に修学旅行先の東尋坊で投身自殺した荒井聡美の顔だ。高校時代にふっくらしていた彼女の顔はやつれて、その歳以上に老けてみえる。
しかし違和感があるのはそこじゃない。
笑っているのだ。彼女はニタリニタリとニヤついているのだ。そこには憎悪や侮蔑のようなものはない。もっと違うもの……
「やっぱり僕は君を愛しているよ。リナ」
聡美が着ぐるみの手からに私の頬に触れる。
「触るな!! 化物!! 来るな!! 来るなぁ!!」
私は聡美の手を払いのけて後ずさりした。
「リナ、君は綺麗だよ。本当に美しい。人形にしたいくらいに。でもこんな汚い世の中で汚い奴らに愛でられる人形なんかになるな。僕が君を本物の人形にしてあげる!」
聡美は自分の心臓に槍を突き刺した。そしてそのまま顔を私の顔に近づけた。彼女は微笑む。満足そうに。口からとめどなく血が垂れても、彼女は痛みすらも感じてないようだ。
私の瞳は彼女の瞳から逃れられなかった。そしてそのまま引きずり込まれた。
パトカーのサイレンが鳴り響く。私の意識はそのまま遠のいた――