アイアンバール作戦開始
ドラゴニア軍の前衛部隊がちょうど以前堀などがあった場所に差し掛かった処で、後方に配置していた投石機と大型クロスボウであるバリスタからの一斉攻撃が始まった。
狙いは林道の奥に潜んでいるであろう敵兵に対しての無差別射撃であった。
即席で作った投石機の為、巨大な岩を撃ち出せるほとの大きさの物は作れなかったが、それでも20キロくらいの重さにはなる岩を50メートル程も飛ばせる程の性能を持っていた。
また、それらは木製の車輪も付いているので移動させることが可能な物で、ここら辺はドラゴニアという国が比較的高い技術力を持っていることを現しているのだった。
雅彦たちは降り注ぐ岩や木の杭などに対する防御法を用意していた。
丸太で作っていた盾、ユンボのアームで高く掲げていた丸太の柵などだ。
傭兵の弓隊はそれらの後ろに隠れていたのだ。
雅彦たちは崖の裏側にいたため、こちらも被害は全く無かったが、雅彦は傭兵たちが暴発しないよう、動かない様にゲルハルトに伝えて彼から全員に動くなと指示を徹底させた。
ドラゴニアの遠距離支援射撃は徹底していた。
30分にもわたり岩の数でいうと五十発程度もランダムに森の中や小川の中、林道や崖などにヒットし、頭の上を数百単位の木の杭が飛んでいった。
ゲルハルト「無駄なことしやがって」
その言葉でゲラゲラと笑い始める傭兵隊の猛者たち。
やはりコイツらは場数を踏んでいるな、頼りになるヤツらだと思う雅彦。
投石機やバリスタの射撃の後にやってきたのは300人ほどいる弓隊からの一斉射撃であった。
一瞬、空が暗くなるほどの矢が空を覆い、これまた至る所にランダムに降り注いだ。
先程の岩や木の杭の雨も迫力があったが、今回の矢の雨も数が凄まじいので大迫力だ。
雅彦はこの岩や矢の雨には、我々を殺してやろうという明確な意思を感じた。
だが、そんなものに負ける訳にはいかない。
ふとランクルの後ろ側に待機している傭兵たちの顔を見ると、皆、戦いを待ち望んでいるかのような強烈な目の輝きを宿していた。
ここで、自分がヘタレてしまうと、彼らへの統率を失うことにも繋がりかねない。
自信の無さを見透かされてはいけない、いつも堂々と自信に満ち溢れた態度を貫かねばならない。
雅彦「ヴィルマ、後方の弓隊に被害が出てないか聞いてみてくれ」
ヴィルマ「分かった(Ja!)」
ヴィルマは後方の弓隊を率いるレベッカに被害が出てないか聞いたが被害はこれまたゼロだと返事が返ってきた。
事前に用意した投石機や矢などに対する防護策が効いているのだ。
雅彦は無線で村に待機している比呂に「始まったぞ」ということを告げた。
その頃、秀明と影山も村の南にある崖をランクル70で垂直に降っていた。
いや、正確に言うとほぼ垂直の崖に沿って、クルマを吊り下げ、手動で降ろしていたのだ。
クルマは倒立状態になるのでこの状態でエンジンを掛けるとエンジンのピストン内にエンジンオイルが入り込んでエンジンが壊れてしまう。
そこで、クルマがまだ崖の上にある時にエンジンオイルをほとんど抜いて、クルマが崖を降り切ったらまた抜いたオイルを入れるのだ。
この作業はチルホールと呼ばれる手動のウインチが使われるのだが、これが案外チカラの要る作業だ。
今回は予め崖の上から垂らしておいた複数の長さのワイヤーを活用しながら、何度もチルホールのワイヤーをかけ直し、巻き取りし直しながら、垂直に吊り下げられている車のリアゲートの上という足場の悪い場所でそれらの作業をしなければならなかった。
実はこのような馬鹿な真似は初めてではない。
この様なことを実際に四駆の競技としてやっていたのが『アイアンバールカップ』だったのだが、それでも10メートル程度の垂直の崖を降りる程度なので、今回のように100メートル近くもクルマを下ろすのは正気の沙汰ではなかった。
影山は話の流れでついてくることになったが、彼はどちらかと言えば「自走派」なので、このような牽引道具ありきの遊びなどは過去にしたことがなかったのだ。
影山「想像はしてたけど、怖えぇよ!怖えぇよ!」
そりゃ100メートルもの高さの崖に吊り下がっているランクル70のテールゲートの上にいるのだから、いくら命綱を引っ掛けているとしても恐怖はハンパなかった。
クルマを単に崖の下まで下ろすだけではなく、ここから敵の本陣に単騎で襲撃を仕掛けるのだから武器や発電機や水のタンクなども満載されているため、総重量は軽く2.5トンにも達するのだが、それをワイヤー2本で吊り下げ、しかも足場が不安なテールゲートの上でガチャガチャと重いレバーを操作するので中々タイヘンなのであった。
下ろし始めて1時間ほど経った時点で、クルマの先端がやっと地面に到達しそうになった。
だが、まだここからまた一工夫が必要となってくる。
このまま下がるとクルマが地面に垂直に倒立するので、クルマの前輪側を上向きに持ち上げないといけないのだ。
そこで、タイヤの下に長さ2メートルほどの足場(軍用サンドラダー)を地面と崖の間に斜めに挟み込んで、タイヤをその足場の上に乗せて、ゆっくりとクルマの姿勢を変えていくのだ。
この作業も慣れないとタイヤがサンドラダーの上に乗らずに失敗するし、一度失敗すると人力でクルマを再度持ち上げねばならないので、慎重に作業する必要があるのだ。
秀明などはこれらの作業を全て一人で行うことに拘りを持つ「個人商店方式」でこれまで遊んできたわけなのだが、これらをもし一人でしようとするのであれば、恐ろしく手間のかかる作業を一人ですることになっていた訳だ。
崖を降っている最中は完全に無防備になるので出来るだけ迅速にしなければならない。
そこで比呂に「ゲルラッハ」と名付けた軍用ドローンを使って周囲に敵が来ていないかを定期的に見張ってもらっていた。
また、今回は遊びではないので普段のこだわりは捨てて、影山に手を貸してもらっていたのだ。
幸いなことに、車を崖の下まで下ろす作業は無事終わった。
クルマの後部に取り付けられていたチルホールを外す作業は影山に任せている間に秀明は事前に抜いていたエンジンオイルを継ぎ足した。
二人は崖と地面の間に45度の角度で立て掛けていた足場用のジュラルミン製の軍用サンドラダーはランクル70の運転席と助手席の真上に縦に2本、取り付けた。
これは敵に突っ込む最悪に、頭上から降り注いで来る可能性のある石や矢などを防ぐ為だ。
全ての準備が整い、二人はそれぞれの席に乗り込むと、助手席の影山は普通に3点式シートベルトを、運転席の秀明は四点式シートベルトの肩のベルトは付けず、腰の周りだけを固定してエンジンを始動させた。
クルマを垂直に長時間立てたとき、心配しなければならないのがエンジンオイル以外にも実はもう一つあり、それはバッテリー液であった。
だが、秀明は普段からこういうことをすることを想定していたので液漏れは絶対にしない密閉型のバッテリーを積んでいたのだ。
改めていうのだが、秀明のランクル70は運転席と助手席のドアを最初から外していた。
そこで、二人とも日本刀の鞘をクルマの外側、フロントフェンダー辺りにガムテープで固定して、座った状態からでも身を乗り出すことですぐ抜けるようにしていた。
今回からは助手席の影山がインパルス消火銃を使い、運転席の秀明はスナイパーライフルを使用することにしていた。
スナイパーライフルは、運転席のすぐ右にあるロールバーにホルダーを取り付けているので、使う際には座ったままの状態ですぐ取り出すことが出来るのだ。
また、後方の荷台には例の「秘密兵器」を入れたコンテナボックスと、火炎瓶が12本載せられていた。
これらは影山が使うことになる。
二人はそれぞれ手持ちの武器のエア圧の確認や、残弾の確認などを終えると、
秀明「ほんじゃあ行くぞ、ビビって俺のクルマにお漏らしするんじゃねぇぞ」
影山「お前こそちゃんと大人用オムツ着けてきたのか?着けてないなら今からでも遅くないから比呂君にドローンで届けてもらうか?」
などと軽口を叩き合いながら、敵軍の本陣に向けて走り出すのであった。
この様子は比呂がドローンのカメラ越しにハラハラしながら観察していた。
秀明「ヒロ、こちらは準備が出来た、これから敵本陣に向かう。
前線の様子と敵陣の様子をそれぞれ教えてくれ」
比呂「よくこんな短時間にあの崖を下らせれたな。
ハラハラして見てたわ。
えっと、兄貴の所は敵の攻撃が始まってるよ。
今のところまだ遠距離攻撃だけみたいだけど、投石機やバリスタの攻撃がなかなか凄いみたい。
敵の前衛はまだ関所跡にまでは到達していないみたい。
で、敵の本陣はさっき見た時点では少数の守備兵士を除いて出払っている。
敵の食料貯蔵庫はおそらく敵の本陣の後方に多数配置されている荷車だと思う。
親父達はその荷車を襲撃して焼き討ちして欲しい。
溝や柵などは見当たらないので障害物はないはずだわ」
秀明「了解、襲撃は控えていた方がいいみたいだな。
雅彦が敵を林道の奥に引き込むまで、しばらく待機しておくぞ」
比呂「ああ、そうして」
秀明「…ということらしいわ。
一応、この崖から帰る段取りを説明しとくわ」
影山「帰りは電動ウインチ使うんだろ?
もうチルホールは当分コリゴリだぞ。
戦う前から腕がパンパンになっちまったわ」
秀明「へっぴり腰でレバー操作するからだよ。
チルは腰で牽くんだよ腰で」
影山「オレはお前らみたいな野蛮人じゃない文明人だから、チルホールなんかで何トンもあるクルマを牽こうなんて思わないの」
秀明「よく言いますわー。
パワステもパワーアシストもエアコンも無いジープに普段乗られている影山様が、文化人だとか文明人だとかよく言いましたわね」
影山「まぁ、それはいいわ。
で、登りは電動ウインチ使うんだよな?」
秀明「あぁ、時間に余裕があればまたエンジンオイル抜いてエンジン止めたままで登らせるが、時間があまり無い場合はしばらくはエンジン掛けたままで登らせるぞ、ヤバくなり始めたらエンジンを止めて、発電機を回してそちらで登らせるわ」
影山「そりゃ、なんでだ?」
秀明「ポータブル発電機の発電量ではこの電動モーターをフルで動かすには少し足りないんだよ。
だから行けるとこまではクルマのオルタネータの発電で登らせる。
まぁ数分程度なら大丈夫よ、10メーターは登れるわ」
影山「でもそこから先は登る速度が落ちるってことは、ここで敵に襲われたらヤバいんじゃないの?」
秀明「そういうこと。
だから基本的には敵中を突破して林道から帰りたいわけよ。
これは雅彦や比呂には言わなかったがな」
影山「やっぱりな、そんなことだろうと思ったぜ。
敵の後方を撹乱させて敵を撤退させるというのは確実性が少し劣るからな。
やるなら徹底して敵を叩かないと敵が逃げ出したりしないだろうよ」
秀明「まぁ、最初はちゃんと敵の食料を焼き討ちするけどな。
その上で敵の背後から襲いかかって大混乱に陥れないとダメだろうよ。
だけど、この車はご存知の通り、紙装甲なんで、敵の攻撃を受けるのはかなりマズい。
雅彦のクルマみたいに突撃するなんてもってのほかだわ。
そこで、徹底したアウトレンジ作戦で行く。
我らの最大の敵は敵の騎馬兵だ。
これを可能な限り叩く。
重装槍騎兵であればアウトレンジからインパルスやライフルで叩いていくが、軽装弓矢騎兵であれば一気に距離感を詰めて接近戦するぞ。
使うのはインパルスとコレだ」
秀明は手を伸ばして日本刀を鞘から抜いて影山に見せるのであった。
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