兵站と始まる開拓
雅彦がゲルハルト率いる傭兵隊を自身の配下に置くことが決まった頃、秀明は日本で兵站に関する仕事に奔走していた。
まず、秀明が最初に手を打ったのは、日本と異世界との間の物流を滞りなくさせる為の工夫であった。
現在、秀明の持つ日本側の鉱山の敷地内に物流センターを急ピッチで業者に作らせているが、それが出来る前までの一時的な措置として、保冷が必要な商品(飲料水やチルド食品など)と、常温保存できる商品とを日本側で受け入れる場所が必要だった。
以前、運送会社に市場で商品の仕入れと鉱山までの配送を一括して任せる契約をした話をしたことがあったのだが、今までは鉱山にそれらの商品を受け取る場所がなかったので食料品などは毎回、比呂や秀明が面倒だけどあちこちで買い出しして、ミッテレルネまで運んでいたのだった。
そこで今回、秀明が用意したのは、二台の4トントラックであった。
一台は保冷機付きの箱が付いたトラックで、もう一台は保冷機は無い箱だけのトラックであった。
仕組みとしてはこうである。
それらのトラックは普段、日本側の事務所の駐車場に置いておく。
そこへ業者が荷物をカゴ台車に満載した商品を仕入れて鉱山まで運んでくる。
着いたら、運送会社のトラックと、駐車場に予め置いてあったトラックの後部同士を繋げて、荷物をそのまま運送会社のトラックから直接、秀明たちのトラックに移します。
荷物はカゴ台車に載っているので女の子程度の力でも楽々移動させれます。
荷物を移し終えた業者は、駐車場の端に秀明たちが置いておいた空のカゴ台車を回収して帰ります。
荷物を受け取った秀明たちは荷物をラッシングベルトでしっかり固定して、4トントラックでそのままミッテレルネに行き、丘を降って村に入り、宿屋や教会など荷物を下す場所に行きます。
荷物はトラック後部に備え付けられているパワーゲートを使いカゴ台車ごと下ろしていって、カゴ台車をゴロゴロ押して荷物を使うところまで直接運んでいって、カゴ台車に載った荷物を必要な時、開封して使います。
カゴ台車が空になったら、また4トントラックに折り畳んで載せて、ある程度空の台車が集まったら、またそのトラックで丘を駆け上がり、日本側の鉱山の駐車場に戻り、折り畳まれた空台車を駐車場の端の所定の置き場に戻す。
そして、また業者は商品を仕入れて鉱山に持ってくる…
これが一連の物流の流れとなります。
この流れのキモとなっているのは、重量物を運んだとしても、荷物の手下ろしなどしなくて済むよう工夫しているので、力のない女性でもラクに運用出来るよう工夫している点だ。
荷物自体はコマ付きのカゴ台車に載っているので、多少地面が荒れていても引っ張っていくことが出来るので、商品を下ろす作業で腰を痛める心配がない。
現時点ではチルド管理しなければいけない商品を保管するのは4トントラックの保冷庫なのでソコだけは少々、面倒な作業が入ってくるのだが、将来的には大型の冷蔵室を用意させて、カゴ台車に積んだままの商品を台車ごと受け入れることが可能にして、さらに作業効率を良くする予定だ。
まあいきなりなんでも出来ないので、こういうことは少しずつカイゼンしていかねばならない。
秀明は元々、こういうシステムを構築する作業は好きなので、結構楽しく手配を進めていった。
誰かも言ってたが「戦争の素人は戦術や戦略を語り、戦争のプロは兵站を語る」という言葉がある。
今までは四十名程度の村の食品や生活必需品の補給だったのでまだそれほど苦労はなかったのだが、雅彦はおそらく、50名ほどもいる傭兵隊を味方に引き入れるだろう。
そうなってくると食料品などの補給がたちまち滞ってしまう。
そうならない為に、以前からコツコツと兵站の仕組みを強化していたのだ。
実は、兵站の強化に欠かすことの出来ない要素が一つ、まだ残っていた。
それは、「ミッテレルネ側の土木工事や建築などを請け負ってくれる業者」の存在であった。
「日本側」の工事を行う業者の選定は特に問題はない。
今も秀明の鉱山の入り口に近い敷地内に物流倉庫を建てているが、施工能力があれば誰でもカンタンに任せることが出来る。
だが、異世界側、つまりミッテレルネ側の土木工事となるとそうはいかない。
情報を他所に漏らさない情報セキュリティがしっかりしている業者、信頼に値する知り合いの業者に限定されるのだ。
秀明はその条件をクリアする唯一の業者を知っていた。
それは秀明の実の弟でもある、小畑秀二が運営している建築会社であった。
彼の会社は別に川北財閥のグループ企業でもなんでもなく、秀二が独力で興して育て上げてきた会社であった。
彼の会社に目を付けた理由は実はもう一つある。
それは「秀二も小畑一族であるから、おそらく単独で異世界と日本の間を行ったり来たり出来る」という点がある事だ。
影山などは小畑一族ではないので彼が異世界に行こうとすると、秀明のクルマに乗るか、秀明たちに接触したまま境界線を越えなければならないので、多少手間がかかる。
だが、一族なら勝手に行き来してくれるので楽が出来るのだ。
そういう意味では秀二は結構、貴重な人ではあるのだが、これまで秀明が彼に声をかけるのをためらっていたのは、秀明と秀二は昔から仲が良くなかったためだった。
秀明の二つ歳下の秀二であったが、昔から勉強にしても剣道にしても秀二の方が何をするにしても良い成績をあげていた。
彼らの親父も秀明より秀二を可愛がり、秀二が剣道の大会に出る時は忙し合間を縫ってよく観戦に来ていたものだった。
正直、秀明は親父や秀二と性格的に相性が良くなかった。
どうもすれ違いが起こるというか、なんでもない事でお互い反発したり、喧嘩になりやすいのだった。
それでも秀明がまだ小学生の頃は当時から頭角を現し始めていた秀二に剣道では負けなかったのだが、中学に上がってからは、秀二の体格が急に良くなったことや、彼の方がセンスも良かった事などもあり、負けないようにするのに必死な状況になっていた。
中学生の頃には秀二は全国大会の個人戦でも二位に入るほど強くなっていたのだが、秀明や影山あたりは良くて県で一位とか二位程度なので側から見ても強さは圧倒的だったのだ。
まあ、剣道なんてものは体重などによる階級制がない無差別級の競技みたいなものなので、秀明や影山みたいな小兵の剣士は体格も良くて正統派の剣術を駆使し、まともな稽古を積んできている相手には実際のところ歯が立たないのだ。
初見の相手なら秀明たちの姑息な技の数々も通用する事が多いのだが、彼らの技を知り尽くした相手にはアドバンテージも無いのでひたすら苦戦することになる。
そのような事もあり、成人する頃までは秀明は弟とは仲が悪かったのだ。
成人してからは喧嘩こそしなくなったが、お互いの仕事が忙しくなっていたこともあり、顔を合わせる機会はほとんどなかった。
最近、顔を合わせたのは母親の葬式の時で、その時初めて二人は酒を一緒に飲み、昔本気でやっていた剣道の話で盛り上がっていたのだった。
その時、秀二と「え?アニキはまだあの影山と付き合いあるの?」という話になった事があった。
秀二からしても2歳年上でライバル関係のある道場の影山という剣士はやりあう機会が多かったので「アニキ以上のくせ者」というイメージが強烈に焼き付いていたそうだ。
どんな体勢からでも鋭い小手を狙ってくるだの、小手を打ったら物凄く審判にアピールするだの、だまし討ちみたいなことも平気でしてくるだの、散々な評価だったが、「とにかくやり難い相手だった」という印象があったみたいだ。
影山に比べれば、秀明の方がまだ正統派に近いのだが、秀明はとにかく瞬発力が高かったので縦の動きで相手を仕留めることが多かったのに対して、影山は左右上下と立体的な変則的な動きで撹乱することを得意としていて、チョコマカ系なのは同じなのだがタイプは少し違っていたのだ。
秀二は息子にも剣道をやらせていて、彼曰く「オレほど強くないけどそこそこ強い」らしい。
秀明も秀二の子供達を見たことがあるが、子供の頃の記憶しか残っていなかった。
今では長男の方が秀二の会社に勤めているようだった。
秀明はしばらくの間は連絡するのをためらっていたが意を決して、弟の秀二に連絡して会うことにした。
電話で連絡すると「兄貴が電話してくるとか意外だな」という言葉が返ってきた。
ひとまず秀二の会社で会うことにしたのだが、異世界の話は当面伏せておくことにした。
いきなり「俺の鉱山の事務所の裏が異世界と繋がってさあ…」なんて言ってしまうとアホ扱いされかねないし、ヤツも忙しいだろうから、即ビジネスの話をしたかったから、異世界の話を明かすのは影山の時みたいに直接、連れて行った方が早いと思ったのだ。
秀二は当初、秀明がお金を借りに来たのかと思っていた。
彼も風の噂で秀明の鉱山が閉鎖寸前だと聞いていたからだ。
だが、話を秀明の話を聞いて驚くことになる。
「舗装工事とか建物の新築やリフォームとかをかなり大規模にしたいから手伝ってくれないか」という意外な提案だったからだ。
おや?なんで急に金回りが良くなったんだ?変な商売でも始めて一発当てたのか?
「現地を見てくれた方が早い」という事になり、秀明は秀二を乗ってきたランクル80の助手席に乗せ、鉱山へと走り出した。
秀二「アニキは相変わらず、こんな乗り心地の悪いクルマが好きなんだな」
秀明「いや、これは次男の比呂の車だせ、といってもこれから奴に納車するんだけどな。
ちなみに帰りは軽四なw」
秀二「おいおい、マジかよ。おれはレクサスしか乗らないぞ」
まあ、これは嘘だ。
現場に行くときはトラックに乗ることもあるし、ハイエースロングに乗ることもある。
レクサス持っていることは間違いないが。
秀二「これから納車とか、まだヒロはこれに乗ってないのか?」
秀明「そうだよ。さっき隣の県まで電車で取りに行った帰りだからな。
これでも普段乗ってる俺のクルマより遥かに乗り心地いいけどな」
秀二「そういや、景気はどうなのよ?葬式で会ったときは相当厳しいと聞いてたけど、急に良くなるとかなんかやってるわけ?」
秀明「あぁ、まあ色々やってるわ。
最近は川北マテリアルや川北電機とも提携してるぜ。
ある極秘プロジェクトに絡んだ話だけど、守秘義務がある話になるが問題ないよな?」
秀二「は?冗談だろ?なんで川北マテリアルとかと付き合いあるわけ?
ろう石の新たな活用法とか開発したとか?」
秀明「いや、ちょっと違うな。これ見てみ?」
秀明はポケットから金塊を取り出し、秀二に手渡した。
秀二「なんだ、これ。もしかして金塊か?なんでこんな物持ってるんだ?」
秀明「金塊が俺の山から継続的に採れるようになったから、といったら驚くよな?
その小さな塊で約100万円分と言ったところかな?
お陰でいま、お金で良ければ腐らないけど結構ある訳なんだよ。
ただ…」
秀二「ただ?」
秀明「ただ、金のある場所が少し問題があってだな。
このプロジェクトは俺ら一族の極一部で共有されつつある極秘計画なんだわ。
国やマスコミとかに嗅ぎつけられるとかなりマズイ。
もし、秘密を暴露したらヤバい所から圧力がかかる案件だということは覚えておいてくれ」
もちろん今のところはヤバい所などどこにもないけどね。
秀二「まあ、なにがなんだかわかんねぇけど、行ってみよう。
ドッキリとかだったらしゃれにやらないからな」
秀明「見てみれば分かるさ」
二時間ほど走り、秀明の鉱山にたどり着いた。
正門から少し入ると、右側に建築中のかなり大きな建物が見えてきた。
秀二「うわ、懐かしいな、親父が亡くなってから初めて来たわ!
それにしてもあの建物は何だ?鉱石でも保管するのか?」
秀明「いや、あれは物流センターだ。
今、社員は約40名、いや今日で90名ほどになったので彼らの生活を支える為の物資の安定供給が必要なんだわ」
秀二「社員が90名?金塊が採れる?意味分かんないな」
秀明「そうだろ、もう現場に着くな」
こうして事務所の裏の異世界との境界線を越えて、いつものようにミッテレルネの丘の上に辿り着いたのであった。
秀二「なっ!!なんだこりゃ?!急に景色が一変したぞ!」
それまで森の中に居たハズなのに一瞬で開けた見晴らしの良い丘の上にクルマごと移動して来たのだ。
驚くのも当然だった。
秀明「異世界にようこそ」
秀明は満面の笑みを浮かべそう言ったのだった。
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