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胃袋を掴まれた傭兵隊と和解した兄弟

秀明と実の弟で建築業を営んでいる小畑秀二がミッテレルネにやって来た正にその時、丘の下にある拓けた場所で、雅彦と傭兵隊が契約を済ませた直後であった。


彼らは畑の横で集まっていたわけだが、丘の上から駆け降りてきたのは、白のランクル80であった。


雅彦は今日、叔父さんにあたる秀二がこちらの世界に来るとは聞いてなかったので、ランクル80の助手席からスーツ姿の秀二が出てきたのを見て驚いていた。


それ以上に驚いて口をパクパクいわせていたのは秀二であったが、更にそれ以上に驚いていたのはその場にたまたま居合わせた傭兵たちであった。


エマやヴィルマたちは「あ、変なクルマとニホンジンが一人増えた」という感じであったのだが。



秀明はエマに秀二を紹介した。


秀明「エマさん、彼は僕の弟で建築業をしている秀二と言います」


エマ「はじめまして、こちらの村の村長をしていますエマと申します、よろしくお願いします」


秀二は自動翻訳機から流れてくる日本語に関心しながら、あたふたしながらエマに手を差し出しながら「小畑秀二と言います、よろしくお願いします」と返して握手をした。


ちなみにこの世界でも握手はあるのだが、女性とは基本的にしないようでエマも多少あたふたしていた。



秀二は少し離れた処に、見るからに「これはヴァイキング映画か何かのエキストラか何かですか?」と思ってしまうくらいホンモノそっくりの格好をした集団の中に迷彩服で完全武装をした甥っ子の雅彦が紛れ込んでいるのを見つけた。


秀二は平均身長の秀明と違い、180センチ超えの日本人としてはかなり良い体格なのだが、あちらの集団は自分が入るとどちらかというと低いくらいになりそうなくらい見事な巨漢揃いであった。


実際、傭兵隊長のゲルハルトは190センチ、副長のヴォルフラムに至っては2メーター超えの巨人であったので、秀二は思わず「巨人族か?」と思ってしまった。


まあ、この傭兵隊には数名、女性もいたのだが、彼女たちも雅彦くらいの身長があるので、秀二より少し身長が低い程度な人も混じってはいるのだが。


雅彦は翻訳機で傭兵隊のメンバーに、今来たのは雅彦の叔父さんだということをゲルハルトに説明していたが、秀二の方に走り寄ってきて「秀二さん、久しぶりです!」と声をかけてきた。


秀二「おう、雅彦か!元気してたか?それにしても、まあ、なんだか分からないが、この世界は何だ?

この綺麗な女性たちもビックリするが、あのヴァイキングたちは何者だ?」


雅彦「あれは今味方になった元敵国の傭兵隊『茶色の戦斧』だよ。

ここは『ミッテレルネ』と呼ばれている異世界で、そこの壁の向こうにある村がスピスカ=ノヴァという名前の村です。

で、彼女がここの村長のエマさん」


秀二「うむ、それは分かったけど、お前さんなんでショットガンなんて背負ってるの?サバイバルゲームとかしてたわけ?」


雅彦「いや、彼らとはさっきまでは敵同士で実際に戦争してたんよ。

だからコレも実銃だよ」


そう言われればヴァイキング集団の中には怪我をした面々も多く含まれていた。


それにその集団の横にいる迷彩服に身を包んだ女性は弓などで武装していた。


秀二「戦争しているとか大丈夫なんか?彼らは見るからに凶暴そうだけどヤバくないんか?」


雅彦「彼らは今、俺の部下になったばかりだけど確かに歴戦を潜り抜けてきた勇敢な兵士達だね。

この国のお隣にドラゴニアという巨大な軍事独裁国家があるんだけど、ソコがうちらの村に侵攻して来ているわけ。

で、僕らが敵の侵攻軍を撃退している最中なわけさ」


村の中から、出撃せずに残っていた女性の子供たちがわらわらと出てきて、食事の準備を始めた。


彼女達は普段から秀明たちが日本から持ち込んできていたキャンプ道具や調理器具を使い、村での食事の用意をしているので、今回も手際良く荷物や食材を運んできて食事の用意を始めたのだ。


これだけの人数が揃うと椅子などが足りなくなるので、椅子は秀明と秀二だけ用意して、あとは円座で芝生になっている広場にそのまま座り、そこで食事をすることになった。


日替わりメニューの一つである豚汁が大量に運び込まれてきて、全員に振る舞われたのと、円座の中心に運び込まれてきたバーベキューコンロに例の秀明の秘密兵器である「どらごんすれいやー」と名付けられた剣の形をした巨大な鉄板などを使って、焼肉が用意されたのだった。


最初は大人しく座って食べていた傭兵やマルレーネたち特殊部隊の面々たちも鉄板の周囲に集まって、わいわいと楽しそうに肉の奪い合いを始めたのだった。


雅彦「やっぱり、バーベキューや美味い食い物に国境はないよね」

これは比呂が発案していた傭兵団の懐柔策の一つで、傭兵隊を口説き落としていた雅彦の演説内容も大半は比呂が事前に書いていたシナリオであった。


雅彦がかなりアドリブで変えてしまっていたが、結果的には傭兵隊はこのようにして胃袋を日本人たちに掴まれてしまうのであった。



秀明「こちらの世界には、もう影山も来てるんだぜ。

奴には医療面でこの世界をサポートしてもらうことになってるんだわ」


そう言いながら秀明はランクル80の後部座席に載せていた日本刀を取り出して秀二に渡した。


秀明「雅彦が言った通り、この世界では戦争の真っ只中でな。

多少物騒だからこちらに居るときは、日本刀を持ち歩いとけよ」


秀二「そういや兄貴も親父からもらった日本刀を持ってるんよな。

青江定次だっけ?

これはどんな刀なんだ?」


秀明「それは昭和に打たれた新刀だけど、実用刀としては申し分ないと思うぞ。

まだ人は斬ったことはないけどな。

こっちで手伝ってくれるんなら、それは進呈するぞ」


秀二「マジか?!でもこれ結構、高かったんだろ?

拵え(こしらえ)も結構、ちゃんとした刀じゃないか」


秀明「まあ、無銘に近いから価値としてはそんなに高くはないかな。確か50万程度だったと思うわ。

コレに比べたら、やっぱり見劣りするかな」


秀明は手に持っていた青江定次を抜き、秀二に見せた。


秀二「まぁ、俺は親父から遺産としては今住んでいる家をもらったから贅沢はいえないけど、家よりコレが欲しかったんよな。

やっぱりこの刀は存在感が段違いだよな」


秀明「あぁ、我が一族の護り刀だからな。

ところで、鉱山とこの世界がなぜ繋がっているのか不思議に思わないのか?」


秀二「ああ!そうだった!

戦争してるとか、巨人族とか、こちらの綺麗な女性たちに目を奪われて忘れてたけど、なんでこんな超常現象が起きてるんだ?

何かの極秘プロジェクトとか言ってたけど、日本はこんな技術でも開発したんか?」


秀明「いや、科学的に繋げた訳ではないんだわ。

最初にあの道を見つけたのは雅彦で全くの偶然なんだよ。

ちなみにあの道を自由に通れるのは我々小畑一族…というか本家筋の川北一族に限られているみたいなんだよな。

だから秀二もおそらく日本とこことを自由に行き来できるハズだ。

この村は以前、今戦争しているドラゴニアの侵略を受けていて、村の成人男性が皆、殺されているんだよ。

で、俺らがこちらにやって来ていたときに再度攻めて来たので撃退して今に至っているわけさ。

今回は奴らは千人規模の軍隊を派遣してきていて、そこで楽しそうに飯食ってる傭兵隊はその国で雇われていたけど、給料も貰えないし、戻ると下手したら殺されるので寝返ったんだ」


秀二「情報量が多過ぎてよく分からんが、まあなんとなくは理解した。

で、この世界に大量の金が埋まっていて、それの採掘したいんだけど、そのなんとかという国が攻めてきて邪魔をしているってわけなんよな?

川北マテリアルや川北電機などが加わっているのはどういう理由なんだ?」


秀明「川北マテリアルは(ゴールド)を換金するのを手伝ってくれてる。

川北電機は軍需産業の側面もあるので、こちらの世界を秘匿性の高い実験場として活用したいとか、純粋に開発費用が欲しいなんていう理由があるみたいだな。

で、今のところ信頼出来そうな身内企業を声かけていて、この世界の開拓などに協力してもらう代わりに利益を協力企業内で循環させようと思っているわけなんよ」


秀二「戦争しているのはちょっと心配だけど、やってることはなんとか理解したわ。

で、なぜこの世界は日本と繋がってるんだ?ただのオカルト現象か?」


秀明「この世界に干渉を始めたのは我々が最初じゃないんだよ。

実際、彼女たちが話している言葉はドイツ語だし、文化の多くは現代のドイツのソレと共通している点があるんだよ。

だから、昔からなんらかの弾みで我々の世界とこちらの世界が繋がったことがあったんだと思う。

ただ、この村が最初にドラゴニアから襲われたとき、彼女たちを護ったのはエマさんの証言では日本刀を持った人物だったらしいんだ。

厳密に言うと日本刀を持った幽霊らしいんだけど、これは俺の勝手な想像なんだけど、その幽霊はもしかしてオレらの爺さんじゃないのか?と思うんだよな」


秀二「爺さん?川北財閥の初代会長か?」


秀明「あぁ、裸一貫で川北財閥を興した伝説の男なら、案外そんなことまでやりかねないと思わないか?

あの爺さん、実家は貧乏漁師をしていたとかいうことは分かってるけど、どうやって財を成したのか俺らにも伝わって無いことが多いんだよね。

もしかしたらだけど、案外、爺さんは昔ここに来ていて手に入れた金塊を元に色んな事業を興していったんじゃないかな?と思うんだよな。

俺が引き継いだ鉱山は爺さんが興した会社の中でも最も古いと言われているし、爺さんが亡くなったと言われているのはあの鉱山なんだぜ。

俺らの親父は爺さんの末っ子で歳が60歳も離れていると言ってたけど、そんな息子たちの中で一番のお気に入りだったハズの親父がなんでこんな小さな規模の鉱山を引き継いだのかずっと謎だったんだよ。

親父の兄たちは川北重工や川北電機、川北マテリアル、川北自動車、川北商事など名だたる日本を代表する大企業だぜ。

それが親父だけこんな小さな規模で将来性もないロウ石の鉱山とか、物凄く不自然だったんだよな。

また、爺さんが亡くなったのもこの鉱山だったとか、なんか引っかかる点が多いんだよな」


秀二「うーむ、繋がった理由は分からないけど、爺さんがこの世界になんらかの関与していた可能性は高いということか。

それなら我々一族だけがこちらの世界に来られるというのも納得いくかもな。

でも影山さんも来てるんだろ?

あの人は俺らとは血が繋がってないけどどうやって来たんだ?」


秀明「俺らが運転するクルマに同乗するか、俺らに接触していれば行き来できるんだよ。

それは村人たちも同じことが言えるので、村人のうち何人かは日本に連れて行ったこともあるぜ」


秀二「はー、そういうことか。

それは分かったけど、お前たちが命を危険に晒してまでこの世界で何がしたいんだ?

金儲けなら安全な日本でやってればいいじゃないのか?」


秀明「確かにその通りだけど、最初は成り行きでこの村を助けてしまったからなぁ。

もし、ここでこの村を捨てて日本に我々が帰ったらこの村の女の子たちは全員、ドラゴニアの兵たちに犯され、奴隷にされ、この村そのものが奪われる。

それを息子たちの目の前で指をくわえて見てろと言うつもりか?

それに、その判断は俺がすることじゃないと思ってるんだ」


秀二「じゃあ、誰が決めるんだ?」


秀明「雅彦だよ。ここを最初に見つけたのはアイツなんだ。

確かに鉱山は俺が受け継いだものなのでこの世界自体は俺の物かもしれないけど、雅彦がこの世界に呼ばれたんじゃないかと思ってるんだよ。

実際、見てみろよ?

この村の女の子たち全員そうだし、先ほど降伏して味方になった傭兵隊ですら雅彦に付いていこうとしているんだぜ。

奴は日本にいればトラックドライバーで一生を終えるかもしれなかったんだ。

だが、この世界では奴は王にだってなれるし、英雄になるかもしれない。

また、救世主だとか伝説の存在としてこの世界で長らく語り継がれる男になっていくかもしれない。

俺はその世界を見てみたいんだよ。

俺は人を率いていく能力も器もなかったが、雅彦は違う。

奴は俺が見るに頭領(とうりょう)の器なんだよ。

ただ、まだ世間知らずだし単純過ぎる処もあるので人から騙され易い処がある。

だから、俺みたいな歪んだ大人がサポートしてやるんだよ」


秀二「まぁ、確かに雅彦は不思議な魅力のある男よな。

不思議と手助けしてやりたくなるというか。

もしかしたら爺さんもあんな感じの男だったのかもしれないよな。


…分かった、お前だけの都合なら手伝わないつもりでいたけど、そういう覚悟なんだったら、俺も手伝わせてもらおう。

正直、兄貴だけに任せるのは不安だしな。

それと、俺の長男もこっちに連れてくるわ。

奴も同じようにこの厳しい世界で鍛え上げてくれ」


この何十年間も奇跡的に仲の悪さを維持してきた兄弟は初めて一つの目標に向けて協力するのであった。

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