時計の短針と長針のごとき、僕と彼女
なろうラジオ大賞応募作です
僕と彼女の関係は、例えるなら時計の短針と長針のようなものだ。
長針が何度も短針を追い抜かして進んでいくように、彼女はいつだって僕の前を颯爽と進んでいくのだ。
あれはそう、小学校のマラソン大会の時だっただろうか。
「タク、遅いよ!早く早く!」
彼女の背中を追っている間に、僕はすっかり疲れてしまっていた。彼女が前で僕を呼んでいる。
「ち、ちーちゃんは先に行っててよ!僕は後からゆっくり行くからさ」
「全くもう、また男の子なのに情けないとか言われちゃうよ」
ふん、と呆れたように言いながらも、彼女はこちらに寄って来た。
「ほら、手貸して」
「そんな……ちーちゃんは足が速いんだから、先に行くべきだよ」
「私が早くゴールするよりも、二人でゴールする方が大事なの。ほら、行こ」
手を引かれて、コースを走る。長針が通り過ぎて、ようやく短針は先に進める。でもゴールは、一緒に。何回も何回も追い抜かれて、僕はようやく彼女と並ぶことができる。
勉強でも、彼女は常に僕の前を行っていた。
「違うって!さっき教えた公式もう忘れたの?」
「ご、ごめん。……僕やっぱり勉強は苦手だなぁ。」
「全くもう、私と同じ高校に行くんじゃなかったの?」
そうだ。それは僕が言い出したことだ。高校受験を考える時期になって、僕らは初めて違う道を行くという選択肢を与えられた。彼女に進路を聞かれて、気づいてしまった。僕の行く先に彼女がいないなんて考えられない。
半ば無意識に、彼女と同じ高校に行く、と答えていた。
要領の悪い僕と違って、彼女は勉学に優れていた。そんな彼女と同じ高校に行きたいと言ったものだから、僕は最近勉強漬けの日々を過ごしていた。
苦しかったけれど、彼女がいつも僕に勉強を教えてくれたおかげで頑張れた。彼女はいつも一度通った道に戻ってきて、僕を導いてくれる。そんな長針の動きについていき、短針はゆっくりと時を刻んでいくのだ。
約100年の人生を時計の一周に見立てたら、だいたい4の数字を過ぎた頃だ。僕と彼女の人生には大きな変化が訪れた。
「パパ!あそぼ!」
「タクごめん、私手放せないから、遊んであげて」
「うん」
忙しい日々に、でも僕はどこか充実した気持ちになる。
新しく生まれた彼は、例えるなら秒針のようなものだ。僕と彼女よりも早く時を刻み、僕たちを振り回してくれるのだろう。導くってこんな気持ちだったのか。彼女の気持ちが少し分かった気がして、僕はなんだか嬉しかった。