第四話 色欲が大罪でも、ゴモリーは受け止めてる(前半・二)
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その後ゴモリーからは確かに一切の妨害を受けなかったが、しかしそれでもサクスは失敗した。
軍団は倒され、その上奴は今、アラヤの反撃を受けようとしている。
「ああ、あの炎はまるで純粋な殺意の念の塊だぁ……」
窓の外から感じられるのだ、自分に向けられた殺意の意思――あのセナ・アラヤの災い返しの魔技の波動が。
ずっと奴の後ろで事の成り行きを見守っていたゴモリーが、恐れ慄くサクスへと声を掛ける。
「ブラッド・バーストは相手に与えた傷の程度でも威力が変わる。今回は傷がまだ浅い方だったのか、貴女が命を落とす程の威力は無いと思うわよ」
特に同情の意を寄せるでもなく、あくまで落ち着いた様子でそう語った。
「そうかもしれないけどっ、あの炎はとても汚らわしいのよ!」
対してサクスは狂乱の表情で、甲高い声でゴモリーに言い返す。
その言葉にはゴモリーの表情が微かに変化し、その眼がすぅっと細められる。
「……アラヤが放った炎を汚らわしいと言い表わすの? それは聊か聞き捨てならないわね」
「でもあの炎はっ、寄りにも依って私の配下の鼻血が元になってるのよっ!!」
「え、そうなの……? あら、それはまた……」
鼻血と聞いて、流石のゴモリーも多少はサクスに同情の意を示すかに見えた。
……が。
「それはそれでアラヤらしい手加減の無さ、とも言えるわね。ふふっ」
彼女の何処までもアラヤを立てる姿勢は、ここでもブレたりはしないのだった。
「なぁんで笑ってるのよぉっ! ――って、来たぁ!!」
サクスがゴモリーに詰め寄ろうとしている間に、ブラッド・バーストの炎が窓から勢い良く突入した。
奴の全身――までには至らなかったが、少なくとも上半身には巡っていく。
「ひいいぃっ! 熱い、その上汚らわしいぃぃ!!」
「サクス、貴女ともこれでお別れなのかしら?」
炎に焼かれ悶絶する奴に、ゴモリーが冷淡にそう言い放つ。
「じょ、冗談じゃないっ!」
サクスは慌てながらも、炎が巡っているトップスを脱ぎ捨てて難を逃れた。
「衣服に比べて下着は派手なのね、貴女」
「放っといて頂戴っ!」
地味な服装からは想像するのが難しいであろう、黒縁の中は光沢有る金色系のブラジャーを晒して憤慨するサクスに、ゴモリーは肩を竦めるのだった。
その彼女の視線が微かにズレる。
サクスはその事の意味に鋭く感付いて血の気が引いた。
「まさか、セナ・アラヤ!?」
窓から荒ぶるような影が素早く入り込み、そしてその中から一組の人間の男女が姿を現わした。
「――ぷふぁっ。この影の魔技ってホント便利ですねー、力が増したり、高速で移動出来たり」
女の方――ゴスロリ衣装を纏ったリョーコが、やや間延びした声でそんな事を言っている。
「いや、俺の影は高速移動の方は上手くない。あまり長い距離は移動出来ないんだ」
男の方――その眼は既に部屋の中を見渡しているアラヤが、彼女の相手も同時にこなす。
「あっ、そうなんですね。でもそれでも凄いと思い――」
リョーコはアラヤにフォローを入れようとしたが、しかしこの部屋にゴモリーが居ると気付くと急に強張った表情になった。
「あ、貴女はっ――」
対するゴモリーは、そっと人差し指を自分の唇に当てて微笑みを返す。
「……また後でね」
艶めく口調で短く告げて、リョーコに――今はアラヤとサクスの戦いの邪魔をするな――と、暗に示してみせた。
リョーコもそれには文句無いようで、「むぐぐ……」と口をへの字にしながらもそれ以上は何も言わないでいる。
アラヤもまたゴモリーと目を合わせたが、二人は僅かに見つめ合った後、それだけでお互いの意思を通じ合わせたかのように視線を外すのだった。
……サクスは床に膝を突き両手もぴんと伸ばして床に付けた、上半身はブラジャー一枚の状態で、アラヤと相対していた。
「お前がサクスだな」
「は、はひぃっ!」
怯え、そして肌を大きく晒しているサクスはあまりに弱々しく……しかしそんな奴を、アラヤはまるでクズ虫を見るような眼で見降ろしている。
アラヤの冷徹なまでに戦いだけを押し進めるブレない姿勢、それはサクスという陰気なタイプの女に、恐怖と同時に歪んだ熱情を灯らせもしていた。
――なんという、人間とは思えない意思の頑強さなの……! これが、セナ・アラヤ……。
アラヤの眼には純粋な戦意と殺意しか宿っていない。
しかしその危険な純粋さは、悪の危険な際どさを知る悪魔サクスにとって、自分と近しい何かを感じさせるものでもあったのだ。
――恐ろしい男。でも、こちらに余計な事を考えさせないこの強さは、私にとっては或る意味、楽かもしれない……。
サクスのアラヤに対する印象が悪くないものであった事に、ゴモリーは気が付いていた。
――やはりどんなタイプの悪魔でも、アラヤの精神には何かしら感じ入るものなのね。
それは彼の後見役を務める彼女にとっては、誇らしい気分ではあった。
――後半へ続く――




