4振目 ~俺のパーティーがハイスペック過ぎる件~
___朝9時 村からギルドへの道中 この世界の家畜、バロが引くバロ車の中にて__
「おお!やっと目を覚ましたか!ヨッシー、時期ギルドに到着するぞ!」
「…んあ?ギルド?確か俺は村で宴を…」
田尻吉雄 23歳 元無職。現勇者。
彼は先日の宴で激辛料理をを食べた、その後の記憶があいまいになっている…
「宴会はとっくの昔にお開きになったぞ。せっかく村の人がごちそうしてくれたというのに…。貴様はヨヌシを食べ過ぎたせいで口から火を噴き、これは大変だと程よく酔った村の男がお前にジョリーを無理やり飲ませるも、その量が多すぎて泥酔…。全く貴様は、相変わらず毎度悲惨な目に合うな…」
「…ん?ジョリー…お△〇※★◇…!」
めざめて間もなく、身に覚えのない不快感に襲われたヨシオは、たまらず車内で嘔吐してしまった。
「んな!貴様、何をしている!このバロ車はな!村の人たちが私たちにわざわざ用意してくれたものだぞ!それを貴様は…!」
「うう…気持ち悪い…。そんなに怒鳴るなよ。頭に響く…」
「だ…大丈夫か!私がいけないのだ…あの時にあの酔っぱらいを止めさえしていれば…!嘔吐物の処理は私に任せてくれ!貴様はギルドにつくまで安静にしているといい!」
「いや、悪いよ。あとで俺が自分でやっとくからさ…」
「違うのだ!寧ろやらせてほしい!貴様の汚物処理など、大したことではない…ムフ、ムフフ♡」
「…じゃあ頼むわ。」
バロ車を引くバロは、村からギルドまでの道を把握している。
そのため、運転手なしでも目的地めがけてコツコツと蹄を鳴らしながら歩いてゆく。
_____________________________________
「おお!ついたぞヨッシー!私たちのギルドのある街に!」
それから何分が立っただろうか。そう時間もたたないうちに、バロ車はギルドに到着した。
景色の変わらない山道を抜け、そこにはヨシオの想像をはるかに超える広大な景色が広がっていた。
町の広場に出たところで二人は下車した。
「おお!さっきの村とは比べ物にならないくらい広いなあ…」
先日彼らが過ごした村には、小さな酒場と住宅と思われる木造の建物が十数あるだけの非常に小さい村だった。
対して、ルージュに連れてこられたこの町は、巨大な広場に噴水、レンガ造りの建造物がずらりと並んでおり、街中も老若男女でにぎわっている。鎧をまとったごつい兵士もいれば、子供連れの幸せそうな夫婦まで。
町は様々な出店やストリートライブでにぎわっており、服装と建物さえ違うが、ヨシオは元居た世界の都会と似たような印象を覚えた。
「何をおかしなことを言っているのだ…。つい昨日までここにいたではないか…。貴様の言うことは理解できん…。」
目を丸くしてはしゃぐヨシオの傍ら、ルージュはまるで母親がやんちゃ坊主を見るような目でヨシオをじろじろ眺めていた。
あまりにもじろじろ見られるので、ヨシオは恥ずかしくなり咳払いをした。
「…んで?仲間がいるんだろ?早く会わせろよ。」
「貴様…酔いすぎにもほどがあるぞ!ギルドが目の前にあるというのに!」
いわれるがまま、ヨシオは目の前の巨大な建物に目を向けた…。
それは、町の中でも一番凝った造詣がなされており、サイズも桁違いだ。ヨシオの元居た世界で言うならば、国会議事堂のようなものだろう。
「で、でっけええ…。ここがギルド…」
「何度も来ているくせに…。貴様の反応は、遠い国から初めてこの国にやってきたもののそれだぞ?」
「そ、そうかあ?いやあ、改めて見るとでかいなあと思ってさ?」
ヨシオは、ルージュと話す際は基本話を合わせるようにしていた。彼女には、ヨシオがここに来る前までの、「勇者」のヨシオと親しい間柄であることは間違いない。「異世界から来たから何も知らない」と答えては話がこじれそうだったので、それをヨシオが嫌ったのだ。
「とにかく!ユイエンとヘンリー、それからミコも、お前の事を心配している。さっさとみんなに謝ってこい…」
「お、おう…」
当然どれも身に覚えのない名前だったが、ヨシオは生返事でごまかした。
______________________________________________
「ギギィ…」
ヨシオは重い木製の門を精いっぱい押した…。
ここはギルドの中…
かつてこの国を救ったとの言い伝えのある、3体の勇者の銅像が玄関ホールで出迎えてくれた。
中は筋骨隆々で屈強な男たちであふれかえっており、体が細いヨシオは逆に目立ってしまう。
ヨシオとルージュは早速、パーティーメンバーの三人を探し始めた。
予想以上の人の多さに、ヨシオは目を回しそうになりながらも必死にルージュについていく。と、丁度左端の席にこちらに向かって手を振る人影が見えた。
「ルージュ!ヨシオ!コッチアルヨ!」
こちらに手を振っている子は、頭をお団子に結んだ女の子で、いかにも某国の映画に出てきそうな道着を着こなしている。
また、その傍らには顔色一つ変えることなくひたすら本を読み続けている少年が一人。紫色のローブを羽織り、眼鏡をかけている。
その横では高校生くらいの女の子が何やら必死になって何かを食べていた。
「おお!すまんな貴様ら。この通り、バカを連れ帰ってきたぞ。」
ルージュは誇らしげに三人の前にヨシオを突き出した。
「…そういってる割に、ヨシオ氏を一番心配してましたよね、ルージュ氏は。「未知の敵に襲われているのでは⁉」とか、「悪運こじらせて死んでいるのでは⁉」とか…。僕は言ったはずですよ。心配せずとも”しっかり”生きて帰ってくると。ヨシオ氏の運勢は最悪ですが、”死相”は見えませんから。」
眼鏡をかけた少年、ヘンリーは本に目を向けながらもルージュの発言に対し淡々と指摘する。
「うんうん♪ホント、ルージュちゃんもいい加減素直になればいいのにぃ♪恋する乙女は永久不滅だぞ♪もぐもぐ…(うっわーヨシオのやつ、いつもに増してきもいな。)」
お菓子を貪る女の子、ミコはそういって幸せそうにケーキのようなものを口に運ぶ。
「ソレ、我愛你イウアルヨ、ルージュチャン」
そして某国の道着コスチュームの女性、ユイエンは満面の笑みを浮かべながらルージュの肩に手を置いた。
「ミコ!貴様!菓子を食いながら話すな!それから私は恋なんて…し、してないからな!あんまり調子に乗るなよヨッシー!」
「…つーか、俺、お前に好かれるようなことしたのか?全く記憶にな*○△◇★※!」
瞬間、ヨシオは右頬を激しく打たれ、ギルド内にその音が響き渡る。一瞬だけ、ギルド内は沈黙で満たされた。
「…!うぬぼれるなと言っているのだ!この運任せ勇者!」
「…お前…二日酔い相手には…容赦しろよ…な…」
「アリャリャ、暴力ハ、ナニモ解決シナイアルヨ。」
ヨシオはやっとの思いで床から起き上がり、三人が座る椅子に腰かけた。
「…それじゃあ、自己紹介を…」
ヨシオは気づけばそう口走っていた。無理もない。この三人とは初対面なのだ。自己紹介はあってしかるべき。
だが状況が状況だ。ルージュも含め、4人はすでにヨシオの事を知っており、パーティーまで組んで一緒に冒険する仲なのだ。今更自己紹介だなんて、どう考えてもおかしな発言だ。
4人の視線が、一気にヨシオを向く。ヨシオはすかさず口をふさいだ。
「…いや…だから…その…」
「ジコショーカイ?必要ナイアル。我、ヨシノ事ハヨク知ッテルアルヨ。你モ、我ガコノギルド一ノ武闘家、リー・ユイエン様ト知ッテイルハズネ。忘レテシマッタナラ、マタ思イダストヨロシ。」
「何々?チョーウケるんですけど?今更自己紹介?そんなに私の事が気になる?まあしょうがないよね~♡私はミコだよ~?みんなの戦うアイドル、ミコりんだよ~?(うっわー何こいつ。チョー絶イタいんですけどー。さっすが雑魚勇者。)」
「…理解に苦しみますね。私たちはすでに一年前に出会い、旅の仲間として共に戦ってきた仲ではないですか。私がかのS級魔導士マーリンの息子、ヘンリー・フレドリクセンである事は承知のはず…。」
「…ま、まあそうだよな!ノリだよ、ノリ!」
自己紹介に関しては疑念を抱かせてしまったが、三人は結果的に自ら進んで自己紹介をするような形になった。自己主張の強いやつらが集まったもんだと、ヨシオは安心と心配の入り混じったため息をついた。
しかし、ヨシオが目を付けたのはそこだけではない。ミコの「戦うアイドル」というのは正直どうでもよかったが、巨大ゴリラを一撃で仕留める戦乙女に、ギルド一の武闘家、そして何か強そうな魔導士の息子…
(俺のパーティーのスペック、やばくないか⁉)
そう、話だけ聞けば、このパーティーは類稀なる「当たり」というやつだ。それに比べ、ヨシオは魔術も使えなければ剣も銃も扱えない。ただ託すはサイコロで出た目のみ…
ヨシオは確実にこのパーティーの「お荷物」であり、リーダーの能力としては最悪だ。
「…お荷物か…悪く…ねえな…」
転生万歳。ヨシオはこの世界の自分自身に敬意を表した。ヨシオは強運から悪運に転生したことにこの上ない快感を覚えており、その心酔ぶりはまさに変態の境地に達していたのだった…
と、ヨシオの視界が急にぼやけ始める。先ほどのビンタが、二日酔いの体に響いたのだ。
「よ、ヨッシー!し、しっかりしろ!誰だ!私のヨッシーをこんな目にしたのは!」
「「「「お前だよ!!!」」」」
パーティーメンバーによるルージュへの盛大なツッコミの後、ヨシオは静かに気を失ったのだった…。
____________________________________
「・・・て、ヨ・・…。・ね・・…」
ヨシオは夢を見ていた。
「・・せ。・・せ。・がせ…」
それは誰かが耳元でささやくだけというなんとも気味の悪い夢だった。