激突
秀明・影山組が崖を下り終えていた頃、林道の出口にある関所跡では戦闘が始まっていた。
投石機とバリスタなどからの援護射撃が収まったと思ったら、大楯と槍を構えた兵士達が林道に雪崩れ込んで来た。
敵がいるゲレンデ側から見ると林道の入り口は入ってすぐ右にカーブして崖で隠れているのだが、この林道は幅が10メートルも無いので、数百人もの前衛部隊が全て同時に林道に入ることは不可能だった。
ジワジワと戦列を組みながら前進してきた兵士たちは目の前に鉄の柵を備えた戦車を見つけた。
前衛隊は横一列に並び、大楯をビッシリと揃えて隙間から槍を突き出し、突撃の体制を整えた。
その戦車の柵の間から突然、強烈な閃光がバシバシと点滅し始めた。
盾の隙間から前方の様子を覗いていた兵士たちは突然の閃光で目潰しを食うことになった。
雅彦「突撃!!」
雅彦は敵が一瞬たじろいだのを見ると、ランクル73のギアをリバースに入れて、一気に後ろ向きに突撃を開始した。
ランクル73は急加速で後退し、後方に備えていた重さ300キロにもなる鉄の柵で敵の前衛部隊に体当たりをカマした。
前衛部隊の丁度真ん中にランクル73が突っ込む形になり、敵の前衛は跳ね除けられる者と、後方にいた兵とがぶつかり、多数の兵が林道から小川への転落していった。
こちらは高低差が2メートル程度しかないので落ちても死にはしないのだが、小川の中には鉄条網が残されているので、落ちていった兵士は身動きが取れなくなった。
敵軍から怒号や叫び声が溢れかえった。
敵中で停止した雅彦は運転席から横を見ると、驚いた表情をしている敵兵たちと目が合った。
突然、3トンもの鉄の塊の突撃を受けた前衛の兵士がいた付近は将棋だおれになった兵士が続出していたのだが、それらの兵士はどれも驚きと恐れと怒りが入り混じったような表情を浮かべていた。
雅彦はギアを2速に入れて前進したが、ガンガンと何かを踏んだ感触と兵たちの叫び声が同時に聞こえてくるのだった。
雅彦「気にしてられるか!ゲルハルト!行け!」
雅彦の掛け声に反応したゲルハルトは、長槍を携えた兵士達を横一列に並ばせ、一気に突撃を開始した。
敵の最前列に3メートルほどの距離に詰め、巨漢のヴォルフラムを中心とした12名の傭兵たちはその鉄パイプ製の長槍を振りかぶり、全体重をかけて思いっきり振り下ろした。
「バシバシバシバシ!!」という強烈な打撃音と共に、盾を構えていた者、体勢が崩されていた者を問わず全ての前線の兵士たちが傭兵たちの長槍の餌食となった。
ある者は盾ごと叩き割りられ頭部を潰されて、ある者はとっさに手で持っていた槍で受け流そうとして槍ごと叩き折られて腕を無くしていた。
ドアを開けて後方の様子を見ていた雅彦は無線機で後方に控えている弓隊に「一斉射撃をしろ!」と指示を出した。
後方で盾などの陰で隠れていたレベッカたち弓兵は、サッと盾から飛び出して、手持ちの弓で戦闘を繰り広げている最前線を「真横から」狙い撃ちした。
正面からは巨躯の兵士揃いの鉄製の長い柄をした槍による容赦のない縦方向の連続した打撃が加えられ、さらに無防備だった左からは弓矢による攻撃が加えられたのだ。
しかも敵の背後にいる、最初に突撃して多くの兵士を跳ね飛ばした戦車に取り付けられている鉄製の柵の間からは連続して目が眩む閃光がバシバシ焚かれていて、そちらを見ることすらままならない状態であった。
少し後方にいた前線の指揮官は「気圧されるな!進め!進め!」と大声を上げて逃げ出そうとする兵士が出ないように味方を鼓舞し続けた。
最前線はお陰で凄まじいことになっていた。
あるものは潰され、小川に落ちて鉄条網で拘束され、数十名の兵士があっという間に犠牲になった。
しかし、今回は撤退や後退は許されていなかった。
二度にもわたる撤退で軍の中からでの立場は極めて危ういものになっていたからだ。
こういう場合、軍の司令官にはある事が許されていたのだ。
それは「最前線で突撃させる兵士に興奮剤を飲ませる」という方法であった。
前日の宴で、中隊長が酒を飲む事を解禁させた理由のひとつが実はコレだったのだ。
この特殊な興奮剤入りの酒を飲んだ翌日の兵士たちはまさに死を恐れず戦うようになる。
それこそ殺しても殺しても、屍を次々に乗り越えて敵を襲うようになるのだ。
またこの薬には、人体の限界を越えさせて異常な力と持久力を与える効果もある。
正に「悪魔の軍隊にこそ相応しい悪魔の薬」なのだ。
敵兵の状態が異常な事をゲルハルトは気が付いていた。
ゲルハルト「敵はおそらく死を恐れなくなる薬を飲まされています!」
ゲルハルト達は長年、戦場を渡り歩いていたため、あちこちの戦場で色んな噂話を聞く機会があった。
その中であるまた兵士から聞いた話に「戦っているうちに半狂乱になり、『怒り狂う者』になるクスリを飲まされたことがある」というのがあった。
実はその薬は幻覚作用のあるヒヨスというナス科の植物を原料としたもので、副作用があることから滅多に使われることはないのだ。
雅彦も敵の異常さに気がついていたが、ゲルハルトの言葉をヴィルマから伝え聞いて、一瞬背筋が冷たくなっていた。
今はゲルハルトたち傭兵部隊が敵を圧倒しているが、腕が折れたままでも鬼の形相で向かってくる兵士がいたり、明らかに致命傷と思われる深傷を負ったにも関わらず起き上がり襲ってこようとする兵士などが出てくることで、前線は少しずつ押され始めていた。
最前線の傭兵たちも先程から全力で長槍を振るい続けているので明らかに息が上がってきている。
ここで雅彦はクルマのホーンを一度鳴らした。
それは、「前列の兵士と後列の兵士の入れ替えのサイン」であった。
ヴォルフラムなど最前列で長槍を振るい続けていた12人はサッと後退し、後ろで並んでいた12人の後ろに回り込んだ。
数人の長槍は折れ曲がったり、先のナタや鍛造スコップなどが取れてしまっていたので放棄し、新たな長槍を持ち直して休憩に入った。
先程まで後列にいたゲルハルトが今度は前列に出て、盾を並べて接近しようとするドラゴニア兵たちを盾ごと叩き潰そうとする。
辺り一面、多くのドラゴニア兵で埋め尽くされていたが、その上から覆い被さってくるかのように次々とドラゴニア兵が襲い掛かってくる。
雅彦のランクルの横で先程まで長槍を振るっていた傭兵たちは肩で息をしていたが、数分もしないうちに回復したのか立ち上がり、気合を入れ直したり準備運動を始める傭兵が出始めていた。
こちらはクスリなどキメてないのに、なんとも凄いスタミナと戦闘意欲の高さだと感心する雅彦であった。
雅彦は運転席から立ち上がり、ヴィルマに高圧洗浄機を使う準備を始めるよう指示をした。
ヴィルマの隣ではイングリットが和弓を構えて、長槍と長槍の間に入り込み、接近戦を仕掛けようとしている兵士や、後方から槍や盾をこちらに投げようとしている兵士を見つけては的確に狙撃していた。
雅彦は助手席があった場所に置いていたパーツボックスから空き缶から導火線が伸びたような物体を取り出し、導火線に火を着けて敵の真っ只中に投げ入れ「目を閉じろ!!」と大声で全員に指示を出した。
すると、敵の中央付近で突然、強烈な光を発して爆発音が起こり、その閃光を目にした兵士は目を手で覆いうずくまったり、「目が見えない!」「目が!」などと叫ぶ兵士が続出した。
盾での防御が疎かになった瞬間、横方向から多数の矢が飛んできて、敵兵を横から貫いた。
負傷者と死体の山が築かれるのだが、敵はまだまだ後から林道に殺到してくる。
雅彦「これはなんともしつこいな!」などと言いながら、クルマのホーンを二回、プップの短く鳴らした。
そのサインで長槍を振るっていた傭兵はランクルの後方に回り込んだ。
雅彦は再度、ランクル73をリバースに入れて、敵の真っ只中に突っ込んでいった。
最初の時と同じく、ランクル73の後部に取り付けている鉄の柵は十数人の敵兵を跳ね飛ばし、敵の真ん中で停止し、前進する時にも数名の兵士を跳ね飛ばし、また踏み倒しながら前線をかき回した。
雅彦はランクル73に取りつこうとする兵士の顔面にショットガンの散弾を立て続けに二発、叩き込み、クルマを前進させて敵中から脱出した。
敵から少し離れた処で、ヴィルマは高圧洗浄機のノズルをミストにして敵に向けて放出した。
その隙に雅彦はショットガンを裏返しにして、ショットシェルを二発、クイックロードした。
雅彦の後方では、新たに突っ込んで来ようとしている兵士たちが今度も目や顔を手で覆いながら悶絶を始めた。
これは以前にも雅彦が敵に対してやった催涙水による攻撃であった。
無防備になった兵士には林道の奥にいる弓隊からの矢が容赦なく飛んでくるのだった。
ここで、前線指揮官は戦術を変えてきた。
槍や盾などを投げ、傭兵隊が持つ長さ4メートルの槍の射程の外から攻撃するようになったのだ。
ヴィルマとイングリットはランクル73の荷台の中から、盾や槍を投擲しようとする兵士を次々と狙撃し、催涙水で無力化していった。
正に林道の出口付近は地獄の様相を呈するようになった。
折り重なるように横たわる兵士の上を乗り換え、倒されても倒されても次から次へと襲いかかってくるドラゴニア側を最前線で間近に見ながら「これが戦場というものなのか!」と思い知るのであった。
今のところはランクルの機動力と防御力、更には傭兵部隊のズバ抜けた強さのお陰で敵を塞ぎ切っているが、いくら倒されても後から次々と兵士が襲ってくるので、これこそ数の暴力って奴なんだな、と思うのだ。
「これは潮時かもしれないな」
雅彦は数回、敵への体当たりを敢行した後に、クルマのホーンを「プ、プ、プーー」っと3回鳴らした。
雅彦はランクルを傭兵隊の直前まで戻して、ゆっくりと撤退を開始した。
ランクル73の横にはヴォルフラム達が並び、林道を塞ぎ、少しずつ村の方向へと動いていった。
ヴォルフラムたちは今度は長槍を真っ直ぐ前に突き出した状態で固定し、敵が接近出来ないようにした。
ドラゴニア軍はそれを見て猛然と距離を詰めようと新たな兵士を送り込んでくるが、催涙水や閃光弾、矢を浴びて、次々と無力化させられていた。
敵の前進圧力が強まったのを見た雅彦はヴォルフラムに攻撃開始の指示を飛ばした。
またしても接近してくる兵士たちを頭上から猛烈な速度と重さを備えた鉄パイプ製の長槍の連続攻撃が襲いかかった。
またしてもバキバキという盾や人間などが砕ける音が響き渡り、敵の前進が止まった。
ここで比呂から無線が飛んできた。
比呂「兄貴、前線はどんな様子だ?」
雅彦「おう、メッチャ忙しいぞ!敵の死体で道が埋まるほどだわ。
こちらの損害はまだないぞ!」
比呂「ドローンのカメラで観てるけど、予想以上に傭兵隊が鬼強いな?!
この調子で橋の辺りまで撤退出来そうか?」
雅彦「おう、任せとけ!
ただ、長槍が予想以上に早く消耗するんで林道の真ん中付近に補充してもらいたいな」
比呂「オッケー、任せといて。
あと、親父は崖を下り切ったとさっき連絡が入ったぞ」
雅彦「おうよ、まだ動くなと言っといてな!敵を深く引き込まないと意味がないからな!」
比呂「それは分かってると思うで、兄貴の良いタイミングで親父に襲う指示をしてくれ」
雅彦「了」
雅彦はここでヴィルマと運転を交替して、自らは徒歩で林道を村の方に走っていった。
傭兵たちとランクル73は敵を抑えつつ、少しずつ林道を村方向に後退していく。
林道は弓隊がいる処から大きく曲がるのだが、ここに下がるまで前後の列が数回入れ替わった。
雅彦が居ない時はゲルハルトの指示で行うのだが、もう少しで曲がり方という処で村の方から「ガララララ」という大きな音と「キュラキュラキャラ」という音が聞こえ始めて、ユンボが姿を現すのであった。
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