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俺も連れてけ

敵を効率よく撃滅させるには林道みたいな狭く大軍が威力を発揮しにくい地形に敵を誘い込み、出口を塞ぎつつ、側方から攻めるのが定番(セオリー)となっている。


で、ここで問題となっているのは、「誰を迂回させて敵の後方を塞ぐ任務に就かせるか?」であった。


これについては実は以前、比呂がアイアンバール作戦として立案していた作戦があった。


だが、そのアイアンバール作戦とは、どちらかというと「敵の後方を混乱させる」ことや「敵の食料庫や司令官をピンポイントで狙い、敵の継戦能力を失わせる」為のもので、今回みたいに敵の後方から襲って撃滅させるような物ではなかった。


比呂「えっと、まず兄貴は後方へ迂回する攻撃隊からは外れてもらうぞ」


雅彦「は?なんでだ?

こういう派手な作戦こそ、俺の出番だろ?!」


雅彦はガタッと椅子を蹴りながら立ち上がって比呂に向かってそう言った。


比呂「いや、兄貴には傭兵隊を率いて撤退戦の指揮を執ってるもらわないといけないわ。


今のところ、あの傭兵隊は兄貴にのみ忠誠を誓ってるんだろ?


兄貴が抜けたとき、誰が前線で彼らを指揮するのさ?」


雅彦「ぐぬぬぬぬぬぬ…」


雅彦はわざとらしく歯ぎしりを立ててみせた。


雅彦「ほんじゃ、誰がアイアンバール作戦を実行するんだ?

あれはヒロも言ってたけど、かなりのリスクを伴う作戦なんだろ?」


比呂「あぁ、だからこそ適任者は一人しか居ないんだわ…」


秀明「まぁ、当然オレってことになるな。


四駆の扱いに長けていて、『例の技』も使えて、日本刀まで扱えるとなるとオレってことになるよな」


比呂「ああ、くれぐれも慎重にやってくれよ。


親父には敵の後方にランクル70で回り込んで後方を撹乱させてくれれば良いだけなんだからな」


秀明「あぁ、分かった。

で、今回はオレ一人で行くぞ」


雅彦「は?!いや待てよ、それはあまりにも危険だろ?

マルレーネでも傭兵の一人でもいいので誰か連れて行けよ?」


秀明「いや、言葉の通じない人を連れて行っても足手まといにしかならないわ。


それにオレはいつも言ってるだろ。

『クロカンはいつも独りでやるものだ』って。


その代わり、装備を整えるのに準備が必要なんで2日ほど時間をくれ。


下見や道具の整備とかもしときたいからな」


比呂「あぁ、分かった。どっちみち空堀を埋めたり鉄条網を撤去する必要があるからな。


兄貴、その作業の指揮はお願いするわ、俺は明日中にネット環境を整えさせるから」


雅彦「親父の件は納得いかないけど、今は人手が足りないからやるしかないかな。


わかった、こちらはこちらで徹底的にやるわ。


ヒロ、ほんじゃあ具体的な作戦を説明してくれ」


比呂は持ってきた手持ちのラップトップをテーブルの上に置き、彼らに具体的な作戦を説明し始めるのであった。


…………………………


日本に帰っていた影山だが、彼には異世界(ミッテレルネ)での医療体制の確立を秀明に任されていた。


影山は秀明が注文していた大型のトレーラーハウスを実は譲り受けていて、ソレを即席の移動病院にする計画を立てていたのだった。


とりあえず、影山は自分の医院から誰を異世界側に送り込むかで悩んでいた。


今回、小畑(秀明)が影山に持ち込んで来た話は、彼の医院にとって非常に大きなビジネルチャンスであった。


秀明は今のところ、国に異世界側の管理を任せるつもりはないと言っていたので、後からやってきた国に後押しされた病院とかが、影山の病院を異世界から追い出すということは起こらないと思われる。


だが、それも情報が他所に漏れないことが大前提なので、異世界側に送り込むスタッフの選定は慎重に進められていたのだった。


秀明はいっそのこと、川北グループに影山の処も加わり、新会社を創設しないか?と声をかけていた。


そうなればその新会社には我々から経理の人間を送り込まなくて済むので、早急に医療体制だけを整えることが出来そうだ。


秀明の話で初めて知ったのだが、川北グループって言うのは戦前から軍需産業として国を支えていた会社が多いこともあって、「この手」の機密情報に対する扱いに長けた会社がほとんどだった。


今のところ秀明の異世界進出に手を貸してくれているという川北マテリアルや川北電機などはこれらの筆頭格である。


影山の処に声がかけられたのは、たまたま川北グループの中に医療機関が含まれていなかったからだ。


川北グループの中に組み込まれるということは、影山にとって大きなビジネスチャンスであった。


なぜなら、川北グループの一員となることで特殊な情報を得やすくなるわけだし、資金的な援助も期待出来る。


また、何より川北グループの一員としての社会的地位や人脈の構築など、夢のような好条件の話が向こうから舞い込んできたのはラッキーだった。


実際、新会社の設立と医療設備の準備で数億円は資金援助が約束されている。


昨日まで秀明との付き合いがこんなチャンスに結び付くなど全く考えていなかったが、欲が無いときはこういう事も起こるんだねぇとつくづく思う影山であった。


影山は彼の医院から有能な医師と看護婦をそれぞれ一人ずつ選ぶことにして、それを選定するまでは医院の備品などから、ひとまず応急処置や簡単な外科手術が出来る最低限の物を選んで秀明から貰ったトレーラーハウスに運び込んだ。


医院のスタッフたちには「この度、我々の医院から別会社が独立することになった。その会社は川北グループの一員として活動することになったのだが、トレーラーハウスを改造した移動診療所として当面活動することになる。ひとまずは私のみがそちらに行くことになるので、当医院は副院長に運営を任せようと思います。将来的にはこの医院からそちらの会社に希望者を派遣、若しくは移籍者を募集しようと思うので、興味のある方は詳しくは副院長に聞いて下さい」と伝えておいた。


影山は副院長だけには「川北グループが主体となった極秘プロジェクトに参加することになった。軍事機密に関わる事なので守秘義務が課せられる事になるので詳しく言えないが、医薬品や医療機器の仕入れなどは当面、こちらの医院を介して行おうと思っているので協力してくれ」と伝えておいた。


普段、暇そうにしている院長が急に張り切りだしたので院内は「どうしたんだろう?」「新事業って何する気なんだろう?」「軍事機密って自衛隊の活動に関わること?」という噂が飛び交ったのだが、副院長から「守秘義務が課せられている話なので詳しくは言えない」とクギを刺されることになり、噂話は一気に沈静化することになる。


噂をするにしてもネタの供給が少ないと話しが続かなくなるし、情報を拡散した者は退職させられるとなると、皆の口にチャックが閉まるのも時間の問題だったわけだ。


とりあえずスタッフの中では「口外するとヤバい話」というイメージが定着していくことになる。


当面の医療行為が最低限出来る程度の医療器具と医薬品を医院から分けてもらった影山はそれらを秀明の鉱山に持ち出し、またクスリなども仕入れ元から継続して秀明の鉱山の事務所の方に送る段取りをつけて秀明の鉱山へと向かっていた。


先日はカンタンな説明と見学だけさせてもらったので、今回の訪問はトレーラーハウスの設置場所や、異世界(ミッテレルネ)での影山の宿泊先を決める事などが目的であった。


影山は川北一族ではないので、単独で異世界に行けないので秀明達に迎えに来てもらう様に言っていたため、鉱山に着くと秀明が迎えに来てくれていた。


秀明「来て早々に悪いんだが、アチラでは本格的戦闘が起こりつつあるんで最悪、日本に避難してもらうことになるかもしれんが、ええか?」


影山「は?敵が攻めて来たのか?」


秀明「いや、こちらから攻撃を仕掛けようと思っているんだ」


影山「どういうことだ?とりあえず向こうに行って話は聞くわ」


秀明「あちらは紛争地だぜ?ヤバいかもよ?」


影山「今さらそんなこと言うか?とりあえず行くぞ」


秀明は逆に影山から引っ張られるように、彼のジープでミッテレルネへ向かった。


丘の上に着くと、明らかに緊迫した雰囲気が村や丘の下の広場などには流れていた。


前線付近に置かれていたトレーラーハウスなどは丘の上に戻されていたり、村の中に入れられていた4トントラックなども丘の上に上げられていた。


秀明はここで、ナナマルに乗り、二台に分乗して村の中へと向かった。


影山「詳しく状況を聞こうか」


秀明「簡単に言うと、敵に動きがあり、このままでは村の北の森を全て伐採される可能性が出てきた。


既にかなりの面積の森が切り倒されたそうだ。


放置しておくと、森の中での迎撃が困難になり、今の人員と戦力では敵を防ぎ切れないという結論に至った。


そこで、林道の入り口を塞いでいる空掘や鉄条網を一時撤去して、敵をそこの橋まで引き入れ、さらに後方に回り込んで敵を撹乱して入り込んだ敵を一気に殲滅することにしたんだ」


影山「そりゃまた派手な作戦を考えたもんだな。これもオタクのとこの次男の案か?」


秀明「そうだ。比呂の案だな。


で、俺は単独で後方に回り込んで撹乱する役目をしないといけないから、しばらく村の中で準備作業をする。


村の中で下見とかするのであればエマさんに話しをしとくんで通訳とか打ち合わせもしてくれればいい。


作戦決行はこちらの時間で明日の早朝なんで、夜には日本に帰った方がいいぞ」


影山「おいおい、敵を引き込むとか正気の沙汰か?大体、そんな戦力、こっちにないだろ?」


秀明「あ、そうか。影山は知らなかったんだな。


先日、森の中での戦闘でマルレーネたちに降伏した敵の傭兵隊50人が雅彦の配下になったんだよ。


三名ほど太ももに矢傷を負ってるから後で診てやってくれ。


林道を塞ぎつつ、撤退しながら敵を罠に嵌る役は雅彦率いる傭兵部隊50人と奴のランクル73に任せてある。


比呂は後方で待機かつ全体の指揮とドローンによる偵察。


俺は村の南の崖を降りて、敵の後方へランクル70で回り込んで敵の兵站を攻撃する、もしくは敵の前衛部隊の後方から攻撃を仕掛けて敵を撹乱する役目をするつもりだわ」


影山「ふーん、面白そうなこと考えてたんだな。


それにしても傭兵隊を吸収した?いきなり50人もか?


大丈夫か、それ?」


秀明「雅彦が上手いことやったみたいだな。


あっという間に歴戦のバイキング達を心酔させたみたいだぞ」


影山「バイキング?傭兵隊っバイキングなんか?」


秀明「見た目がバイキングって言うだけで、元は北方諸国出身の二世とか三世とか言ってたかな?


案外、北方諸国っていうのはスエーデンやノルウェー辺りから流れてきた人の末裔なんかもな」


村の中に着いた二人は村の広場にクルマを置き、エマ達がいる教会へと歩いて向かった。


教会の中に入った秀明は、すっかり作戦司令室みたいになっている元応接室にいるエマを見つけ、影山の下見や彼のこちらでの宿泊先を案内してやってくれと頼んだ。


エマ「分かりました。


宿泊先はひとまず宿屋にしてはいかがでしょう?


あそこでしたら部屋はそのまま使えますし、寝具だけはニホンから持ち込んだ物で新調していますし、食事はすぐ下でとれるので便利だと思いますよ」


秀明「では、エマさんそれでお願いします。


影山もそれでいいよな?」


影山「ああ、それでいいよ、どうせこちらに移住するならそのうちちゃんとした家に住みたいし、それは戦いを終わらせてからゆっくりやればいいやろ。


それから小畑(秀明)、その迂回攻撃とやらに俺を連れてけよ」


影山は、腰に差していた日本刀を秀明に見せ、ニヤリと笑うのであった。



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