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秀明の過去

比呂が異世界で撮影していた動画をテレビモニターにつないで再生していたものを三人で観ていた。


一通り見直した後で秀明は、「やっぱりコレはドイツ語だぞ」と言った。


自己紹介のところで彼女が話していた言葉は

「Mein Name ist Emma」と言ってるな。


つまり、マイネームイズ エマ だわ、と。


そんなことなんで知ってるの?と聞かれたので、息子達2人がまだ小さかった頃にドイツに三ヶ月ほど出張に行ったことがあるんだわ。


だから簡単な挨拶程度と数字くらいならまだ分かるで、とのことだった。


ちなみに現地では小畑という姓を「オーバタ」と呼ばれていたのだとか。


ふーん、と聞いていた息子二人であったが、雅彦は至極真っ当な疑問を口に出した。


「あの世界ではドイツ語を話しているらしいけど、ドイツじゃないよね?なんとなくドイツに似てると言えなくもないけど」


言われてみると確かにその通りである。


判断材料があまりにも少ないので考えるだけ無駄なので、とりあえずこれからのことを考えてみることにした。


雅彦「ドイツ語ってことが分かったということは翻訳はなんとかなるんじゃないの?自動翻訳機とか無かったっけ?」


秀明「携帯の電波が届けばスマホである程度翻訳出来そうだけど、あちらの世界には当然、基地局とかないもんな」


比呂「日本からWi-Fi のアンテナを伸ばせないかな?そしたらひとまず電波が届く範囲ならあちらの世界でもネットが繋がるんじゃない?」


秀明「そういうことはヒロが得意だろう、試してみてくれ」


比呂「分かった、やってみるわ」


日本の事務所にあるインターネットのルーターから有線で延々と異世界にアンテナを伸ばしていくというなんとも強引な技をやってみるとのことだった。


ここには何十メートルもの延長ケーブルは無いのでこれから電器屋に買い出しに行ってくるわということで自分の軽四で出かけて行った。


秀明「お前も買い出しに行ってこいよ。メニューは任せるから今度は異世界で彼女たちに何か振舞ってやろうぜ」


雅彦も「おう」と返事して彼のランクルで出かけて行った。


一人、事務所に残った秀明はインターネットでアレコレと情報収集をすることにした。


彼らが持っているiPhoneはネットさえ繋がればドイツ語なら日本語に通訳出来ることは改めて確認した。


「自分の鉱山の事務所の裏の道と繋がっている異世界」


「地球と同じようだが微妙に違う環境」


「白人と思われるドイツ語を話す人たち」


「中世レベルで止まっている文明レベル」


これらをパソコンのモニターに入力して思案してみた。


いままでのことでここまでのことは既に分かった。


あとあの村ならではの特殊な事情と思われるものが「男性がほぼ存在しない」ということだった。


大人の男性は居ないが子供達は居るということは、つまり以前は大人の男性も普通に居たのだが、今はなんらかの事情で居ないと思うのが自然なことだと思った。


仮にだ、あの世界は現在我々が住んでいる現実世界の平行世界(パラレルワールド)であるとして、なんらかの事情で日本とその異世界が繋がっているのだとしよう。


どう考えても非科学的な現象が現在進行形で起こっているということは間違いないのだが、それなら我々も知らないなんらかの高位の存在、つまり一般的に言うところの「神」が我々の世界と異世界をつなげたのではなかろうか?と思うのであった。


日本には神様が八百万柱もおられるそうなので、そのうちのいずれかの神様がなんらかの理由でこのような現象を起こしたのじゃないか?


まあ、全く根拠はないのだがあの入り口を最初に見つけたのが雅彦であることが案外重要なのではないか?


彼があの世界でやりたい事が、その「神」と呼んでいいのか分からない存在が望むことだとしたら?


彼があの世界を支配したいと言えば、それが神の望みなのだろうか?


かの世界の住人は美女揃いなのでハーレムを築きたいと言えばそれが神の望まれることなのだろうか?


もしかして後になって自分がかの世界に導かれたのは、息子である雅彦がとんでもない人道に反するようなことをし始めたときに彼の首根っこを捕まえて矯正させる役目が与えられたのだとしたら?


しばらく黙り込み、それらのことを思案する秀明であった。


…………………………


彼は現時点で52歳になっていて、以前から書いているように親から譲り受けた鉱山を経営している。


だがバブルが弾けたのをキッカケに国内で生産する蝋石の需要が極端に落ちて、会社の経営は急激に悪化した。


それからと言うもの彼は死にものぐるいで働き、ここではちょっと言えないようなダークな仕事にまで手を出した時期もあった。


ドイツに仕事で行った経験があるというのもその一環で、ドイツ以外にも約10ヶ国程度は仕事で訪れた経験がある。


ただ、それでも会社の経営は苦しく、あちこちで借金を増やし、借金返済に追われる日々が始まった。


その頃、息子二人はまだ小さく、親父は外で家庭を省みる余力もなく働き続けていたので嫁がキレてしまった。


具体的に言うと秀明と嫁の共通の知り合いの男と不倫をして家を飛び出したのだ。


つまり、今流行りのNTR(ネトラレ)である。


子供二人は嫁が連れて出てしまい息子たちとも音信不通の状態に陥っていた。


嫁達との連絡が出来なくなったことを不審に思った秀明が自宅に戻ると高価な家具やパソコン、秀明の仕事用の車などが無くなっていて、さらに自分の実印までなくなっていた。


そんな中でも狂ったように働き続けた。


そしてあらゆる事業に手を出していた効果がやっと少しずつ出始め、鉱山以外からの収入でやっとそれなりの生活が出来るようになった。


だが、肝心の鉱山の方は従業員も少しずつリストラせざるをえなくなり結局は秀明だけが残される結果となったのだった。


親から残された鉱山だけはなんとか守り抜いたが、それ以外の物は悉く失ってしまっていた。


残されたのは山で遊ぶために使っていてボロボロになっていたため、嫁も売り飛ばさなかったランクル70だけであった。


元々陽気な秀明もコレらのことで心労が祟り、しばらくは誰とも会わない荒れた生活を送るようになっていた。


嫁を探そうかとも思った時期もあったが、その忌まわしい出来事を思い出すだけで体調を崩すようになったので仕事のみに没頭する日々を続けた。


だが、何年かしたある日、鉱山の事務所で相変わらずパソコンを相手に仕事をしている秀明の処に学生服姿の長男である雅彦がひょっこりと現れたのだった。


これには流石に驚く秀明。


てっきり元嫁と子供たちは県外に出ていたのかと思っていたが、なんのことはない元住んでいた所の隣の市に移っていただけだったのだ。


高校生になった長男は母親との折り合いが悪くなったので出てきたということだった。


そこで初めて元嫁は秀明の実印を持ち出して勝手に離婚届けに判を押していたこと、秀明も知っている男と母親が一時同居していたこと、元嫁がその相手と別れて今は独りに戻って経済的にも苦しくなっていること、ヒステリックな性格に磨きがかかっている事などを聞かされた。


これを聞かされた秀明だが、驚くほど彼の心は動かなかった。


元嫁には悪いが彼女が苦労しているのは自業自得に思えた。


苦しい時は共に手を取って苦労を共にすると結婚するときに誓ったはずなのに、秀明の事業が傾くと子供達の安全を守るためだとか言いながら勝手に金を持っていた知り合いと不倫して逃げてしまったからだ。


おかげ様で「超」が3つ付くほどの極端な女性不信に陥っていた秀明は、異世界の女性がいくら綺麗だとしても全くと言っていいほど心が動かないのであった。


ただ、そんな自分を変えたいという自分も存在していた。


息子の雅彦に連れて行かれたあの異世界は自分をどう変えていくのか?


自分の人生も後半に差し掛かり、これまでは何一つ褒められたことは出来なかったが、ここに来て自分にも何かの役割がまわってきたようだ。


子供達のためにも鉱山以外に何かを遺してやりたい、そう思う秀明であった。

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