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無防備

雅彦は林道の出口付近に設置した空掘や鉄条網で構築した防衛ラインを撤去する作業を始めた。


まず、林道内に置いていたトレーラーハウスやテントなどは村の前にある広場まで移動させた。


これで林道内には大型の透明なライオットシールドや一輪車(ねこぐるま)に取り付けた大型の盾や手持ちのラウンドシールドで防御を固めた50人の傭兵隊と、ランクル73、ユンボを残すのみとなった。


また彼らには金属パイプで作られた長槍とクロスボウやアーチェリー、和弓など以前からあった装備も引き継がれていた。


比呂たちの急ピッチのアンテナの設置作業の甲斐もあって、林道の出口でもインターネットが接続可能になったので、自動翻訳機を使いながら傭兵隊とも会話出来るようになった。


彼らに有刺鉄線を立つ杭から外させて軽トラに運び込ませて、橋や付近まで持って帰らせる作業を比呂たちに任せつつ、雅彦はユンボで三重に掘った空掘を一部埋め戻して人や馬などが通れるスペースを設けた。


また、地面に這わせていた鉄製のワイヤーロープも取り込んで、林道の内部で再使用するよう設置させた。


これは例の敵を感電させるトラップである。


ドイツ語に翻訳することが容易になったことで、雅彦は傭兵部隊の面々に大工作業もいろいろと指示を飛ばした。


見張りに使っていた林道の出口の横の崖の上に持ち上げていた水のタンクやスピーカーやアンプなども撤去され、後方に移設されていた。


こうして、2日も経ったころには敵側から見て、林道の入り口は無防備と思われる状態になっていた。


………………………………


遥か離れた所から偵察に向かった部隊からドラゴニア第二大隊第七中隊の隊長の処に報告がもたらされた。


その報告では「村へと続く林道の入り口付近に設置されていた堀や鉄のイバラ(鉄条網のこと)は撤去され、一見無防備の様に見えます」とのことだった。


第七中隊の隊長はこの数日間というもの、付近の森から大量の木を切り出し、大型のクロスボウであるバリスタと投石機カタパルトの製作に没頭していた。


ドラゴニアは元々、放牧騎馬民族がルーツであったため攻城戦は苦手としていたのだが、今の国土を得る征服戦争をしていく過程で敵となっていた国や勢力から、あらゆる優れた技術や戦術などを吸収していた。


現在、ドラゴニアが得意としている事に「大型攻城兵器を現地で作り上げる能力」があった。


ドラゴニアは一般兵の他に多数の奴隷を連れて行軍するという事は以前にも書いたが、その奴隷の中には木工の技術者も多く含まれていて、今回からみたいに現地で木を切り出すことからはじまって、加工し、バリスタやカタパルトや破城槌などを作り上げる技術を持つ者が多く存在していた。


第七中隊の隊長は、これまでの闘いで「この敵は接近して戦うのではなく、ひたすら遠距離からの攻撃に切り替えた方が良い」という結論に至っていたのだ。


隊長と副長などが考え出した戦術はこうだ。


林道の入り口に陣取る鉄製の柵が付いた戦車(チャリオット)(ランクル73のこと)は100エル(約50メートル)離れた処から投石機の集中投石で粉砕し、出てきた敵兵は盾ごと粉砕可能な大型のバリスタによる射撃で討ち取り、柵などが設置されている場合は屋根付きの破城槌で破壊する。


溝が掘られている場合は、大楯と長槍を構えた兵士を並べて敵の攻撃を防ぎながら、以前切り出していた大量の丸太で溝に橋をかける。


橋を掛けたら重装騎馬兵による突撃で勝負を決める、というものであった。


今回のスピスカ=ノヴァ=ベスの攻略戦は千人規模の中隊だけで十分攻略出来るだろうと考えられていた為、本隊が持つ攻城兵器やバリスタなどは持って来ていなかったのだが、わずか7日間程度の時間で、バリスタは10機、投石器は5機 作製することが出来た。


また、三角屋根を持つ大型の破城槌も1機は完成させることが出来たのであった。


中隊長「ふっふっふ、我がドラゴニアの技術は世界一だ。

この短期間にこのような最強の攻城兵器を現地で作り上げることが出来るのは我々を除いて他にないであろう。

村に巣食う『神』を僭称(せんしょう)する奴らも我々の本気の怒りを今回こそは思い知ることになるだろう!!」


副長「その通りで御座います。

今回は先頭で押し進める破城槌も敵の『燃える水』への対策として、屋根にテントで使用している船体布と毛布を敷き詰め、それに大量の水を染み込ませる事で燃え上がることを防いでおります。

今回こそは、敵の防衛線を突破することになるでしょう」


中隊長「バリスタや投石機の弾はどのくらい用意出来たのか?」


副長「バリスタの矢は急遽作った物ですので鉄の矢尻は付いてませんが、それでも人の持つ盾程度なら粉砕させるチカラがあります。

こちらは木の杭の形をした矢を現時点で500本程度用意しました。


投石機の弾ですが、これは河原の岩などを集めている最中ですが、大小合わせると千個近くあると思います。


バリスタと投石機でひたすら遠隔攻撃すれば、今回の敵の防衛ラインの崩壊は確実でしょう」


中隊長「ほう、そうか。

バリスタ用の矢の生産を急がせよ。

千本に達した時点で攻撃を開始するぞ!


今日は女だけの村を奪い取る前祝いだ!


特別に兵士には酒を支給するので、攻撃に向けて士気を高めさせておけ!」


副長「分かりました、ではその指示を届けてまいります」


副長はテントから出て、周囲に人がいないことを確認して、大きくため息をついた。


「相変わらず能天気なもんだよな、あれで中隊長が務まるんだから笑えるよな。


奴隷たちには大急ぎでバリスタとかを作らせたが、問題は兵士たちの士気の低さよな。

謎の雷撃攻撃や、燃える水による攻撃、鉄で出来ていると噂されているイバラによる柵、涙が止まらなくなる霧、それから辺り一帯に響き渡る悪魔の呪文(般若心経のこと)。


前線に出てこれらの謎の攻撃を受けた兵士の多くは士気がダダ下がりでまともに戦えないとはな。


酒でも飲ませて無理矢理にでも士気を上げさせないと戦闘の継続は確かに困難だな」


副長は各部隊の隊長が泊まるテントを一つ一つ訪れて、酒を特別に振る舞うという話をしていった。


早くもあちらの方で歓声が上がっている部隊もある。


副長は中隊長からの指示を全て下士官に伝えた後に、陣地付近にまで持って来られたバリスタと投石機を見て、さらに村へ続く林道の入り口が見える場所まで歩いていった。


すでに辺りは暗くなり、急激に冷え込み始めていた。


これはドラゴニア東部やビスマルク王国付近に共通して言えることなのだが、この時期は晴れることが多く、雨が降ることは稀であった。


昼前はそこそこ暖かくて過ごし易いのだが、日が陰ると急激に冷え込むのだ。


以前までここから見えていた、鉄の柵が取り付けられていた鉄の戦車は姿を消して、更に溝を埋め、鉄のイバラも撤去しているというではないか。


また、昨日まで辺り一帯に響き渡っていた不気味な呪文も久々に止んで辺りは我が軍の宴会の音に包まれている。


まるで、我らに攻めてこいと言わんばかりの敵の動きではないか。


見張りの話では、敵は真夜中に不気味な音を立てて動く怪物か何かが、溝を埋める作業を行なっていたと言う。


もし、敵に我が国が大量に所有しているゴーレムなどのモンスターを使役している者がいるとするなら、これは大問題だ。


だが、もし敵にそのようなモンスターがいたとしても、投石機とバリスタの集中攻撃で撃退出来るであろう。


涙が止まらなくなる霧への対策も顔全体を布で覆い、霧が直接顔に付着しないよう対策をした。


あと30日もしたらここら辺も本格的な冬が到来してしまう。


敵が防衛に必要な溝や鉄のイバラなどを撤去したのはおそらく罠だが、攻め込まないという手はない。


森を大きく迂回して攻撃をする別働隊も何度も跳ね返されているが、そちらに向けた攻撃も辞めさせてこちらの林道への攻撃へ一本化する必要がある。


「なぁに、敵が罠を張っているのなら、食い破ってやればいい。


敵が柵などで守りを固めようとするなら、遠距離から木の杭と岩の雨を降らしてやれば良い。


ゴーレムが居たとしても同様だ。


敵が『燃える水』を使ったとしてもこちらの破城槌を燃やす前に火を消し止めてしまえばよい、その備えはさせておいた。


目の見えなくなる霧を使ったとしてもカンタンには霧が目に入らない工夫はしたし、何よりそういう場合には奴隷どもに盾を持たせて突っ込ませてやればいい。


代わりはいくらでもあるんだ。


奴らを犠牲にして、正規軍を突っ込ませてやればいい。


仮に敵が南側の崖から降りてきて別働隊が我々の裏をとって攻撃してきたとしても、馬をあの崖を降ろすのは考えられないし、ましてやあの鉄の荷車が降ろせるとは思えない。


見たところ200エル(約100メートル)もの高さのある岩の崖はそんなに生易しいシロモノではなかった。


仮にあの崖を降りてきた敵の別働隊が我々の裏を取ろうとして来たとしても、我々には多数の騎馬兵がいるので敵が歩兵なら撃退は容易いであろう。


どうせ敵を最後に食い破るのは重装騎馬兵の役目なので、彼らは最後まで後方にて待機することになる。


もし敵が後ろから回り込んできたとしても彼らに迎撃させればいい」


副長はニヤっと笑い、今回の攻勢が成功すると確信するのだった。



…………………………


その頃、林道の出口の崖の裏側では、敵から見えない位置にランクル73を置き、その周囲には傭兵隊のうち特に体格の良い面々を厳選して彼らに重装備を施して配置していた。


残りの約半数は、以前 村の女の子たちで編成していた弓隊が陣取っていたポイントに頑丈な柵や盾を並べさせてその裏側に配置させた。


崖の上には傭兵隊のレベッカが上がり、敵の動きを監視していた。


雅彦はランクル73の運転席に座り、後部座席にはイングリットとヴィルマが座って待機していた。


雅彦は敵から見えない場所で焚き火を数ヶ所起こさせて、半数ずつ交替で休息と睡眠と食事をとらせながら待機させていた。


ヴィルマとイングリットは同じ毛布に包まり後部座席で寝ていた。


雅彦は運転席で毛布に包まっていたが、クルマのすぐ隣では地面に座った傭兵隊の隊長のゲルハルトやヴォルフラムなども毛布に包まって待機していた。


ゲルハルト「我が主人(あるじ)、主人の父親が一人で敵の背後から襲撃を仕掛けると聞きましたが、大丈夫なのですか?もし良ければ我々のうち数名をそちらに加えても良かったのですが?」


雅彦「あぁ、その件なら問題ない。

親父のクルマにはもう一人、日本人が乗りこむことになった。

俺は一応、反対したんだけどな?(笑)

もう一人の日本人ってのは親父の古くからのライバルで、あの人たちはもう45年以上も競い合っていたらしいんだよ。

昔は『剣』で、今は『クルマ』でな」


ゲルハルト「ということは彼らは二人とも優秀な剣士という事ですか?」


雅彦「あぁ、そうなるかな。

親父は以前のドラゴニアの襲撃で敵の重装備の騎馬兵を3人、刀で瞬殺してるしな。


もう一人の日本人は『影山さん』と言うんだが、彼がどの位、強い剣士なのか俺は知らない。


ただ、あの2人は昔からほぼ同じ強さだったと親父なんかはいつも苦々しく言ってたので、恐らくは恐ろしく強いんだろうな」


ゲルハルト「主人(あるじ)の父上が強い剣士だというのは意外ですな。

そういえば父上はいつも腰に剣を差していましたね。

機会があれば一度手合わせ願いたいもんですね」


雅彦「剣の強さだけで言うと、ゲルハルトたちが最初に村に来た時、親父と一緒に居た日本人がいたろ?

あれは親父の弟で俺の叔父さんにあたる人なんだけど、あの人の方が遥かに強かったらしいで。

まぁ、叔父さんがこちらの世界に来て、日本刀を持って戦いに参加するとは思えないけどな」


ゲルハルト「強い剣士二人がこの鉄の荷車に乗って敵を背後から急襲するのですか。

ところで、これはどのようにして動いているのですか?

馬も無いのに何故動けるのか不思議でしょうがないですね」


雅彦「これは『クルマ』と呼ばれているもので、石油と呼ばれている火を付けると燃える水を動力にして動いている。

多くの日本人はクルマを持っていて乗れるんだが、このクルマや親父のクルマは操作が少し難しいな。

日本人でも操れるのは本当に極々一部しかいない。

もう少し操作が簡単なクルマがあるんでそれをこちらの世界にも持ち込もうと思ってるんだけどな。


まぁ、この戦いが終わってからだな」


雅彦は相変わらず綺麗な星空を見上げてそう言うのであった。

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