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ワルキューレの騎行

ドラゴニア軍の最前列は林道の終点にある橋の付近まで達していた。


だが、ここでドラゴニア軍の前進は遂に止まることになった。


原因は様々あったのだが、大きな要因の一つは「薬の効果が切れたことによる疲労で多くの兵士が動けなくなったこと」であった。


最前列にいた兵士たちは大楯の陰に隠れて、ほぼ全員がへたり込んでいたのだ。



こちらに派遣されているドラゴニア軍の千人規模の中隊は度重なる敗戦で、今回の侵攻は絶対成功させねばならなかったのだ。


そこで中隊長は侵攻する歩兵部隊に「興奮剤」の使用を許可する。


これを摂取した兵士は、摂取後約5時間くらいで効果が現れ始め、服用した兵士たちは「狂暴化」「不安を忘れる」「痛みや疲れを感じなくなる」「火事場のクソ力を発揮し通常の二倍ちかくの筋力を発揮する」というような現象が起きるのであった。


だから、この(ドラッグ)が効いた状態の兵士はマジで強い。


だが、さきほども言ったようにこのドラッグには大きな副作用がある。


効果が出た処から半日ほど経ったら、強烈な疲労感と共に身動きが取れなくなったり、体全体が痛くなったり、吐き気や眩暈めまい、場合によっては失神することもあるのだ。


このような状態になった兵士はカンタンには元の状態には戻らない。


特にバーサーカー状態で怪力を振るいまくった兵士の多くは無理な力を出したことによる筋繊維の断裂などが起こり、動けなくなることが多いのだ。



比呂はゲルラッハと名付けた軍用ドローンを飛ばし、上空から敵軍の様子を観察していた。


確かに前線付近には300名程度の兵士が確認出来るが、動きが止まっているし、林道の中程にも動けなくなっている兵士と思われる人々が多数確認できた。


比呂「兄貴、今がチャンスだぞ、林道の中でまともに動いている兵士は、今 目前にいる兵士だけに見える。


親父に本陣を強襲してもらうから、兄貴は予定通りの作戦を実行して。


いよいよ『アイアンバール作戦』の第二段階に突入だ!」


雅彦「あぁ、分かった。


ここでは相変わらず投石とか凄いけど、反抗作戦の準備をしとくわ」


比呂「りょ」



比呂は無線機の周波数を切り替え、秀明に向けて話しかけた。


比呂「親父、準備が出来たよ。


今はどこで隠れてる?」


秀明「やっと出番か、こちらは敵本陣と思われる地点の南東3キロほどに居る。


小さな森がある場所だわ」


比呂「りょ。そこなら敵本陣まで障害物なしで一直線に走り抜けれるね。


かなり後方に回り込んでいたんだね」


秀明「ああ、かなり大きく迂回したぞ。


敵から見つかったら元も子もないからな。


で、本陣を襲撃すればいいんだな?」


比呂「そう、派手に炎と煙を立ち上げてやって。


そうすれば敵を効率的に混乱させることが出来るから」


秀明「オッケー、分かった。


それじゃあ出るぞ」


比呂「よろ」


秀明は助手席で寝てる影山を叩き起こして、エンジンを始動させた。


影山「お?!やっと出番か?あまりに暇で寝てたぞ」


秀明「オマエはよくこんな時にイビキかいて寝れるよな?


とりあえず、タンクのエア圧と装備の最終チェックしてくれ。


でき次第、突撃するぞ。


目標は敵本陣のテントの周囲に置かれている多数の荷車だ。


これを火炎瓶で焼き払う。


火炎瓶のキャップを全て外して、布は詰めているよな?」


影山「おう、ここに来てすぐやっておいたぞ。


ライターも消火器もバッチリだ」


消火器はランクルに元々備え付けている粉末消火器のことで、インパルスの事ではない。


秀明「いざ自爆してしまったら、インパルスで消火してやるから、安心して火炎瓶使ってくれ!


敵本陣には右側から反時計回りで接近するぞ。


何周かする間に食糧満載の荷車を燃やしてくれ。


全て燃やし尽くさなくてもオッケーだ。


敵軍への攻撃用で半分程度残しておいて。


俺はライフル銃と日本刀、オマエはインパルスと日本刀だ」


影山「いや、自爆したらちゃんとこの粉末消火器で消してな?


とりあえず準備完了だから行こうか。


…ところで聞きたいことがあるんだけどいいか?」


秀明「なんだ?お前が亡くなったときの遺産は俺に振り込むとか、そういう話か?」


影山「んなわけないやろ?!


小畑はなんでここまでやるんだ?


金儲けしたいとからスローライフ送りたいって言うだけならここまで危険なことしなくてもいいんじゃないか?」


秀明「まぁ、ここまでやってるのは半分成り行きだな。


だけど今は金儲けよりも、雅彦や比呂がこの先、この世界でどう化ていくのか見てみたいんだよな。


特に雅彦だ。


アイツは日本に居たらただのトラックドライバーとかで人生が終わるタイプだろ。


だけど、こちらの世界ではなろうと思えば王にだってなれる。


王になるのがいいことかどうかは知らないが、可能性があることは間違いない。


だからオレはその可能性を切り拓く、ただそれだけだよ。


それより、オマエこそなんでここに来たんだ?


日本に残って毎日、飲み屋に通ってオネーちゃんでも口説いていれば良かっただろうに?」


影山「それはもう飽きた。


一ヶ月に二百万とか飲み代に使っても何も得られる物なんてないんだよ。


せいぜいうわべの言葉でちやほやされるくらいが関の山さ。


それにさ、お前とはまだ決着つけてないんだから、一人で勝手に逝かれると困るんだよ。


もう、俺らの世代でまともに走れる奴も張り合える奴も残ってないんだよな」


秀明「まあ、そんなことだろうと思ったぜ。


まあいいや、お互い遺言とかは残さない、死んだら葬式の時に悪口は言わない、これでいいか?」


影山「は?悪口は言わない?…まあいっか。それで行こうぜ」


52歳にもなる初老の域に達しかけたオヤジ二人はこのような会話を交わして出発していくのであった。



一方、その頃、林道の最も手前にある橋付近まで戦術的後退してきていた雅彦率いる傭兵隊は、反撃の準備を整えていた。


雅彦はゲルハルト、ヴォルフラム、レベッカ、ヴィルマ、イングリットを呼び、最終打ち合わせをしていた。


雅彦「もうじき俺の親父が敵の本陣に焼き討ちをかける。


敵に後方で煙が立ち上り始めたら、さっき話した手順で攻撃を開始する。


村からも10名ほど応援に来る予定になっているから、彼女達には橋を防御しておいてもらい、我々は動けない兵士もろとも一気に林道出口まで敵を押し込むぞ。


本当に動けない兵士は道端に除けるか、右側の小川に投げ込めばいい。


俺がユンボで先陣を切るから、ヴィルマは俺の背後でついて来てくれ。


イングリットは残った武器を全て使い切ってもいいので、最前線まで来ている破城槌を焼き尽くしてくれ。


くれぐれも味方や自分を燃やさないようにな?


一応、消火器はあるけど。


ヴォルフラムは盾を持つ半数の兵士と共にユンボやランクルの側面を塞いでくれ、ゲルハルトは傭兵隊の指揮、レベッカは弓隊を率いて、反撃してくる敵兵に矢を浴びせていってくれ」


ゲルハルト「よし、皆 聞いたとおりだ。


矢は橋のたもとに届けられている物があるので弓隊は矢筒に補充しといてくれ。


皆、後退し続けて溜まったうっぷんをここで晴らすぞ!


敵を殲滅したら、今日の晩は朝まで宴だ!


マサヒコサンが奢ってくれるぞ!!」


ガハハハと笑い合う傭兵たちであった。



秀明はまずまっすぐ北上し、敵の本陣が真西になった付近で左に転進し、夕日を背後にして突撃していった。


正面には木が無くなっている緩斜面が広がり、斜面の中腹あたりに敵の本陣が見えていた。


ここまで来ると遮蔽物はいっさいないのでスピード勝負だ。


路面は牧草が生えているだけの比較的フラットな地形なので、時速60キロ程度で疾走してもそれほど派手にはバウンドしないが、乾燥した土地なので背後には目立つ砂煙が立ち上っていた。


影山「こりゃ、目立ちすぎてるんじゃないのか?」


影山は跳ねまくる車内で体を保持しながらワーワー文句を言っていた。


秀明「しまったな、やることを一つ忘れてた!」


影山「なんだ?」


秀明はおもむろにデッキに繋げておいたスマホをイジって音楽をかけ始めた。


秀明「ここで使うならコレしかないだろ?」


スピーカーから流れてきたのはワーグナーの「ワルキューレの騎行」であった。


影山「地獄の黙示録か?!ケツの下にテッパチを敷かないとダメだな!」


秀明「なんだ知ってたのか?


えっと、キルゴア中佐だっけ?


こんな時こそ真似しないとダメだろ?!」


影山「ああ、もう好きにしてくれ!帰ったらビール奢れよな?!」


秀明「なんだ知ってたか?」


大笑いしながら本陣に向けて突撃していくランクル70。


残り一キロほどに近付いたとき、敵の本陣を守備していた騎馬隊の一部は、夕日を背にして突入してくる、奇妙な戦車(チャリオット)を発見した。


慌てて10騎ほどが飛び出してきたのだ。


秀明「ヤベっ!!もう出てきやがった!


インパルスでぶっ叩いてくれ!」


影山「寸前まで接近してくれ、先頭の奴を狙うぞ!」


秀明は真っ直ぐ敵の騎馬隊に突撃していたが、残り20メートルほどでいきなり右に転進して、助手席側が敵に向くように走った。


影山の操るインパルス消火銃から「バシュン!!」という射撃音と共に水の塊が敵の騎馬兵にヒットした。


秀明は忙しくハンドル操作をしながら、スピーカーの音量を最大にして、敵の本陣に向けてさらに転進していく。


インパルスの一撃を食らった敵の騎馬兵は驚いた馬が暴れたことで落馬し、後方に迫っていた騎馬兵も一人巻き込んだ。


影山「よっしゃ!!まず2つ!!」


秀明は敵本陣の辺りまで到着し、影山は忙しく火炎瓶を一つ取り出し火を着けて荷車の一つに投げつけた。


火炎瓶は荷物を満載した状態の荷車の一つに命中し、派手に爆発して燃え上がった。


秀明はさらにクルマを本陣の周りを走らせたが、正面からまた別の騎馬隊が迫ってきた。


隣をチラッと見てみると影山が忙しく火炎瓶に火を着けている処だったので、フェンダーに固定していた日本刀を引き抜き、敵の騎馬兵に向けて進路を変えた。


秀明は敵にすれ違う寸前に、上半身をクルマの外に完全に乗り出す状態になるまで寝かせ、左手一本でハンドルを操作しながらすれ違い様に敵の騎馬兵の一撃をかいくぐり、馬の脚を真横に斬りつけた。


秀明の日本刀は馬と敵兵士の右脚をガッツリと斬り、その騎兵はすれ違った後で転倒していた。


こんな真似が出来るのは、このランクル70には左右のドアが最初から外されていることと、運転席側のシートベルトが腰だけを固定する物だったので可能だったのだ。


敵の槍の攻撃は秀明のクルマの運転席のロールバーの辺りにヒットしたが、別段大きなダメージにはならなかった。


影山「もう少し本陣に寄せてくれ!さすがにここから投げても届かねぇ!」


秀明「オッケー、分かった!」


ここからは彼等の珍しく息の合った連携プレーが炸裂し、敵本陣は多数の食糧が焼かれて黒煙を何本も立ち上げていたのだ。


敵本陣付近で食事の用意をしていた奴隷たちは逃げ惑い、騎馬隊の多くも秀明たちによって落馬させられたり、閃光弾に驚いた馬が逃げたことで無力化されてしまっていた。


影山も日本刀を抜き、左手一本ですれ違いざまに敵兵を数名、討ち取っていく。


影山「俺は15だ!小畑は?」


秀明「知らねぇけど20はいってるんじゃないか?」


影山「なんだと?もっとコチラを敵に寄せろよ?!」


秀明「うるさい!それよか林道から敵兵がワラワラ出てくるぞ!奴らに火炎瓶とかお見舞いしてやれ!


一気に数が稼げるぞ!」


秀明と影山は敵が多数群がる林道へ進路を転進するのだった。


影山「敵の司令官を探せ!」



一方、その頃、雅彦率いる傭兵隊による反撃が開始されていた。


(続く)





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