敵将との激闘と勝利宣言
敵将と思われる騎馬を守る10騎ほどの騎馬の集団は、一目散にゲレンデを駆け下り、北東に向けて全力疾走をしていた。
即席で作った薙刀を両手で構えた影山と、運転席でハンドルを握る秀明は、こちらも全速力で彼らを追っていた。
このランクル70系という乗り物は、凸凹が激しい場所などをゆっくり這うような走りには向いているが、荒れた路面を高速でぶっ飛ばすには本当に向いていない。
それは足回りの構造が影響しており、ランクル70系は前後のサスペンションがリジットアクセルというトラックみたいな構造で高速で走ると重いホーシングが暴れてしまうのだ。
60キロも出して荒野を走るとバタフライをしているようにジタバタした走りになってしまうので、それを押さえつけながらアクセルを可能な限り踏み込んでいくのだ。
馬とクルマの最大の違いはそのスタミナであった。
馬は近世まで、人や物を運ぶ手段としては最高の手段であったが、内燃機を持つ自動車の登場の高性能化で姿を消していったのだ。
ここでも馬は全力で飛ばし続けていたのだが、その背後をピッタリと追走してくるランクル70は全くスタミナ切れを起こさなかった(当たり前のことだが)。
逃げる騎馬隊もその事で焦り始め、敵将を守っている親衛隊と思われる騎馬兵が振り向きながら矢を立て続けに放ってきた。
秀明はその矢を大きく交わしながら、またジワジワと距離を詰めていく。
影山「これはラチが開かないな!
被弾覚悟で突っ込もうぜ!」
秀明「おう!それしかないな!」
秀明は大きく迂回しながら彼らの右側を走り、一気に横に並んで彼等に対して体当たり攻撃を仕掛けた。
影山「うわっ!マジかよ!!」
クルマの左側から敵に接近したので敵の矢の的になりそうになって悲鳴を上げたが、矢は放たれることなく、影山の攻撃範囲内に敵の親衛隊の一人が入った。
影山「ふんっ!!!」
影山は渾身のチカラを振り絞り、敵を後方から前に向けて斬り上げた。
影山の日本刀の刃は敵騎兵の背中を捉えて、敵は派手に落馬していった。
ここで残った兵士達が一斉に影山に向けて矢を放とうとした。
それを見た秀明は急ブレーキをかけ、彼等の真後ろに回り込み、矢の一斉攻撃を避けたのだった。
秀明「ふーっ、スリルあるなんてもんじゃないな!
敵将を守ってる精鋭部隊らしく強敵過ぎるだろ、コレ!」
影山「全くだ、こんな時、飛び道具が残ってたら良かったのにな!
ってか、ライフル銃が残ってるだろ!
オレに貸せよ!」
秀明「いいけど撃ち方知らないだろ、お前。
俺がライフルで牽制するから、一気に敵将の首を取ってくれ」
影山「おう、分かった。
やり方は任せるから、敵将の首を間合いに入れてくれよ!」
秀明「おう、任せてくれよ、とりあえず俺から攻撃するぞ」
秀明は彼等の左側に飛び出して全速で彼等の左側に並んだ。
敵の騎兵から矢が飛んでくるが、距離が20メートル以上離れているし、馬は激しく上下動を繰り返しながら全速疾走してるのでランクルの側面にはヒットするが、秀明に直撃はしなかった。
秀明はハンドルを影山に任せて、ライフルを敵騎馬に向けて連射を始めた。
揺れまくるクルマから狙撃するのは困難だったが、数発撃った中の一発が敵の騎兵の一人を捉えて落馬させていた。
秀明は残弾ゼロになったライフルをホルダーに戻しながらハンドルを一気に右に切り、動揺が走る敵兵に向けてランクルを突進させた。
今度は秀明の座っている運転席側から敵に接近したので、矢が秀明を襲い、そのうちの一本が彼の正面の窓ガラスに突き当たり目の前が蜘蛛の巣を張ったように真っ白にした。
秀明は怯まずそのまま右にハンドルを切り続け敵の騎馬兵に体当たりをかました。
槍を突き立てられるが構わずそのまま右に押し続け、遂に敵将の真後ろにランクルを持っていくことが出来た。
影山「もう少しだ、踏め!!」
秀明は暴れまくるランクルのアクセルペダルを容赦なく床まで踏み込んだ。
…そこからは全てがスローモーションに見えた。
大きくバウンドするランクル70。
敵将の驚く表情。
身を乗り出し、後方から敵将に向けて渾身の一撃を浴びせようとする影山。
…………………………
その頃、林道では敵から奪った大楯を並べて敵の攻撃を食い止めようとしている傭兵隊の姿があった。
狂戦士と化した敵兵との激闘は予想以上に傭兵たちを疲弊させ、林道の曲がり角まで敵を押し返すまでは出来たが、そこから先を押し倒す体力は残していなかった。
雅彦「ユンボがオーバーヒートしたのはホントに痛かったな」
雅彦は再度、クルマの向きを変えて、ランクルの後部に取り付けてある頑丈な鉄柵を敵側に向けて、再三突撃を繰り返していた。
狂戦士と化した敵兵の群れに突っ込むのはかなりのリスクを伴い、敵は毎回、ランクル73に対して攻撃を仕掛けて来るのであった。
荷台で戦うイングリットも武器を槍に持ち替えていたが、敵の攻撃の激烈さに半ば参った状態になっていた。
彼女も戦闘開始から延々と雅彦の隣で戦い続けていたのでへばるのも無理ないことだった。
一方、ヴィルマは高圧洗浄機に残された催涙水で敵を攻撃し続けていたが、狂戦士と化した兵士に対しては効果が減ってしまっていて、これまた苦戦させられていた。
ヴィルマも大汗を流しながら肩で息をしていたが、揺れる荷台に残された武器を使い攻撃を続けていた。
彼女は火炎瓶や閃光弾などを次々と投げ、敵のバリスタや投石機を炎上させ、敵兵の多くを戦闘不能に追い込んでいた。
雅彦も負けじと運転席のドアを僅かに開けた隙間からショットガンを連射し続け、攻撃の拠点となりそうな敵兵を倒し続け、さらにクルマによる突撃も敢行し続けた。
雅彦は傭兵たちに休息するよう指示を飛ばし、少しでも長く彼等を休める為、孤軍奮闘していたのだ。
だが、いくらランクル73の突撃力やショットガンの威力が凄いとは言え、死を恐れず凶暴化して向かってくる敵の大軍の圧力に押し切られそうになるのだった。
そこへ、最高のタイミングで比呂の運転するランクル80と完全武装した村の女の子達が駆けつけてきたのだ!
大歓声を挙げる傭兵たち。
女の子達と比呂は傭兵隊に代わり大楯を構えて、彼らを一時的に後方に後退させた。
また、大楯の陰から駆けつけた弓兵が敵に向けて全力の攻撃を放っていく。
雅彦「ふー!!最高のタイミングで応援が来たな!
助かったぞヒロ!!」
比呂「おう!ここで訓練の成果を見せてやるぜ、お嬢さんたち、準備はいいか?」
比呂は後方に詰めてきていた村の女性たちに声をかけると、彼女たちから大声で歓声が上がった。
十名の女性たちが手に握っていたのは、比呂が作っていた鉄パイプ製の長槍であった。
彼女達は盾の隙間から槍を一斉に振り上げ、掛け声と共に前方に殺到していた狂戦士たちに向けて渾身のチカラを込めて長槍を振り下ろした。
敵の咆哮をかき消す破壊音が辺り一面に響き渡り、敵の最前列は一気に崩壊した。
その戦列の中央に立って長槍を奮っていたのは比呂であった。
比呂は再度掛け声を掛けると、振り下ろしていた槍を全員持ち上げ、振り下ろした。
戦場に響き渡る破壊音と敵の悲鳴。
さらに後方からは矢の雨と火炎瓶が敵の中に放り込まれて、狂戦士と化した兵士たちを悉く打ち倒したのであった。
敵の攻撃が明らかに弱くなったと感じた雅彦は比呂に「親父はどうなったんだ?」と聞いたのだが、「無線の範囲外に出たみたいで連絡出来ない」との返事が返ってきた。
雅彦はクルマの動きを止めて、運転席の上に立って敵軍の方を見たが、まともに動けている兵士はほぼ姿を消していて、大半は骸と化していたのだった。
見える範囲の敵は抵抗力を失い沈黙し、残った敵はおそらく撤退した様子であると判断した雅彦は、ランクル73のセンターピラーの上に立ち、
「勝ったぞー!!!」という勝利宣言をした。
これは日本語で放たれた言葉であったが、意味を感覚的に理解した傭兵隊の面々や村の住人の女の子たちも彼の宣言に反応して大歓声を上げるのであった。
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